発ガン物質と放射能は、孫にも発ガン
http://mkathearn.wordpress.com/2013/01/18/「26年後のチェルノブイリ報告 健康被害、3/
小若 野村先生は30年以上前に、放射線や化学物質が、世代を超えてマウスを発ガンさせることを実証し、 国際的に大反響を呼んだ「大阪レポート」を発表されています。
この実験は、どのように行われたのですか。
発がん物質孫にも影響 野村 まず、ウレタン(カルバミン酸エチル)で確認しました。
ウレタンをオスのマウスに注射し、しばらくしてメスと交配させると、ほとんど元気で生まれますが、 その子たち4千匹余にガンが出るかどうかを見ていくと、有意差が出てきましたので、
1975年1月に「キャンサー・リサーチ(米国癌学会誌)」に発表しました。
小若 1979年に新聞で「発ガン物質・孫にも影響」と出たときは、すごいことが実証されたものだと思いました。
ただ、ウレタンになじみがなかったので、人に注射されているとは知りませんでした。
野村 僕も鎮静剤の一つだったとしか知りませんでした。それが、非経口医薬品の溶剤として大量に使用されていたのです。
小若 記事の中にはウレタンと放射線の実験結果が出ていましたが。
野村 遺伝的な影響を証明するのに一番大切なのは、確実にDNAをやっつけるものがいいので、ウレタンに代わって放射線を使いました。
放射線は瞬間的に作用するので、オスに一発当てて、しばらくしてから正常なメスと交配させ、受精率や流産、奇形を見て、それから、いつになったらガンが発生し、 その頻度がどのくらいかと。
●量に応じてガンが出る
小若 ずいぶん詳しく調べられたのですね。
野村 遺伝学者は遺伝子の変化を調べますから、 生まれた直後の形態、機能の違いを調べるところまででした。
突然変異については、膨大なデータがありましたが、人類によく見られる疾病(ガン、形態異常、生活習慣病等)はどうなのかは誰も調べていませんでした。
私は外科医でしたから、すべての疾病に対し、先の世代がどうなるか臨床のかたわら、我慢してやっていました。
小若 だから、国際的な発見をされたのですね。
論文の表を見ると、先生は1970年代から、被曝量の多さと、ガン発生数の関係がわかる実験をされていたことになりますが。
野村 70年代までは、ガンが出るか出ないかしか実験しなかったのですが、 発ガン物質を1000分の1の低量まで投与量を変えて追いかけると、きれいな線になりました。
私の1975年10月のキャンサー・リサーチの論文は、世界で初めて「化学物質で用量効果関係」を描いたもののようです。
実際、この曲線から、注射薬に含まれているウレタンの量を計算できました。
後日、化学的に定量したのと完全に一致していました。
●国際的な大反響
小若 そんな前に、今でも通用する精密な発ガン実験を行われていたとは、すごいですね。
野村 1978年にイタリアの古都ペルージアで開かれた国際学会で発表すると、 有名な遺伝学者がすぐに奇形で追試確認をしてくださったので、ガンも含めて「ネイチャー」にまとめの論文を出しました。
ヨーロッパでは、日本と違って遺伝に関して非常にセンシティブです。
何か悪いことをすると三代たたるという考え方があり、だから悪いことをしない方がいいというのです。
最初の論文では、親に放射線を当てて、子どもから孫まで影響したのを出したので、非常に反応が強かったですね。
小若 すごい評価でしたね。
野村 ネイチャーの論文をイギリスの新聞「ガーディアン」もトップ記事で紹介してくれましたし、 多くのテレビ座談会がなされたようです。アメリカの「サイエンスニュース」でも紹介されました。
小若 当時、日本人が「ネイチャー」に出るのはまれでしたね。
●人は影響が出やすい
野村 論文審査では何も指摘されず、関連論文が4本載りました。
当時、ネイチャーは1誌しかなく、すべての自然科学分野を含めて週20論文くらいしか載りませんでしたので、多かったのかもしれません。
その中で大事なことがあります。
放射線を一度浴びただけで、子や孫にガンが発生しますが、突然変異に比べたら100倍以上高く増加したのですが、 それでも、せいぜい10~20匹に1個ガンが増える程度でした。
ところが、生まれた子どもにも微量のウレタンを打つと、子どもはガンだらけになりました。
2回目に有害物質をかけると、影響が数倍に上がりました。
多くの追試確認がなされました。
放射線も同じです。
小若 それは、福島で被曝した人が、後で放射能や化学物質で汚染されたものを食べたら、ガンが出やすいということですか?
