ファスティング、低糖質食、ケトン食、カロリー制限食などを続ければ当然細胞内のエネルギーレベルが低下します。
こうなるとATP消費の方が亢進するため、ADPの増加だけでなく、AMPの増加も起きます。
※ATPのTはトリ、つまり3つのリン酸。ADPのDはジ、つまり2つのリン酸。AMPのMはモノ、つまり1つのリン酸を持つという意味。
細胞内のエネルギーレベルが低下するとATPは減り、代わりにADPが増加し、ついにはこのADPも分解され、AMPの増加が起きます。
そうすると、AMPによってAMPキナーゼ(AMPK)という酵素が活性化されます。
AMPK は、老化制御のマスタースイッチであり、細胞内のエネルギーセンサーとして重要な役割を担っています。
AMPKは、小型脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンという善玉のサイトカインに依存し活性化しますが、他にも方法はあります。
絶食やファスティング、低糖質食、少食やカロリー制限、ケトン食、運動などにより、細胞内にグルコースを枯渇させることでも起きます。
最近では温熱療法による熱ショック・ストレスに細胞が応答して活性化されることもわかっています。
AMPKが活性化されると、細胞内のさまざまなタンパク質にエネルギー不足が伝えられ、これによりそれぞれのタンパク質にリン酸化が亢進され、生体内の酵素反応などが向上します。
そしてこのAMPKは脂質代謝を向上するのに非常に重要な働きもします。
AMPKはサーチュイン遺伝子と呼ばれるSIRTや、NRF(核呼吸因子)を活性化する働きがあります。
ただし、このとき細胞内のNAD+/NADH比が上昇していることが前提になります。
(※NAD+は食べ物から受け取った電子のキャリアであり、電子を受け取ってNADHになるわけですから、NAD+が多いと言うことは食べ物の供給が止まっている状態、または供給よりもエネルギー消費が多い状態のことです。)
活性化されたSIRTは、ミトコンドリアを高性能にするPGC1αというタンパク質の活性を高めます。
どれだけ脂質代謝モードにもっていこうとミトコンドリアの機能が低下していては代謝がうまくいきません。
高性能ミトコンドリアを維持することは一つのカギとなってきます。
SIRTは他にも抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ)の働きを良くするFOXOという転写因子を活発にすることがわかっています。
さて、SIRTのメインの役割は、脂肪酸がβ酸化されて生成されたアセチルCoAをケトン体代謝に進める最初の酵素HMGCS2を活性化することです。
この酵素がスイッチONにならないとケトン体モードに入っていきません。
HMGCS2酵素が活性化されるといよいよアセチルCoAは中間体であるHMG-CoAに変換され、ついにアセト酢酸というケトン体が生合成されます。
しかし、アセト酢酸はその性質上アセトンに代謝されやすいため、ここである酵素が活性化されることにより、これを防止し、エネルギー源となるβヒドロキシ酪酸というケトン体に代謝する必要があります。
この酵素はBDH1と呼ばれ、この酵素のスイッチが入るときはやはりNAD+依存性です。
NAD+/NADH比が上昇した状態であることが条件なのです。
こうして脂質代謝が成功するわけですが、ここで注意が必要です。
それはそもそも細胞内の脂肪酸がβ酸化されるにはPPARαという転写因子が活性化される必要があります。
PPARαが活性化されるには上記のような細胞内のエネルギーレベルにも当然影響していきますが、栄養素にフォーカスすれば、EPA、DHA、ビタミンA,E、ナイアシン、鉄、アスタキサンチンなどがPPARαの活性化には必要である、または促進させることが報告されています。
PPARαは脂質代謝因子の働き以外にも、抗炎症作用、抗腫瘍作用、インスリン抵抗性の改善、HDLコレステロールの上昇、sd-LDLの減少など多岐にわたり、私たちの体を健全化してくれる重要な転写因子です。
ちなみに、インスリンが全身に運ばれて細胞膜にあるインスリン受容体に結合すると、PI3K/Akt経路が促進され、mTORというシグナル伝達物質が活性化されます。
mTORはタンパク質合成や細胞増殖に必要ですが、宿主の不摂生な食生活などにより多量のインスリン分泌が亢進してしまうと、このmTORが持続的になり、がん細胞までも増殖させてしまったり、動脈硬化を引き起こすことになります。
さらに、mTORの亢進はオートファジー(老朽化したタンパク質のリサイクル作用)を抑制してしまったり、インスリン抵抗性を引き起こしてしまう原因となります。
脂質代謝はさまざまな条件で成り立っています。
もし代謝改善がなかなかスムーズにいかない人はこれらをヒントにしてみてはいかがでしょうか。
※脂肪燃焼には当然ながら筋肉(赤筋)が必要です。
これが無い人はこれ以上、下記を読み続けても難しいかもしれません。
女性は特に筋肉不足(≒ミトコンドリア不足)の人が多いのでまずはこれを解消してください。