脂質代謝(脂肪燃焼)の利点は、何と言ってもエネルギー量です。
解糖系エネルギーは(酸素下で)ミトコンドリアに届いてようやく38ATPですが、脂質代謝では129ATPも作れます。
ただし、脂質代謝がいつも129ATP作れるかというとそうではないらしいです。
生化学者ニック・レーン(※)の話をまとめると、ATP量はミトコンドリアの「質」によるため、必ず129ATP作れるわけではないのです。
考えたらそうですよね。
ATPを作るのは主にミトコンドリアの内膜における電子伝達系です。
電子伝達系で、電子の受け渡しがひたすら行われることによって、ミトコンドリアのマトリックス(内側)から膜間スペース(外側)にプロトン(H+)を汲み出し、ミトコンドリアの内側と外側に電位差が生じるため、まるでダムのように、膜間スペース(外側)からマトリックス(内側)へとプロトン(H+)が流入にします。
このときに、ATPを作り出すわけですから、ミトコンドリア(ダム)が老朽化していれば、当然ATP量は低下するでしょう。
(ちなみに、ミトコンドリア内膜はイオンを通さないから、こうした内外の膜電位が生じるのです)
さて、脂質代謝では上記のように細胞質ではなくほとんどがミトコンドリア内で行われます。
そのため、まず重要なことは高性能なミトコンドリアを保持している必要があります。
さらに言えば、主に脂肪を燃焼する部位は筋肉(赤筋)ですので、赤筋が少ない人はなかなか難しいかもしれません。
次に大切なことは「カルニチン」を細胞内にきちんと持っているかどうかです。
効率の良いエネルギー代謝を維持するには、カルニチンの存在がとても重要になってきます。
カルニチンは、簡単に言えば、原料となる脂肪酸をミトコンドリアに届ける運搬車です。
脂質代謝にしようとして、どんなに絶食しようが、どんなにケトジェニックな状態にしようが、このカルニチンが不足していたのではミトコンドリアによる脂質代謝が活性化しません。
それだけ重要な役割をしているため、ある意味ビタミンといっても過言ではないのですが、実はカルニチンは私たちの体で作れます。
カルニチンはアミノ酸のリジンとメチオニンからビタミンCを補酵素に生合成することができます。
しかし、体が必要とする量の約25%ぐらいしか作れないため、やはり外部から摂取する必要があるのです。
さらに日本人は先進国の中でもカルニチン摂取がとても少ない民族のようで(FAOの調査)、より意識して摂取するのがよいでしょう。
カルニチンを多く含む食品は、動物性食品ではヤギ肉、ラム肉、牛肉、植物性食品ではアボカド、ブロッコリーなどです。
脂質代謝はミトコンドリアの質を高めること、そして脂肪の運搬役カルニチンという栄養素をきちんと細胞内に保持していく必要があります。
特にケトン体モードにしていきたい人はカルニチンを意識してみてください。
あとはミネラル(Mg,Feなど)とビタミンB群が特に大切です。
※著者ニック・レーン・・・『ミトコンドリアが進化を決めた』『生命の跳躍』『生命、エネルギー、進化』はぜひ読んでみてください。