がん予防と糖質制限とケトン食          「漢方がん治療」を考える


図:肥満と2型糖尿病はがんの発生と進行を促進する。高糖質食は肥満と2型糖尿病を増やす。さらに、高糖質食自体ががんの発生と進行を促進する。一方、ケトン食は肥満と2型糖尿病とがんのいずれの発病も予防する。がん予防の食事としてマイルドなケトン食は有用と考えられる。

 

520) がん予防と糖質制限とケトン食

【がん専門医はがんの第一次予防に消極的】
私は20年くらい前(平成7年〜平成10年)に国立がんセンター研究所のがん予防研究部第一次予防研究室の室長をしていました。

がんの第一次予防というのは、食生活や生活習慣の改善によってがんの発生を予防することです。
がん検診を使って早期診断・早期治療でがん死を減らそうというのが第二次予防で、がん治療後の再発を予防することを第三次予防と言います。
今の国立がん研究センターでは、がんの第一次予防の研究はほとんど行っていません。早期診断法の開発やがん検診の推進など第二次予防が中心です。
しかし、がん検診をいくら推進してもがん患者は減りません。むしろがん患者は増えます。治療の必要のない「悪性度の低いがん」を発見して、過剰診療の原因にもなっています(432話参照)。 
第二次予防(早期診断と早期治療)ではがんの発生数を減らせないことは明らかですが、がん患者が減ると困るので第一次予防は行わないというのが、国立がん研究センターの方針のようです。
がんを減らすことを真剣に考えれば国民のためには良いのですが、がん患者を減らすことを積極的にすると、がん専門医は仕事が減るので、したくないというのが本音です。
早期診断・早期治療の第二次予防の推進であれば、がん専門医もがんセンターも仕事が増えて存在価値が増えます。しかし、国民には全くメリットはありません。医療費が増えるだけです。
糖質制限すれば糖尿病患者が減るのが分っているので、糖尿病専門医が糖質制限を受け入れたくないのと似たような理由です。

 

【日本食はがん予防に有効なのか?】
がん予防にどのような食事が良いという点に関しては、「精製度の低い穀物や大豆や野菜や果物を多く摂取する」、「肉と動物性脂肪は少なくする」というのが主流の意見です。

しかし、細かい点では異なる意見は数多くあります。
例えば、果糖(フルクトース)はがん細胞の増殖や悪性化を亢進するという点から、「果物を多く摂取することはがん予防に良い」という考えには反対の意見が多くあります。
最近のコホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていません。(304話参照) 
乳がん治療後に「野菜と果物と食物繊維が非常に豊富で総脂肪摂取量を減らす食事」をしても、再発や新たな乳がんの発生や全死因死亡率を減らす効果が認めらていません。
「肉や乳製品ががんを促進する」という意見を支持する証拠も得られていません。
3大栄養素の炭水化物、脂質、蛋白質の摂取カロリーの適正比率は3:1:1と言われています。カロリー比率で、糖質が60%、脂肪が20%,蛋白質が20%程度が健康的な食事だと言われています。
一般的な日本食というのはこの比率に近く、「塩分を減らした伝統的日本食」はがん予防の理想の食事だという意見は、がん予防の研究分野では昔からあります。
赤身の肉や動物性脂肪の摂取が大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんの発生リスクを高めると考えられており、近年の日本におけるこれら欧米型のがんの増加は食事が欧米化しているためだと言われています。


魚油に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)や大豆に含まれるイソフラボンのがん予防効果に関しては多くの研究があります。
日本食の場合は塩分が多いのが欠点ですが、欧米の食事に比べて魚や大豆製食品やキノコ類や海草類が多く、赤身の肉や動物性脂肪が少ないという点では健康的と考えられています。
しかし、白米主体の主食や、砂糖やみりんなど糖質の多い味付けなど、糖質摂取量が多いという観点から、日本食のがん予防効果について疑問視する意見が増えています。
糖質は血糖を高めてインスリンの分泌を高めるので、がんを促進する作用があります。主食のご飯は発がんリスクを高める要因として無視できないことに、がん予防の研究者は最近気がついてきました。


米は日本人の主食なので、ご飯が発がんリスクを高めるという意見は長い間タブーになっていたのですが、最近になって糖質制限の健康作用が注目されるようになって、がんの予防や治療においても米食の是非について議論されるようになっています。
玄米であれば白米よりグリセミック指数(食後に血糖値を上昇させる程度)が低いので発がん促進作用は少ないと考えられ、玄米菜食ががんの予防や治療の分野では推奨されていますが、玄米でも糖質(ブドウ糖)の摂取(ブドウ糖負荷)が増えることが問題であることには変わりがなく、白米よりかはマシですが、糖質制限には及びません。


