多くの真核生物(単細胞の)は、酸素がなくても働く、嫌気性ミトコンドリアを持っています。
私たち動物のように多細胞からなる真核生物は、ご存じのように、酸素に依存した好気性ミトコンドリアのみです。
嫌気性ミトコンドリアは、酸素に依存していないわけですから、その呼吸法は酸素以外の分子を使用します。
例えば、酸素を使わずに、獲得した食物を硝酸塩や亜硝酸塩などを使って燃やしてエネルギーにしていきます。
また、繊毛虫や菌類では、やはり嫌気下においてエネルギーを生成する、いわば嫌気性ミトコンドリアであるヒドロゲノソームという細胞小器官をもっています。
このヒドロゲノソームは、ATP合成酵素や鉄硫黄タンパクの合成酵素などの見地から、(好気性)ミトコンドリアと共通の祖先をもつと言われています。
さて、私たちのエネルギー代謝において、莫大なエネルギー産生を行うミトコンドリア・エンジンを回すには、酸素が必要であると言われています。
酸素供給下でグルコースから生じたピルビン酸がミトコンドリアに運ばれTCA回路(クエン酸サイクル)に入るというのが一般論ですが、そもそもTCA回路が回るのに直接酸素を必要としません。
酸素を必要としているのは、ミトコンドリア・マトリックスのTCA回路ではなく、その後に行われるミトコンドリア内膜にある電子伝達系の末端の呼吸鎖「複合体Ⅳ」です。
つまり、実際にTCA回路が回るのに酸素を直接必要としませんが、末端の呼吸鎖である複合体Ⅳから最終的に出てくる廃棄物「電子(e-)」を水(H2O)分子にするために酸素が必要なのです。
さらに、この電子伝達系のプロセスにおいてTCA回路で必要な補酵素NAD+をNADHから再生する必要があります。
なぜなら、NAD+はTCA回路から取り出された電子を運ぶキャリアだからです。
しかし、電子伝達系の末端で十分な酸素が届かなければ複合体Ⅳで活性酸素は発生し、さらにNADHは蓄積してしまい、TCA回路はNAD+不足によりストップし、そのままピルビン酸に戻され細胞質で乳酸発酵してしまうことになります。
乳酸を生成するのはミトコンドリアも好きでやっているのではなく、単にNAD+を得たいからです。
こうして、TCA回路は直接的に酸素は必要としなくても、酸素依存の電子伝達系呼吸鎖からの生成物NAD+などに依存しているため、結果的に「酸素存在下」と言われるのでしょう。
しかし、この嫌気的TCA回路が存在していることにより、多少なりとも部分的に代謝の概念が変わってくるかもしれません。
私たちの生体には(今のところ)嫌気性ミトコンドリアはいませんが、嫌気性TCA回路は存在するのです。