この本には今まで僕の知識として曖昧だった、食事と代謝の関係が良く説明されています。
特に豊富な参考文献の量は圧倒されます。これだけ調べ上げただけでも、相当大変だったろうと思われます。
この本は肥満の原因が食べすぎや運動不足とは全く関係が無く、ただ単にホルモンバランスの問題であると説明しています。
特に肥満を引き起こす主要ホルモンはインスリンであり、ダイエットではいかにインスリンコントロールをし、インスリン抵抗性を改善させることが重要であるかが説かれています。
肥満と2型糖尿病とは本質的に同じ疾患であり、ゆえに「Diabesity(糖尿肥満)」と考えるべきことが示され、インスリン分泌を低下させる方法と、インスリン抵抗性を改善させる方法を丁寧に説明しています。
最近よく聞く「間欠的ファスティング」も、なぜ必要か、何に有効か、いかに為すべきかが論理的に書かれていて、これを理解することで効果的にファスティングを行うことができるようになるでしょう。
というか、この本の知識を持つと、いかに巷で叫ばれているファスティングの考え方や実践法が間違っているかもまた、良く分かるでしょう。
これは健康や食の専門家なら絶対に読むべき本であり、また一般の人でも健康に関心がある方にはぜひ読んでもらいたい本です。
今アメリカでは、間欠的ファスティングやボーンブロス・ダイエットが流行しています。
日本でも間欠的ファスティングやボーンブロス・ダイエットの話題を耳にすることが多くなりましたね。
第1章、疫学
アメリカでは肥満や過体重の人が近年非常に増大し、社会問題となっている。
それに伴い糖尿病や心疾患、脳血管障害などもまた増加している。
肥満には家族性の要因も確かにあり、双子を用いた研究によると、遺伝的要因は70%でみられる。
ところが近年、特に1950年以降に増大し始め、70年以降に急速に増大した肥満人口を遺伝では説明できない。
これは恐らく、肥満には遺伝的要因もあるけれど、それ以上に生活習慣の変化、特に食生活の影響が大きい。
第2章、カロリー神話の嘘
栄養学者や医者は、肥満はカロリーの摂りすぎであると長い間主張してきた。
しかし過去に行われた食事と体重変化の研究を見れば、カロリー摂取と体重増加とは関係が無いことが示され続けている。
ミネソタ飢餓実験など、この分野の研究は多岐にわたるが、結果はすべて同じことを示している。
つまりは摂取カロリーを減らしても、代謝が低下するために体重は減らなくなる。
体温は低下し、活動性は低下し、食欲は増大し、思考力が低下する。そして元の食生活に戻ると、体重はすぐに元に戻るばかりか、代謝が低下しているためにもっと太ってしまう。
肥満は運動不足が原因だという説もまた、実験結果からは完全に否定されている。
肥満の原因の95%は食事にあり、運動は5%に過ぎない。
運動はほとんどカロリー消費を増やさないが、食欲は確実に増大させ、摂取カロリーを増加させる。
これが運動で痩せられない理由である。
逆にたくさん食べるとどうなるか。
たくさん食べると体重は増加するが、代謝も上がり、通常の食事に戻ると体重は速やかに元に戻る。
体には体重を一定に保つようなサーモスタットのような働きがあり、これは生体恒常性によるものと考えられる。
第3章、肥満の新しい考え方
肥満はカロリー摂取とカロリー消費のバランスが崩れるために起こるのではない。
カロリー摂取は脳下垂体の摂食中枢で自動的に調整されている。
脳下垂体は、食欲のコントロールによって摂取カロリーを厳密に調整し、また代謝を変化させることによって消費カロリーも厳密に調整している。
