欧州心臓学会2018『低炭水化物食は死亡リスクを高める』(2018.8.28)
先日(2018.8.28)、ドイツ・ミュンヘンで行われたヨーロッパ心臓学会の集会で『低炭水化物食は死亡リスクを高める』という発表がされました。
この新しい研究は、ポーランドのウッツ医科大学のDr.Maciej Banachらによるもので、1999~2010年の国民健康栄養調査(NHANES)に参加した24,825人を対象に、低炭水化物食と死亡リスクを調査したものです。
結果、平均6.4年間のフォローアップで低炭水化物食をしていた人は総死亡リスクが32%高くなり、さらに、死因別のリスクでは冠状動脈性心疾患が51%、脳血管疾患が50%、癌が35%もそれぞれ増加したことがわかりました。
なお、この結果は、高齢者、非肥満者の間で最も強かったと指摘しています。
同研究チームは、メタ分析によっても同様の結果を導いています。
これは、447,506名を対象にした平均追跡15.6年間の7つの大規模前向きコホート研究をメタ分析で調査したところ、低炭水化物食は総死亡リスクが15%高く、冠状動脈性心疾患のリスクが13%高く、がんは8%高かったことが報告されました。
研究者らは、「低炭水化物ダイエットは、短期的には体重の減少、血圧の低下、血糖コントロールの改善に有効かもしれないが、長期的には全死亡リスクや慢性疾患のリスクを高める可能性がある」と締めくくっています。
そもそも、なぜこのような炭水化物論争は絶えないのでしょうか。
それは、スタンスの違いにあるかもしれません。つまり、「短期的な活力向上=長期的な健康維持」とは必ずしも言えないからです。
野生動物だった時(狩猟採集時代)の私たちの食事目標や栄養目標は、「生殖力や活動力」に最適なものを選択していました。
ところが、私たちヒトは狩猟採集から脱却し、農耕や文明がはじまってから、あきらかに生活スタイルや生きるための概念が変わってきています。
それは、最終的な食事目標を「健康長寿」と変えたことです。
考えてみてください。ヒト以外の野生動物の食事目標は、決して健康長寿が目的でなく、生殖力や活動力に見合った最適な量です。
野生動物が食性を維持しようという目的は、決して健康長寿ではなく、活動力と生殖力に最適の量を満たすことです。
しかし、ヒトは文明を築き、野生動物とは他の道を歩みました。
つまり、狩猟採集時代の食事から離れ、農耕による炭水化物を利用し、ヒトは子孫繁栄以外に自身の健康長寿を目指すようになったのです。
実際に、シドニー大学による新しい考古学研究では、「デンプン質の炭水化物こそがヒトの脳の進化の主な要因であり、旧石器時代のヒトはいわゆるパレオダイエットでは進化しなかったことを報告しています(Hardy K,Thomas M,Brown K,2015)。
それまでは、「火の使用と肉食」がヒトの脳進化の主要因とされてきていましたが、現在では「デンプン質食品を、火を使って調理することこそが、人間の脳の成長を引き起こした。
炭水化物は、タンパク質とともに、近代的な大脳の人間の進化に不可欠であることを示唆している。」というパラダイムの変化が起きています。
短期的な活力や生殖力を目指す人は確かに低糖質・高動物性食が有効かもしれません。
しかし、あくまで健康長寿という視点では、あらゆる統計データが示すように、これらは覆されています。
低炭水化物食は短期的な治療食として有効な場合がありますが、やはり長期的にはおすすめできるものではないと思っています。
しかし、この論争は終わることはないでしょうね、なぜなら上述したように人それぞれスタンスの違いにあるからです。