つまり、がんの発生や再発予防や治療の観点からは、「玄米を主食にした日本食」は「白米を主食にした日本食」より少しは良いのですが、米自体の摂取を減らした「糖質を減らした日本食」あるいは「ケトジェニックな日本食(Ketogenic Japanese Diet)」の方がより抗がん効果が高い可能性が示唆されます。
このような食事はがんに関してはまだエビデンスが少ないのですが、肥満や糖尿病やメタボリック症候群の治療においてはエビデンスが蓄積してきています。肥満や糖尿病やメタボリック症候群はがんのリスク要因として重要なので、ケトン食がこれらの疾患に有効であれば、がんにも有効と言えます。

 

【白米は糖尿病を増やし、糖尿病はがんを増やす】
日本を含めて世界中で糖尿病は増えています。
日本では糖尿病は1960年代くらいまでは極めて稀な病気でしたが、現在では5人に一人が糖尿病あるいは糖尿病予備軍と言われるくらいに増えています。
厚生労働省の平成26年の「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、男性15.5%、女性9.8%で、「糖尿病の可能性を否定できない人」の割合を加えると男女とも20%を超えています。
糖尿病ががんの発生を増やすことは多くの研究で確認されています。日本で行なわれた大規模調査では、糖尿病と診断されたことのある人はない人に比べ、20~30パーセントほどがんの発生率が高くなることが報告されています。
 
最近のメタアナリシスによると,糖尿病は非ホジキンリンパ腫,膀胱がん,乳がん,大腸がん,子宮内膜がん,肝がん,膵がんなどの発症リスクを高めることが示されています。
 
さらに、糖尿病があるとがんの進行が早く転移しやすいことも指摘されています。高血糖や高インスリン血症ががん細胞の増殖を促進するからです。
様々なメカニズムで、糖尿病はがんの発生や進展を促進することが明らかになっています。 
白米摂取量が多いほど2型糖尿病の発症が増えることが明らかになっています。以下のような報告があります。

White rice consumption and risk of type 2 diabetes: meta-analysis and systematic review.(白米の消費量と2型糖尿病のリスク:メタ解析と系統的レビュー)BMJ. 2012 Mar 15;344:e1454.

 

米国のハーバード大学からの報告です。2012年1月までに報告された研究の中から、白米摂取と2型糖尿病との関係を検討した4件の前向きコホート研究を抽出し、メタ解析を行っています。これらの研究は米国、オーストラリア、中国、日本で行われたもので、7コホートが含まれていました。
調査開始時に糖尿病でなかった352,384人を対象に4〜22年間の追跡で、13,284例が2型糖尿病を発症しました。白米の平均消費量は西洋諸国とアジア諸国で大きく異なり,西洋では1週間に5杯(1杯=調理した白米158g)未満であったのに対し、中国では1日平均4杯でした。
解析の結果,白米の最低摂取群と比較した最高摂取群の糖尿病の相対リスク(RR)は東洋人が1.55〔95%信頼区間(CI)1.20〜2.01〕、西洋人が1.12(同0.94〜1.33)で、両者の差は統計的に有意でした(P=0.038)。
これは、米を多く食べる東洋人では2型糖尿病リスクが55%高まったが、週に平均5杯と米の摂取量の少ない欧米ではリスク上昇率は12%にとどまるという結果です。
4研究の全参加者を対象とした用量反応性メタ解析では、白米摂取1日1皿増加当たりの糖尿病の相対リスクは1.11(95%CI 1.08〜1.14)でした。


つまり、白米の摂取量が多いほど2型糖尿病の発症リスクが増加し、この関係は東洋人(中国人と日本人)で顕著であるという結果です。そして、1日の白米摂取が1杯増えるごとに2型糖尿病の発症リスクが11%上昇するという結論です。
グリセミック指数が高い食事は2型糖尿病発症リスクの上昇に関連することが知られています。
グリセミック指数(GI値)は、炭水化物が消化されてグルコース(ブドウ糖)に変化する速さを相対的に表す数値で、GI値が高いほど食後血糖値が上昇しやすいことを意味します。
世界的に白米は消費量が多く、グリセミック指数が高い食材です。したがって、世界的な糖尿病患者の増加に白米の摂取が関連しているかどうかを検討した結果、白米摂取量と2型糖尿病発症リスクとの間に有意な関連が認められたということです。
この論文の結論は、「白米の消費量の増加は2型糖尿病の発症リスクの増加と有意に関連しており、特にアジア(中国と日本)の人々ではその関連は顕著である。」となっています。
中国では糖尿病が爆発的な勢いで増加していることが問題になっています。その原因の第一が白米摂取にあることは多くの研究者が指摘しています。
日本でも、国立がん研究センターによる多目的コホート研究(JPHC研究)で、白米の多量摂取が糖尿病の発症率を高めていることが指摘されています。

