以前は、食道がんの治療についても、もっぱら外科手術ばかりが行われていました。
しかし食道がんは進行が早く、全身に転移しやすいため、外科手術や放射線療法など、局所療法による治療成績は、あまり高くありません。
さらに食道がんの外科手術は、数ある手術の中でも難易度が高いといわれています。
合併症が起こる可能性もあり、手術死亡率(手術後1か月以内に死亡する割合)は2から3%です。
そのため最近では、化学放射線療法が用いられるケースが増えています。
化学放射線療法にも、もちろん副作用のリスクはあり、食欲不振、味覚障害、口内炎、のどの痛み、めまい、白血球の減少・・・
といった副作用に悩まされる人もいます。
しかし、化学放射線療法の食道がんにおける治療成績は、外科手術に匹敵するといわれています。
このケースでは、抗がん剤が比較的効きやすいがんであることがわかっているため、外科手術と抗がん剤のリスクを比べ、抗がん剤を選べたのだと思います。
なお、外科手術にリスクが伴うのは、もちろん食道がんだけではありません。
まず身体に傷が残りますし、がんの種類や進行状況によっては、せっかく手術をしても「がん細胞を取り残す」可能性があります。
また手術や全身麻痺は患者さんの身体に大きな負担をかけ、体力を消耗させ、ストレスによって免疫力が低下するおそれがあります。
肺炎や出血、縫合(ほうごう)不全、肝臓・腎臓・心臓の障害、感染症などといった合併症や、後遺症のリスクも避けられません。
たとえば胃がんで、胃の切除手術を受けた患者さんの15から30%に「ダンピング症候群」がみられます。
これは、胃が小さくなったり、胃液の分泌量が低下したりするために起こるもので、食べ物の一部が急速に小腸に流れ込むため、
冷や汗や動悸、腹痛、嘔吐などが起こったり、
炭水化物が腸管から吸収されるため、血糖値が急激に上下し、頭痛や倦怠感などが起こったりするというものです。
主治医に外科手術をすすめられたからといって、それが決してオンリーワンの、もしくはベストの治療法であるとは限りません。
しかしその事実を、残念ながら、多くの患者さんは知らないのです。