この調整機能に影響を与えているのはホルモンであり、特に肥満に密接に関係しているホルモンは、インスリンである。事実、肥満者は痩せている人よりも空腹時インスリン分泌が多く、また摂食時の追加インスリン分泌も多い。
肥満とインスリン分泌量は密接に関係しているのだから、インスリン分泌をコントロールすることこそ、ダイエットの本質である。
インスリンが肥満ホルモンであるのなら、インスリンを投与すれば投与しただけ誰であっても太ることになる。
そしてこれは、まさに真実である。逆にインスリンが分泌されなくなれば、どんな人間でもやせ細っていく。
インスリンがたくさん分泌されるようになるのはなぜか。
それは「インスリン抵抗性」が起こるから。
インスリン抵抗性(インスリン耐性)はなぜ生じるのか。それはインスリンが大量に、かつ持続的に分泌し続けるからである。
コルチゾールもまた、肥満ホルモンである。
コルチゾールは肝臓で糖新生を亢進することで血糖値を上げる。
このためインスリンが追加分泌され、肥満が起こる。
コルチゾールはストレスに反応して放出されるホルモンであり、ストレスの原因として最も多いのが、睡眠不足である。
インスリンは血糖値を低下させるホルモンであり、血糖値を大きく上昇させるのは糖質である。
だから糖質を控え、タンパク質と脂質をたくさん摂れば、インスリン分泌を抑えることができ、効果的に痩せられると考えた人は昔からいた。
このコンセプトで1972年に出版された「アトキンス博士のダイエット革命」は、アメリカで爆発的にヒットした。
これは実際に有効であることが臨床研究によって証明され、糖質制限が一躍注目されるようになった。
しかし長期研究では他のダイエット同様、アトキンスダイエットでもリバウンドが起こることが証明され、ブームは過ぎ去ったかに思われた。
そもそも栄養学界が糖質制限に批判的な理由に、アジアの糖質摂取と肥満の関係があった。
アメリカやイギリスと日本はほぼ同じ量の糖質を摂取していて、中国はさらに多くの糖質を摂取しているにもかかわらず、日本や特に中国では、肥満が極めて少ない。
しかしこれは、砂糖の摂取量で比較すると一目瞭然で、日本はアメリカの半分で、中国に至っては極めて少ない。
これがチャイナパラドックスとして知られる、日本や中国で肥満が少ない本当の理由である。
糖質量そのものではなく砂糖の摂取量が肥満と関係するのである。
食事と減量の研究は、短期的には成功しても、長期的にはリバウンドしてしまうものばかり。
どれだけ体重を減らしても、長期的に必ずリバウンドしてしまう原因は、インスリン抵抗性にある。
インスリン抵抗性はなぜ生じるかを理解するためには、他の抵抗性のメカニズムを理解するのが良い。
抗生物質は使い続けると抗生物質に耐性を持った菌が生じてくる。
さらに強い薬を開発しても、やがて耐性菌が現れる。耐性菌は死滅しない程度の弱い刺激を長期間与え続けることにより生じる。
ウイルス抵抗性も基本的には同様である。
薬剤の抵抗性もまた、薬を持続的に使い続けることによって効果が減弱していき、より多くの薬を用いないと効かなくなる。
インスリン抵抗性も同様で、持続的な追加分泌が抵抗性を生み、インスリン抵抗性がさらなる分泌量の増大を引き起こすという、悪循環を招く。
インスリン抵抗性こそが、体重を決定しているサーモスタットの本態である。
1970年以降に急激に肥満が増大した背景には、間食の増加がある。
食事をするとインスリンが分泌されるが、1970年以前の一般的なアメリカ人は間食をしなかったため、インスリンの追加分泌が起こっている時間と起こっていない時間とが釣り合っていた。
しかし1990年になると、食事と食事の間に間食するようになり、インスリンの追加分泌が常に起こるようになって、分泌している時間としていない時間とのバランスが崩れた。
