多くの疫学調査で、がんリスクとビタミンD欠乏の相関関係が報告されています。
中でも転移性の乳がんとビタミンD欠乏の親和性は注目するのに値し、これらは深くかかわっていると言っていいでしょう。
そもそも、がん死亡者の約90%は転移性によるものが原因です。
血中のビタミンD濃度が上がると、乳腺などの組織においてカルシトリオールというホルモンが生合成されます。
このカルシトリオールがビタミンD受容体に結合してはじめて遺伝子の発現が促進され、その効果を発揮します。
ところが、血中のビタミンD濃度が低かったり、ビタミンD受容体の発現が低レベルであると、非転移性のがん細胞が転移性のものへと変化することがわかっています。
通常、私たちの体がビタミンDを蓄えるのに、食事性によるものが10%で、残りの90%は紫外線による合成に依存していると言われています。
さまざまな疫学調査では、紫外線UV-Bを浴びていない地域ほど高いがん死亡率があるとの報告が多くされていますが、ここで注目してほしいのは、がんによる死亡のほとんどが転移性のものであること、そしてビタミンDは、がん発症や進行よりも、「転移」に対して効果があるという見解が強いということです。
実際に、ビタミンD濃度が低かったり、ビタミンD受容体の発現が乏しい場合、乳がんの転移が増加するという報告がされています。
(Brian J. Feldman ,Endocrinology doi: 10.1210/en.2015-2036)
また、乳がん発症の予後と血清ビタミンDレベルの関係を調査したメタアナリシスでは、ビタミンDレベルが十分にあれば、乳がんの生存率は2倍高くなるという報告がされています(Journal of Clinical Oncology, Vol 31, No15 ,2013: 1521)。
つまり、乳がん患者にとって、ビタミンD濃度を正常に維持しておくことは、その後の克服に大きく影響するのです。
乳がん細胞の転移性を左右するものの一つに、ビタミンDが大きく関わっています。