腸の主な働きには消化吸収と免疫がありますが、もう一つ重要な作用があります。
それは解毒機構です。腸の解毒には主に「大腸」が担っています。
大腸では小腸で消化吸収できなかった食べかす(食物繊維や未消化タンパク)を、共生するバクテリアによって再消化します。
バクテリアが分泌する消化酵素のほとんどが、私たち人間の体が保持していない酵素ばかりです。
このとき、バクテリアはビタミンB1,B2,B6,B12,葉酸,ビタミンK、そして酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸や乳酸などの有機酸も同時に分泌し、私たちの腸内環境の健全化をはかってくれます。
ところが良いことばかりではありません。
バクテリアは未消化タンパク質を分解するときにインドール、スカトール、アミン、フェノール、硫化水素、アンモニア、クレゾールなどの腐敗化合物を生成したり、さらに動物性脂肪過多の食事をしていると胆汁酸を有害な二次胆汁酸へと変換してしまうのです。
これらの有害物質が大腸に蓄積すると、大腸がんを引き起こしてしまいます。
とはいえ、タンパク質は私たちの体にとって重要な構成成分であることは言うまでもありません。
では、私たちはこれについてどう解決していけばよいでしょうか。
ここでは腸の視点で考えていきます。
①タンパク質を摂るときは必ず食物繊維も摂取する
食物繊維によって生成された短鎖脂肪酸や乳酸が、(アルカリ環境である)大腸内のpHを低下させ、一時的に弱酸性にします。これがポイントです。
大腸内のpHが低下すると、有害物質である二次胆汁酸やインドール、スカトール、アミン、フェノール、硫化水素、アンモニア、クレゾールなどの腐敗化合物の生成が抑制されることがわかっています。
このpH下(弱酸性)であれば、大腸でインドールやアンモニア等が発生しても腸から吸収されることはなく、そのまま便で排泄されます。
しかし、タンパク質のみの摂取だと、腸内のpHは高くなってしまい、腸内細菌は一時的に減少し、バクテリアが生合成するタンパク質は作られず、窒素分が多くのアンモニアになってしまいます。
腸内のpHが高くなったままだと(7.2~8.0)、正常な発酵作用は減少し、代わりに有害な腐敗作用が増え、有害物質の吸収がされやすくなります。
②高繊維・炭水化物のみの摂取はしない
こうした腸内環境のことを考慮すると、タンパク質は入れずに、高繊維の炭水化物食のみを続けた方が良いのではという考えに安易に陥ってしまうかもしれません。
ところが、大腸で正常な発酵を保持させるには、大腸に流入する「炭水化物/窒素」バランスが重要となってきます。
大腸内に窒素源(タンパク質)が制限された状態で、大量の炭水化物(食物繊維や糖質)を供給してしまうと、腸内では解糖系(基質レベルのリン酸化)が亢進され、発酵産物として乳酸やコハク酸が大量に生成されてしまいます。
そうすると、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度は低くなり、大腸pHを極端に低下させてしまうのです。
しかし、きちんとタンパク質由来の窒素源が存在していれば、乳酸やコハク酸の濃度は低下し、短鎖脂肪酸の濃度は上昇するため、pHも理想的な弱酸性になります。
つまり、適当量のタンパク質(窒素源)は、大腸での正常な発酵を維持させるのに重要なのです。
意外かもしれませんが、タンパク質を抜いた高繊維食のみでは大腸環境の健全化を維持できないのです。
以上をまとめると、大腸の腸内環境の健全化や正常発酵には、「炭水化物/窒素」バランスが重要となってくるため、(食物繊維入りの)炭水化物と(窒素源となる)タンパク質とのバランス&供給が必要であり、どちらかに偏った食生活をするのではなく、どちらも摂取することが大切なのです。