魚介類によるアニサキス症                     池澤 孝夫


「アニサキス症が増加」というニュースが最近、さまざまなメディアにあふれています。

報道で紹介されているアニサキス症の症例は、「サバを食べて数時間後に激しい腹痛に襲われた。我慢できずに救急病院を受診(たいてい夜中)し、内視鏡でアニサキスという寄生虫を取り除いたらすっきりした」というものです。

これは確かにアニサキス症の典型例であり、間違いではありません。

 

魚介類の寄生虫が胃や腸の粘膜にかみつく

夜間の救急外来で腹痛を訴える患者さんには通常「夕食に何を食べたか」を尋ねます。

下痢がなく、発熱も軽度であれば、魚介類、特にサバを食べなかったかを必ず確認します。

これはアニサキス症を念頭に置いているからです。

疑いがあれば、内視鏡(胃カメラ)を行います。

アニサキスは寄生虫の一種です。

アニサキスが寄生した魚介類をヒトが生で食べると、アニサキスが胃の粘膜に侵入しようとするため、激しい痛みが起きます。

 

そこで、アニサキスを内視鏡で見つけて鉗子(かんし)でつまんで取り除けば、治療は終了です。

患者さんはすぐに痛みから解放され、1時間もすれば食事が取れるほど回復します。

今ほど内視鏡の技術が進んでいなかったころには、開腹手術でアニサキスを取り除くこともあったのですが、現在の日本には内視鏡の上手な医師が数多くいますから、開腹手術に至ることはほとんどありません。

 

「アニサキスアレルギー」の本当の恐怖

アニサキス症で苦しむことになっても、内視鏡で回復するならそれでいいではないか、と考える人もいるかもしれません。

しかし、アニサキス症が本当に「恐ろしい」のは実はここからです。

“それなりの確率”で「アニサキスアレルギー」が生じるからです。

 

アニサキスアレルギーは本当にイヤな疾患で、また珍しくありません。

太融寺町谷口医院では、2017年4月の1カ月間で3人の患者さんにアニサキスアレルギーの診断がつきました。

主な症状は、まず魚介類を食べた後に起きる強烈なじんましんや呼吸困難です。

重症化すれば意識を失うこともあります。

しかし、アニサキスアレルギーが「イヤ」なのは重症化するからではありません。

 

発症後、魚介類が一切食べられなくなるからです。

一生魚が食べられない…

 

そんなバカな……と思う人もいるでしょう。

私が患者さんにアニサキスアレルギーの告知をするときも、最初はほぼ全員が私の言葉を信用しません。

「アニサキスが寄生している魚を避ければいいだけでしょ」と考えるからです。

理屈の上ではその通りですが、その魚介類にアニサキスが寄生しているかどうかをどうやって見分ければいいのでしょう。

サバの他には、イカ、サケ、タラ、マスなどに寄生することが多いとされていますが、他の魚介類でも皆無ではありません。

調理人の知人の話では「カズノコの表面にアニサキスを発見することがある」そうですし、エビを食べてじんましんが出た患者さんが、原因はエビではなくアニサキスアレルギーだったこともあります。

つまり、確率は異なるものの、ほぼすべての魚介類にアニサキスは潜んでいる可能性があるのです。

 

私の経験でいえば、アニサキスアレルギーになる人の多くは魚やすしが好きな人たちです。

これは当然で、新鮮な魚介類を食べる機会が多いほど、アレルギーになるリスクは上昇するからです。

そして、大抵患者さんは次にこう言います。

「分かりました。残念ですが、これからは魚介類を生で食べないようにします」

 

煮ても焼いてもダメ

しかし、またもや私は患者さんの「希望」を踏みにじらねばなりません。

「いいえ、生だけでなく煮ても焼いても一切食べられません」。

アニサキス症は生きたアニサキスが消化管の粘膜に侵入することで痛むのですから、アニサキスを取り除けば痛みから解放されます。

また事前に煮たり焼いたり、冷凍したりすればアニサキスは死にますから、アニサキス症を起こすことはありません。

 