Low-carbohydrate diet and type 2 diabetes risk in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-Based Prospective Study.(日本の男女における低炭水化物食と2型糖尿病の発症リスク:多目的コホート研究)PLoS One. 2015 Feb 19;10(2):e0118377.

 

この研究では、糖尿病の既往がない45~75歳の男性27,799人と女性36,875人を対象に、食物摂取量は食物摂取頻度調査票を用いて確認し、前向きに追跡し、5年間に診断された2型糖尿病のオッズ比を、ロジスティック回帰を用いて推定しています。
その結果、日本人女性において低炭水化物食と2型糖尿病リスク低下との関連が認められました。糖質摂取が多い上位5分の1のグループに比較して、糖質摂取が少ない下位5分の1のグループの2型糖尿病の多変量調整オッズ比は、0.63(95%CI:0.46~0.84)でした。この論文の著者らは、2型糖尿病の発症に白米の多量摂取が関連している可能性を指摘しています。
2型糖尿病は米をよく食べるアジア諸国で急増しています。
白米を多く食べるほど2型糖尿病の発症リスクが有意に上昇し、その結果、がんの発症も増えます。「白米摂取ががんを増やす」ということを示しています。
日本食は白米を主食にしている点でがん予防にマイナスと言えます。白米が認知症を増やすデータも報告されています。

【糖質摂取は肥満を増やし、肥満はがんの発症リスクを高める】
肥満ががんの発生を促進することは多くのエビデンスで支持されています。 肥満はインスリン抵抗性を高め、高インスリン血症を引き起こします。インスリンはインスリン様成長因子の活性も高めます。インスリンとインスリン様成長因子はがんの発生や進展を促進します。(155話参照) 

多くの疫学研究から、大腸がん、乳がん、膵臓がん、子宮体がん、腎臓がん、胆のうがん、肝臓がんなど多くのがんの発生率が肥満によって増えることが示されています。
肥満ががん治療後の再発率を高め生存期間を短くすることも多くの報告で明らかになっています。
肥満ががんの発生や進展を促進する理由の第一は、インスリンの分泌が増えるからです。
インスリンの働きに影響する様々な生理活性物質が脂肪細胞から分泌されており、肥満によって体脂肪が増えるとインスリンの働きが低下します。脂肪組織から分泌されるアディポネクチンという蛋白質にはインスリンの働きを高める作用がありますが、内蔵脂肪が増えると分泌量が減り、アディポネクチンの血中濃度が低下するとインスリン抵抗性(インスリンの作用低下)が高まります。
インスリンの働きが弱くなると、それを補うために体はインスリンの分泌量を増やして血中のインスリン濃度を高めて代償しようとします。
インスリンは様々なメカニズムでがん細胞の発生や増殖を促進します。インスリンががん細胞の増殖促進や細胞死(アポトーシス)の抑制など、がんを悪化させる様々な作用が明らかになっています。インスリンの分泌を減らすこと自体にがん予防効果があります。
糖質摂取が肥満を促進することは良く知られています。インスリンは脂肪合成を増やし、肥満を促進するホルモンだからです。
日本人のインスリン分泌能は欧米人の半分程度と言われています。インスリンは血糖を下げる作用と肥満を促進する作用があります。
インスリン分泌能が高い欧米人は糖質摂取によって肥満になりやすい体質を持っていますが、糖尿病は発症しにくい体質です。欧米人は著明な肥満にならないと糖尿病は発症しません。