野村 マウスの実験はきれいな状態で行いますが、人間は違います。
放射線を浴びた後、親も子どもも、発ガン物質や放射能を含む食べ物も食べる可能性があります。
そうすると、ガンにかかりやすいということです。
小若 シンプルな動物実験の結果よりも、ヒトの方が危ないと考えられるわけですね。
●再処理工場の従業員の子どもに白血病
野村 ヒトでは、イギリスの核燃料再処理工場セラフィールドの例があります。
ここは、海洋汚染もあったし、シースケール村など周辺の汚染もありました。
住民は、直接被曝している上に、家庭では放射能汚染食品による被曝があります。
それで、全体的に白血病の頻度が高かったのは、間違いないのです。
1990年に、ここの男性従業員の子どもに白血病のリスクが7~8倍高いという論文を サザンプトン大学のガードナー教授が出したのです。
これは、まさに私のマウス実験と同じことが、ヒトで調査された結果で、精子被曝が子どもの白血病の原因として大騒ぎになり、すぐに被害者による裁判が起きました。
しかし、患者は4人なので、裁判にはもともと無理なところがあり、夜中の3時頃に、5mものファックスで質問が来るのに閉口しました。
裁判の結論は「統計学的には有意差が出たけど、わずか4例のことなので、すぐに人間には当てはめられない」ということでした。
ところが、珍しく裁判長のコメントが付け加えられたのです。
「子孫への影響をみるこの研究は極めて大事であるから、今後、世界中で研究が推進されることを望む」と。
●チェルノブイリ原発事故
小若 チェルノブイリの汚染地では、どうなっているのでしょうか。
野村 事故後10年近くたち、国際機関が調査をやめ、国際援助もなくなったころ、 ユネスコと現地の要請で、文部省(旧科技庁は関与せず)と、民間助成金の支援を受け、生態系への汚染と遺伝的影響を調査しました。
地上の放射能は減少しても、動植物には、恐れていた強度の汚染、生物濃縮が起こっていることをいち早く証明しました。
事故直後に、放射性ヨウ素で汚染された牧草を食べた乳牛のミルクを飲んだ子どもの甲状腺に、放射性ヨウ素が大量蓄積し、それが原因で甲状腺ガンが高発して いました。 放射性セシウム等の内部被曝による影響については、ガンが発生するまでの年数が足りないのだと思いますが、徐々に増加しているとの報告があります。
遺伝的影響に関しては、英国のグループが、汚染地域の子どもで、放射線等で変化の起きやすい配列のDNAに突然変異が増加していると1996年に報告しました。
汚染を除去した作業者の子どもでは、突然変異の増加が疑問視されていたので、マウスで確実に検出できている突然変異を、 ルカシェンコ大統領の協力も得て、除染作業者の子どもを調査しました。
陽性にはなりませんでしたが、これは、被曝量が50ミリシーベルト以下と少なかったからだと思います。
ところが、ベラルーシとイタリアを行き来しているツバメの子どもを調べた報告では、反復配列したDNAの突然変異が3.6倍も増加し、有意差が出ています。 ウクライナのツバメとの比較でも2倍くらい増加しています。
これからも調査は必要ですが、放射能が大量に放出されたのですから、ヒトに異常が出ることは確実です。
●大きな影響がある内部被曝
野村 私が実験したのは瞬間の外部被曝で、外部被曝でもじわじわ被曝すると、ガンと奇形の頻度は落ちます。
だから、環境から受ける慢性被曝のときは、ガンと奇形が少し出にくい可能性はあります。
しかし、食べると放射能が体内に留まって内部被曝になるので、様相は一変すると思います。
この内部被曝の実験はほとんどないので、チェルノブイリで影響を調べることが大きな課題なのです。
福島は、チェルノブイリのミニコピーです。
小若 福島でも内部被曝の影響が心配です。
1970年代には、病気になりやすくなる「弱有害遺伝子」が増えると言われていましたが、遺伝子がよくわかるようになった今では、先生の実験結果は、どのような原理だと説明されるのでしょうか。
●遺伝子の変化が蓄積
野村 1978年に最初の論文を発表したとき、 なぜガンが、子どもに、通常の突然変異に比べて100倍以上もの高頻度に発生したのか、二つの可能性を書きました。
一つは、たくさんのガン遺伝子があり、そのどれかに変異が起こった可能性です。
例えば、マウス肺腫瘍発生に関与する遺伝子は、免疫関係だけでも当時200以上の遺伝子がわかっており、「それにヒットしたのなら、200倍の高い頻度で出てもおかしくない。
1000倍出てもおかしくない。それで十分説明ができる」と、 多くの先生が支持してくれました。
しかし、ガンになり易さの遺伝であること、しかも、親マウスが被曝すると、子どもに何百回もの細胞分裂を経ても伝わる変化があり、 そのマウスが生後に環境の有害物質に曝露すると、ガンが高発、促進されることがわかっていました。
この論文は、1990年代後半になって、生殖細胞で遺伝的不安定性を示した最初の論文と言われたように、 とても、突然変異で説明できるものではありません。
そこで、もう一つの原因として、通常の遺伝子の機能にわずかな変化が起き、その蓄積でガンの頻度が上がった、と書きました。
小若 免疫機構がちょっと弱くなるように、とか。
野村 そうですね。健康状態が一番影響を受けるのは、免疫関係の遺伝子です。
遺伝子は、「有害」でも「生体の正常機能に関与しているもの」でもよく、 その発現のわずかの変化が蓄積し、遺伝したので、何十代にわたってガンが発生しやすくなった、と考えたわけです。
放射線に一度、被曝しただけで、何代にもわたり、肺腫瘍、肝腫瘍、白血病等にかかりやすいマウスになりました。
●全身の細胞で変化が起きていた
野村 このことを証明するため、遺伝子の働きと「発現」を調べています。
親に放射線を照射し、子どもが生まれて、その子にガンが出た臓器を調べると、非照射対照群のマウスに較べ、ガン組織で遺伝子の発現が数倍、増減していました。
遺伝子発現を分析してみると、ガン組織だけでなく、その臓器の正常部分の組織にも多かれ少なかれ、同じような変化がすでに存在していました。
子どもの臓器でそういう変化が起きていたので、ガンにかかりやすくなっている、と説明したのが、2000年から2003年ごろのレポートです。
●注意しても、しすぎることはない
小若 食品の放射能汚染は減ってきましたが、今でも影響を受けないようにするのがいいのですね。
野村 放射線障害で最も恐れるのは、それが一瞬の被曝であっても、 細胞、遺伝子などに起きた傷が残り、将来のガンや遺伝的影響に結び付くことなのです。
ましてや、内部被曝の場合、放射能を出すもの自体が、長期に体内に残存するのですから、 注意しても、しすぎることはありません。