一方、アレルギーは生きたアニサキスだけが原因ではありません。

アニサキスという生物を作るたんぱく質の一部がアレルギーの原因、すなわち「抗原」となります。

これは煮ても焼いてもなくなりません。

熱で変性し、抗原性を失う可能性はありますから、生で食べるよりはアレルギーを発症するリスクは減少するでしょうが、完全に安心できるわけではありません。

 

ここまで説明するとたいていの患者さんは理解してくれます。しかし多くの患者さんは打ちひしがれ、うなだれます。

何度もため息をつき、いすから立ち上がろうとしない人もいます。

これからの人生、もう魚介類は何をしても一切食べられない……。

魚好きの人にとってこれほどつらいことはないでしょう。それでも理屈の上ではこのように助言しなければならないのです。

 

アニサキス症を起こした人のうち、どれくらいの割合でアニサキスアレルギーが発症するのかは、残念ながら文献が見つかりませんでした。

アニサキス症を発症したことがないのに、アニサキスアレルギーがある人もいます。

ですが、私の臨床経験ではアニサキス症がアニサキスアレルギーのハイリスク要因であることは間違いありません。

 

こんなにもいる!アニサキス

アニサキス症を防ぐには、サバやイカなど寄生している可能性が高い魚介類の生食を避ける、ということになります。

となると、どの程度の頻度で寄生しているのかが気になります。

 

私が医学部3年生の時、サバを解剖してアニサキスがいるかどうかを調べる実習がありました。

なんとすべての班でアニサキスが見つかりました。

当時、大阪市立大学医学部医動物学教室の井関基弘先生は「サバには必ずアニサキスがいると考えるべきであり、サバを生で食べるのは危険である。

どうしても食べねばならない場合はかみ殺さなければならない」と話しておられました。

「きずし(しめさば)」が大好物だった私にはこの実習は大変ショックでしたが、これ以降、泣く泣く食べることをあきらめました。

 

15年ぶりにサバの刺身を食べたらじんましんが…

その15年後。

友人と居酒屋で食事をしていた私は、隣席の客がうまそうにきずしを食べているのが気になって仕方がありません。

ついに誘惑に負けて「禁断の果実」を注文してしまいました。

久しぶりのきずしは言葉を失うほどの絶品。

爽快な酢の酸味と、かんだ時にじわっとしみ出る脂のコクが合わさると、この世のものとは思えません。

井関先生の忠告を思い出した私は、自分に都合よく「かみ殺す」という部分だけを繰り返し実践しました。

ここまでかめば大丈夫だろう……。

 

それからおよそ10分後、私の足の甲から膝下にかけてかゆみが出てきました。

見ると蚊に刺されたような赤い盛り上がりが多数。じんましんです。

 

これはまさか! アニサキスアレルギー!?

 

 

医学部時代の恩師、井関基弘先生の忠告が頭をよぎったにもかかわらず、禁断の果実とも言うべき「きずし(しめさば)」を口にするというタブーを犯してしまった私は、すぐに後悔の念に襲われることになりました。

両足の膝下から甲にかけて広がっていくじんましん。

つい先ほどまでの極楽気分は、一気に地獄に落ちたかのように暗転しました。

 

サバを食べてじんましん…は何のアレルギー

アニサキスアレルギーの典型例は「重症のじんましん」です。

さらに重症化すれば息苦しくなりぜんそくのような症状が出ます。

そこまでにはならずとも、じんましんが全身に広がった場合は、点滴が必要になることもあります。

 

腹痛のため夜間の救急外来にやってきた患者さんのいくらかはアニサキス症だ、という話をしましたが、実はアニサキスアレルギーで夜間に受診する人も少なくありません。

もちろん患者さんは「アニサキスアレルギーで来ました」とは言いません。

「我慢できないじんましん」が受診の理由です。

ですから重症のじんましんを見たときには必ず直前に食べたものを尋ねます。

魚介類を食べていればアニサキスアレルギーを鑑別に加えます。

 