持続的なインスリンの追加分泌はインスリン抵抗性を増悪させる。
増悪したインスリン抵抗性はさらなるインスリンの分泌増加と体重増加を引き起こす。
つまり間食は体重のサーモスタットを上げるのだ。
第4章、社会現象としての肥満
第二次世界大戦後、アメリカでは巨大食品会社が安価で大量に手に入るようになった砂糖や穀物を用いて加工食品を大量生産し、巨万の富を築き上げた。
彼らはお金を出し合って基金を設立し、栄養学や医学の研究機関や臨床現場に資金を提供するようになった。
1950年代ごろから急速に増えてきた心疾患の原因に関して、砂糖が原因だと主張する研究者もいたが、基金は主に肥満と心疾患増加の原因はカロリーの摂りすぎ、脂肪(特に飽和脂肪)の摂りすぎが原因であると主張する研究者に資金提供し続けた。
この論争は1970年代の終わりごろに、主に科学的にではなく、政治的に決着した。
脂肪とコレステロールは(根拠も無いのに)正式に悪者とされ、ヘルシーな野菜や穀物主体の食生活にするよう、政府が主体となって国民に宣伝された。
アメリカ心臓病学会やアメリカ医学会は、この主張に完全に同意し、患者に肉や油を減らし野菜と穀物主体の食生活を指導した。
間食は奨励され、朝食からたっぷりと食べるよう指導され、果物と野菜は完全に良い食べ物であるとされた。
しかし栄養学者や医者の期待とは裏腹に、肥満と糖尿病、心疾患は増え続けた。
貧困と肥満とは密接な関係があることが知られている。
事実、アメリカでもっとも貧困な地域は最も肥満が多い地域でもある。
それでも2010年にアメリカで最も肥満が少ない州の肥満者の割合は、1990年に最も肥満の多かった州の肥満者の割合より多い。
貧困層に肥満者が多い理由は、安くて量が多い食べ物というのはたいてい加工食品であり、大量の砂糖と精製穀物からできているから。
水分補給も貧困層は主にソーダ飲料で行い、これには大量の砂糖が含まれている。
子どもの肥満と2型糖尿病の増加もまた、アメリカでは大きな社会問題となっている。
子どもにもっと運動させ、食べるカロリーを減らす実験や運動は、多分に漏れずまたことごとく失敗し続けているが、政府や関係者は全く反省しないようだ。
子どもの肥満もまた間食の増加と砂糖や精製穀物の摂取増加が原因となっている。
親が砂糖や精製穀物の摂りすぎでインスリンの過剰分泌になると、胎児は母親のおなかの中で、インスリンのリンスを受け、胎児からインスリン抵抗性が起こる。そうやって生まれた子どもは太りやすくなり、成長し太った親となり、太った子どもを産む、の悪循環が続く。
第5章、我々の食事の何が間違っているのか
砂糖がデンプンよりはるかに危険なのは、果糖が含まれるから。
果糖は血糖値に関係せず、急激なインスリン分泌も引き起こさないが、ダイレクトにインスリン抵抗性を上げて肥満の原因となる。
果糖はブドウ糖と違い、細胞のエネルギー源として利用できず、肝臓で脂肪となり脂肪肝の原因となる。
ブドウ糖と果糖を投与した実験では、果糖はインスリン抵抗性を著しく引き上げたが、ブドウ糖はインスリン抵抗性を上げなかった。
果糖の消費量の増大は肥満の増大と直接的な関係を持つ。2型糖尿病は、砂糖の消費量の増加から10年遅れて増加してくる。
ダイエット飲料などに使われる代替甘味料もまた危険である。
人工甘味料としてサッカリン、アスパルテーム、ネオテームなど、自然の物質としてステビアなどがあるが、これらは全て血糖値をほとんど上げないけれどインスリン抵抗性をダイレクトに上げる。
全ての代替甘味料はインスリン抵抗性の増大、食欲の増大を引き起こし、例外はない。
食べ物によって血糖値の上昇具合が違うことから、GI(グリセミック・インデッ