「糖質」は直接血糖値を上げる。そして上がりすぎると余計にインスリンが分泌される。
ブドウ糖は毒、インスリンは猛毒。だから「糖質」は控えなければならない。
多くの方がこのように考えていらっしゃいますが、血糖値は全く異常がない方の方が多いのです。
普通は血糖値が正常であれば「ブドウ糖の代謝障害」を疑うことはありません。
しかし、次のような方が実際はたくさんいらっしゃるのです。
つまり「糖質」を多量に摂取しても、血糖値はほぼ正常範囲内(80~120㎎/dl)に収まるものの、摂取後3~4時間たってもインスリンレベルが高いままの方がいる。
つまりブドウ糖毒はないもののインスリン毒にさらされている方が多くいるということです。
「非筋肉質」「痩せ型」の日本人女性に対し、血糖値やHbA1cの値からは「非糖尿人」と思われる方に「糖負荷試験」を行ったところ「境界型糖尿病」や「糖尿病型」の波形が結構見つかったことにも驚きましたが、それよりも「正常型」と判定されたほとんどの方で「負荷3時間後」もインスリンレベルが基礎値のよりはるか高い値を示していたことに「なぜ?」という疑問が沸き起こり、それに対する解答がなかなか見つからなかったのです。
もちろん「インスリン抵抗性の指標となるHOMA-R」は異常ありません。むしろ低値なくらいです。
当初は「筋肉量」が少ないために「ブドウ糖→グリコーゲン」への代謝が進みにくいと考えていましたが「負荷2時間後」にはインスリンレベルが基礎値近くまで下がる方もいらっしゃるので、この説明では完全に説明しきれませんでした。
この難問は「ブドウ糖→アセチルCoA」の代謝経路の障害を「末梢のインスリン抵抗性」の本態とする考え方を導入することで一気に解決しました。
つまり、その経路が何らかの原因でブロックされてしまえば、細胞質内に「乳酸」が溜まるか「ブドウ糖」が停滞してしまいます。
そのため「ブドウ糖」の血液中への逆流を防ぐために、インスリンレベルが高い状態が長く続いたと説明できるのです。
「非糖尿人」の「ブドウ糖の波形」「インスリンの波形」で「二峰性(M型)」を示す例も多いのですが、二つ目の山はインスリンレベルが下がったことによって起こってきますので、二つ目の血糖値の上昇は「細胞質内からのブドウ糖の逆流」によるものと説明でき、それに対してインスリンの二つ目の山が形成されると考えられます。
細胞質内ではブドウ糖が依然として停滞していたのでしょう。
それが先にインスリン分泌が低下したためにこのような現象が起こったのです。
「仮面糖尿病」では「負荷2時間後」にインスリンのピークが見られ、それ以後血糖値が下がり始めますが、細胞質内のブドウ糖の停滞が取れた瞬間に、残った過剰のインスリによって血糖値が急降下してしまいます。
これが「機能性低血糖症」が起こるメカニズムです。
低血糖が発症する時間が遅いほど「ブドウ糖の代謝障害は重症」であり、これに「インスリン分泌能の低下」が伴うと「本当の糖尿病」に移行してしまうと考えられます。
このように考えると「高インスリン血症」の「原因」は「糖質摂取過多」ではなく「末梢のインスリン抵抗性」すなわち「ブドウ糖→アセチルCoA」の経路の代謝障害が先行していると考える方が、すべての面で説明が行いやすくなるのです。
「食後高血糖」の多くも、最初は「末梢のインスリン抵抗性」すなわちブドウ糖からアセチルCoAへの変換障害が先行し、細胞質内からのブドウ糖の逆流で高血糖を起こし、それによって慢性的にインスリンレベルの上昇が続いて「細胞膜のインスリン抵抗性」を増大して悪循環に陥っていくと考えられるのです。
「初期インスリン分泌能」の低下が「食後高血糖」の原因になることもありますが、「非筋肉質」「痩せ型」では同時に「末梢のインスリン抵抗性」も悪化していることが多く「仮面糖尿病」になってしまうことが多いようです。
「糖質摂取過多」は「ブドウ糖の不完全燃焼」から起こる「ATP不足」が原因で「鉄不足」によって起こる「糖質摂取過多」と同じメカニズムで発症するもので、患者本人に「間食をするな」「甘いものの食べ過ぎ」などと責め立てることは行ってはならないのです。知らず知らずにブドウ糖が燃焼しにくくなった背景を一緒に考える姿勢が必要です。
「低糖質」にするだけでは解決しないと考える理由はここにあります。