これまでアニサキスアレルギーの患者さんを何人も診てきた私は、自分の足に生じたじんましんを見て、少し冷静になって考えました。

「これはアニサキスアレルギーで生じるじんましんではない!」。

そう確信して、しばらく何もせずに経過を見ることにしました。

すると30分もしないうちに、じんましんがすーっと引いていきます。

やはりアニサキスアレルギーではなかったのです。

 

私が体験したじんましん、アニサキスアレルギーでないなら何なのでしょうか

サバアレルギーかというと、これも違います。

実は、「サバを食べてアレルギー」と訴える患者さんの大半は、サバアレルギーでもアニサキスアレルギーでもないのです。

では何なのか。

これを解説する前に、アニサキスアレルギーについてもう少し詳しく見てみましょう。

 

アニサキス症にならずにアレルギーの謎

私は「アニサキスアレルギーはアニサキス症を発症した人に起こりやすい」と説明しました。

ですが、アニサキス症を発症したことがない人がアニサキスアレルギーを起こしていることがあります。

その理由として考えられるのは、まずアニサキス症が、無症状もしくは軽症だった場合。

そして、アニサキスの体の一部が何らかの理由で体内に侵入してアレルギーが成立した場合が挙げられます。

 

「皮膚から」と「口から」で異なる?アレルギー発症

英国の小児科医ラック(Lack)氏が唱えている「二重アレルゲン暴露仮説(Dual allergen exposure hypothesis)」というものがあります。

食べ物が皮膚(の傷など)から侵入するとアレルギーが成立し(これを「感作」と呼びます)、口から入るとアレルギーを起こさない(これを「寛容」と呼びます)という理論です。

 

この理論は現時点ではまだ「仮説(hypothesis)」の域を出ませんが、これを実証する例はいくつもあります。

数年前に話題となった「茶のしずく石鹸(せっけん)」の問題もそうです。

小麦成分を含む「茶のしずく石鹸」を使った人が、それまで問題なく食べられていたパンや麺類など小麦製品を食べると、じんましんや呼吸困難などのアレルギー症状を発症することが分かったのです。

小麦に含まれる「グルパール19S」という成分が洗顔などで皮膚の炎症部位や小さな傷から吸収され、感作された(アレルギーが成立した)のです。

さらにいくつか例を挙げてみましょう。

 

居酒屋バイト経験者に多いビールアレルギー

ビールアレルギーがある人の多くは、アトピー性皮膚炎や手湿疹があります。

そして多くの人は、過去に居酒屋やビアガーデンでアルバイトをした経験があります。

「学生時代にビアガーデンでバイトをしませんでしたか」と尋ねて、「どうして知ってるんですか!?」と驚かれたことは一度や二度ではありません。

ビールアレルギーはビールをこぼしてビール酵母や麦芽が皮膚の炎症部位から侵入することによって成立すると考えられるのです。

 

カクテルのカンパリや赤色のマカロンで唇が腫れると訴える患者さんは、ほぼ全員が女性です。

以前は、あまり男性が口にしない飲み物、食べ物だからだろうと考えていたのですが、どうもそうではないようです。

カンパリや赤色のお菓子のアレルギーの原因はコチニールという赤色の色素で、これは口紅に含まれていることがあります。

つまり口唇に炎症があったり口角炎があったりすれば、口紅のコチニールが炎症部位から侵入し感作が起こるのです。

 

最近、乳児のスキンケアの大切さが強調されています。

その理由の一つが食べ物の経皮感作を防ぐ、すなわち食物アレルギーを予防することにあります。

湿疹があると皮膚のバリア機能が損なわれます。

その状態でハイハイをすると床に落ちているピーナツのかけらの成分が皮膚から侵入しますし、口元が荒れたままピーナツバターを食べさせても同様のことになって、ピーナツアレルギーにつながります。

 

胃の中から「感作」が起きるのでは

話をアニサキスに戻します。

人体は管のようなものですから、胃は見方によっては体の外側になります。

つまり胃の粘膜は「皮膚」と同じように外敵が侵入できない仕組みになっています(食べ物を吸収するのは胃ではなく腸管です)。

ということは、胃の粘膜からアニサキスの体の一部が侵入すると「感作」が起こりうるということになります。

これでアニサキス症を発症したことのない人にアニサキスアレルギーが起こる説明がつきます。

つまり、胃炎や胃潰瘍(かいよう)があると胃粘膜のバリア機能が損なわれ、そこからアニサキスの体の一部が侵入し、これで感作が起こり、アレルギーが成立する可能性が出てくる、という考え方です。

