エネルギー生産が活性酸素を造る
物質が電子を失うことを酸化といいます。
逆に電子を獲得するのが還元です。
物質間の電子の受け渡しは同時に起こるので、これらの反応を「酸化還元反応」と呼びます。
ヒトを含めたほぼ全ての動物は、生きるために酸素を必要とする好気性生物です。
例えばヒトは、呼吸で酸素を取り込み、食物を食べて栄養素を体内に取り入れ、酸化還元することによってエネルギーを獲得しています。
これを「エネルギー代謝」といいます。
その中で実際にエネルギーを作り出しているのが、赤血球を除く全ての細胞の中に存在するミトコンドリアです。
つまり、ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産装置なのです。
毎日24時間、ミトコンドリアは常に活動し続けており、人体にエネルギーを供給してくれています。
その活動により酸素分子が還元されることで発生するのが活性酸素です。
活性酸素は他の物質を酸化する能力が高く、本来はエネルギー生産、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに使われる有用なものです。
しかし、残留すると健康な細胞を酸化してしまう有害物質になります。
そのため、生体には活性酸素を無害化する抗酸化システムがあります。
その代表的なものがSOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)という酵素です。
酸化ストレスとは
人体は酸化反応と抗酸化反応のバランスが取れていると正常に機能します。
酸化反応が抗酸化反応を上まわった状態を酸化ストレスといいます。
ヒトは、呼吸によって1日に500L以上の酸素を体内に取り入れていると考えられています。
呼吸によって毎分約0.3Lの酸素が肺胞から血液中に送られます。
このうち約2%が活性酸素に変わるといわれています。
生体内の抗酸化システムで処理しきれない活性酸素が残存した場合、酸化ストレスとなります。
人体の構造や機能を担っている脂質、たんぱく質、酵素、DNAなどに損傷を与えてしまい、老化の元凶とされています。
さらに老化以外にも、糖尿病合併症、動脈硬化、がん、アルツハイマー病、パーキンソン病などのさまざまな病気の元凶とも考えられています。また、これらの病気を発症すると、さらに酸化ストレスのリスクが上昇するという悪循環パターンとなり、症状が進行する可能性があります。
活性酸素を増やす要因
活性酸素を増やす外因としては、紫外線、大気汚染、化学物質、農薬などさまざまな環境因子が明らかになっています。
体内でSODを作る能力は40歳前後から低下していきます。
従って食物から抗酸化成分をしっかり取ることが必要です。
野菜、海藻、キノコ、大豆、ナッツなど糖質制限食の食材にも抗酸化成分が豊富に含まれますので、積極的に食べましょう。
一方で、内因としては、血中のインスリン値が高い状態が続く「高インスリン血症」が、活性酸素を発生させて酸化ストレスのリスクになるといわれています。
高インスリン血症を生じさせるリスクが最も高いのは糖質です。
たんぱく質もある程度インスリンを分泌させますが、脂質は分泌させません。
つまり、「糖質+たんぱく質」はインスリン分泌を最も増やします。
食後一定時間が経過した後も血糖値の高い状態が続く「食後高血糖」や、血糖値が高い時と低い時の差「平均血糖変動幅」の増大も活性酸素を発生させ酸化ストレスのリスクになると考えられています。
従来の糖尿病食(カロリー制限食=高糖質食)など、糖質を1日の総摂取カロリーの50~60%摂取する食事では、「高インスリン血症」「食後高血糖」「平均血糖変動幅増大」を必ず生じ、酸化ストレスのリスクが増大する可能性が高いのです。
酸化ストレスのリスクを少なくする「糖質制限食」
「糖質制限食」は食事で摂取する糖質をできるだけ減らして、血糖を良好にコントロールしようというものです。
これなら必要最低限のインスリン分泌ですみますし、食後高血糖や平均血糖変動幅増大も生じませんので、酸化ストレスのリスクは極めて少なくて済むと考えています。
このように考察してみると、酸化ストレスを予防するには、糖質制限食と高糖質食のどちらが有利か明白ではないでしょうか。
糖質制限食が老化を緩和させ糖尿病合併症などを予防できる唯一の食事療法という私の主張の理由がお分かりいただけたと思います。
*江部康二 / 高雄病院理事長