一方、インスリン分泌能の低い日本人は、高糖質食でも肥満になりにくい代わりに糖尿病になりやすい体質を持っています。実際に、日本人は欧米人に比べると肥満は非常に少ないのですが、糖質摂取量が増えて糖尿病が増えています。
米国では「肥満の流行(Obesity Epidemic)」と表現されるくらい急速に肥満が増加しています。米国ではこの30年間で肥満(BMIが30以上)は2倍以上、小児の肥満や成人の高度の肥満(BMI35以上)は約3倍になっています。米国の人口の3分の1が肥満(BMI30以上)、3分の1が過体重(BMIが25〜30)です。
BMIはBody Mass Indexの略(日本語ではボディマス指数)で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められます。肥満度の指標として使用されます。
精製した穀物や、高フルクトース・コーンシロップや砂糖のような単純糖質が増えたことが、米国における肥満と糖尿病の増加の元凶だと考えられています。
以前は肉と脂肪の摂取過剰が肥満の原因だと考えられ、1970年代以降は肉と脂肪を減らす食事指導が行われ、実際に脂肪とタンパク質の摂取が減っているのに、肥満が爆発的に増えています。最近では、糖質を減らし、タンパク質や脂質(特にオリーブオイルやω3系多価不飽和脂肪酸)を増やす方が良いと考えられています。
中国では大量の米が消費され食事中の糖質の割合が多いのが特徴です。体を多く動かすので、農村部の多い中国では今まで肥満はあまり問題になっていませんでしたが、経済成長とともにライフスタイルが変わり、中国の都市部では肥満が増加し、糖尿病も急激に増えています。
糖質摂取はインスリン分泌を増やして体脂肪を増加させやすいので、摂取カロリーが過剰になると、容易に肥満を発症します。肥満はさらにインスリン分泌を増やし、肥満をさらに助長します。食後の高血糖は酸化ストレスを高めます(後述)。このような状況はがん細胞の発生や増殖を促進することになります。

 

図:糖質の多い食事やグリセミック指数の高い食品は食後血糖値を高める(1)。血糖値の上昇はインスリン分泌を増やす(2)。インスリンは脂肪合成を亢進して肥満を促進する(3)。肥満になるとインスリン抵抗性が亢進し、さらにインスリン分泌を増やし、悪循環を形成する(4)。肥満は脂肪組織において炎症性サイトカインの産生を増やし、アディポネクチンの産生を減らす(5)。その結果、炎症や酸化ストレスを亢進する(6)。高インスリン血症と炎症と酸化ストレスはがん細胞の発生や増殖を促進する(7)。食後高血糖は酸化ストレスを亢進し、酸化ストレスも発がんを促進する(8)。つまり、糖質の多い食事はがんの発生と進展を促進する。

 

【グリセミック負荷ががんの発生率を増やす】
前述のように、「糖質の過剰摂取が糖尿病や肥満を増やす結果としてがんの発生や進展を促進する」という間接的な因果関係が存在します。さらに、糖質摂取と発がんの直接的な関係も指摘されています。

糖質摂取の状況によって発がんリスクへの影響が異なります。
例えば、糖質の量が同じでも、白米と玄米では体に対する影響が異なります。それは、糖質の摂取量が同じでも、食品によって血糖値の上昇の度合いやインスリンの分泌を刺激する度合いが異なるからです。食後の血糖値の上昇が早く、インスリンを多く分泌させる食品ほど、体に悪い影響を与えます。
グリセミック指数(glycemic index: GI)とは、食品がどれほど血糖値を上げやすいかを示す指標です。食品中に含まれる炭水化物が消化されてグルコース(ブドウ糖)に変化する速さを、グルコースを摂取した場合を100として相対値で表します。糖質として同じ分量を摂取しても、素材が異なると血糖値への影響は異なるという考えに基づいた指数です。
グリセミック指数の値(GI値)が高い食品は食後の血糖値の上昇が大きくインスリンの分泌量が多くなります。GI値が低い食品は血糖値の上昇が小さいのでインスリンの分泌も少なくて済みます。
インスリンはがん細胞の増殖を促進するので、GI値の高い食品はがん細胞の発生や増殖や転移を促進することになります。がん予防で精製度の低い穀物が推奨されるのは、精製度の低い穀物ほどGI値が低く、インスリンの分泌が少なくできるからです。
グリセミック負荷(Glycemic load:ブドウ糖負荷)は(グリセミック指数÷100 )× 糖質の量(g)で表されます。ある食品を100g食べたときの血糖上昇の程度が、グルコースを何グラム食べたのに相当するかを示す数値です(図)。

 

図:食事から摂取した糖質は、素材によってグルコース(ブドウ糖)として消化・吸収される速度が異なる。グリセミック指数(Glycemic index : GI)は食品がどれほど血糖値を上げやすいかを示す指標で、グリセミック指数の値(GI値)が高い食品は食後の血糖値の上昇が大きくインスリンの分泌量が多くなる。GI値と糖質の量の積をグリセミック負荷(Glycemic load:GL)と言う。