ラック氏の二重アレルゲン暴露仮説は、皮膚からの侵入は感作、経口摂取は寛容というものです。

それを踏まえて、皮膚のみならず胃粘膜からの侵入でも感作するのではないか、というのが、私の「考え」です。

 

アニサキスアレルギーを一度発症すると、その後原則として魚介類が食べられなくなります。

それを避けるには、アニサキス症を防ぐ、サバの生食などに注意することが大切です。

ですが、私の「考え」が正しいなら、生食だけではなく、「胃炎や胃潰瘍がある時に魚介類を食べること自体がリスク」ということになります。

この考え方にはまだエビデンス(確証)はありませんが、可能性があることに同意できる人はいると思います。

 

じんましんを起こした原因は…

最後に、冒頭で紹介した「私のじんましん」について解説しましょう。

これはアレルギーではなく「古いサバ」を食べたことが原因です。

サバの身に含まれるヒスチジンという成分は、時間がたつとサバに生息する細菌によって「ヒスタミン」に変性します。

そう、「抗ヒスタミン薬」でよく知られる、かゆみをもたらすヒスタミンです。

ヒスタミンを食べたのですから、かゆいじんましんが起こるのは至極当然なのです。

 

しかし「古いサバ」でも私の味覚は大満足。

その後の私は居酒屋で「きずし」「しめさば」などのメニューを見つけるたび、注文したい衝動を抑えるのに苦労しています。

 

   ×   ×   ×

 

注:アニサキスアレルギー以外の食物アレルギーも胃炎や胃潰瘍があれば生じやすいということになります。残念ながらそのような研究はなく、私も証明はできません。ですが、理論的に否定できない以上、胃炎や胃潰瘍がある時は、食物アレルギーを起こしやすい食品は避けるべきではないかと考えています。

 

注:感染症とは通常、「微生物が人体に侵入し増殖し人体に害を与える」ことを言います。アニサキスは体内で「増殖」するわけではありませんから、アニサキス症は狭義の感染症には入りません。ですが「微生物が人体に害を与える」のは事実ですから本連載で紹介することにしました。

 

注:注:アニサキス症は発症部位により、胃アニサキス症、小腸アニサキス症、大腸アニサキス症、消化管外アニサキス症に分類されます。9割以上が胃アニサキス症です。

 

注:アニサキスアレルギーになると金輪際、魚介類が食べられないのか? 教科書的にはそうなのですが、実際には食べている人もいます。アニサキスが寄生できないシラスなどの小さな魚は食べられることが多いですし、マグロが原因のアニサキスアレルギーはほとんどありません。リスクが高いサバやタラなどは食べないようにしつつ、寄生している可能性が少ない種類の魚は注意しながら食べ、アレルギー症状が出た(かもしれない)時には速やかに抗ヒスタミン薬を内服して(あるいは事前に内服して)対処している人もいます。ただし、自分の判断で行うことは危険です。必ずかかりつけ医に相談してください。

 

注:アニサキスは確実にかみ殺せるわけではなく、井関先生も「かみ殺せば確実に大丈夫」という意味で話されたわけではありません。

 

 

*谷口恭 / 太融寺町谷口医院院長

 








          たきがみ博士の想い

 

誰でも、自分の中に伝統がある。自分が経験したすべての過去の累積、それが”いま”のわたし。

過去とは思いだすこと、現在(いま)は過去の必然、そして、未来は想い、選択すること。

いまは、変えられない。

しかし、人には明日があり、未来がある。明日は、こうありたいと想いを持つことができる。

 

すてきな明日に向かって、”これからへの想い”を具体化するJourney、しっかり楽しみたいと思います。

そして、”いま、ここ”を丁寧に活きる。

みずからの人生の軌跡を、すてきな笑顔でみつめるために。

 

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