私たちが小さい頃、親や大人に「一口でいいからこれ食べておきなさい」とよく言われていたものです。
これは、決して無理強いするのではなく、一口でもいいから今食べておくと後々メリットがあることを、子どもに対して上手に誘導した表現だと思います。
哺乳類の多くが、子どもの成長期に大人の世話を必要とします。
それは外敵から未熟な子どもを守ることだけでなく、同種の社会性や生きていく上での知恵を教える期間でもあるからです。
さらに、ヒトの場合は、食性を子どもに教える期間でもあります。
ヒトの子どもは、今まで口にしたことのないものをなかなか自分から食べてみようとはしません。
仮に子どもがしたいように放っておけば、自分の好きなものばかりや食べ慣れたものばかりを求めるようになります。
文明ではなく土着的に自然界で生活しているのであれば、子どもは本能のまま、狩猟採集的に食べ物を求めるかもしれません。
ところが、現代のような飽食時代の中、子どもの好きなように放っておけば、体に害となるものばかりを求めてしまうかもしれません。
実際に現代の子ども達の多くが、ファーストフード、スナック菓子、アイスクリーム、清涼飲料水などを好物としてあげます。
ヒトの脳の発達は、およそ3歳~6歳まで幼児期の食事内容に大きく左右されます。
だからこそ、この時期の食事内容はとても重要となってきます。
さらに、好き嫌いの性格もこの時期と関係しています。
ヒトは最終的に雑食によって進化してきた動物ですから、この幼児期にいろいろな食べ物を与えておくことで、その後の嗜好を決め、さらに味覚を発達させます。
私は小さいころ、レバーが苦手でした。
レバーはそんなに毎日食べる必要まではないと思いますが、ご存じのように栄養価がとても高いため、定期的には摂取した方がよい食べ物の一つです。
よく父親から「一口でいいから食べなさい」と言われ、その結果、今では難なくレバーは食べれます。
また現代人は野菜が必要です。
子どもは成人に比べると、食べ物の味を感じる「味蕾(みらい)」の密度がとても高いため、野菜がもつアルカロイドなどのフィトケミカル成分にとても敏感です。
そのため、この成分や苦味成分などをとっさに察知し、野菜を避けます。
さらに、幼児のエネルギー代謝は成長の過程で解糖系が主軸になります。
これは細胞増殖機構であるペントースリン酸回路が解糖系で行われるからです。
幼児期の解糖系優位では、ミトコンドリア系がまだ成熟していないために、肝臓での解毒機構はまだ上手には働きません。
よって、鼻における臭いや口の味蕾でフィトケミカル成分を避けているのかもしれません。
無理強いはトラウマを作ってしまう可能性があるので禁物ですが、将来大人になった時に野菜が全く食べれないのでは、現代を健康に生き抜いていくことが難しくなるでしょう。
そのため、これも「一口でいいから」少しずつ慣れさせることが大切です。
動物は、慣れる習性を持っています。
栄養価の高い食べ物や、滋養のある食品は、好き嫌いによって避けられることが多くなっています。
嗜好や好き嫌いの性格は子ども時代に何を食べていたかで、大きく変わります。
「一口でいいから食べておきなさい。」この表現は、栄養価の高い食べものを避ける傾向にある子ども達に、無理強いすることなく、しかも好き嫌いを徐々に失くすために上手に差し向けた、適切な言葉だといえます。
幼児期の食事はその後の発達と嗜好を決定する重要な時期なのです。