私たちが病院に行って身体の不調を訴えれば、お医者さんから処方箋(せん)をもらって、調剤薬局で薬を買うことができます。
また、ドラッグストアや薬局が街には数多くあって、さまざまな薬を簡単に手に入れることができます。いずれも、身体の不調を改善したい、症状を止めたいと薬の作用を期待して購入します。
しかし、薬には必ずプラス(効果)とマイナス(副作用=毒性)があって、マイナスの方が大きく出てしまうケースが多くあります。重篤な副作用が出た場合は死に至ります。
欧米では副作用死に関する調査研究も行なわれており、米国では、年間、推計10万6000人が副作用で死亡(全米医師会報、トロント大学のチームの研究報告)と具体的な数まで出ています。
世界一、薬を飲むのが好きな国なのに、残念ながら日本ではこのような「副作用死」に関する調査研究はなされていません。そうなると推測するしかありませんが、単純に人口が米国の4割として(米国3・09億人に対し日本1・27億人)、副作用死は米国10万6000人の4割=4万2400人という単純な計算にはならないと思います。私は少なく見ても6万〜7万人。もしかしたら、10万人を超す可能性もあると見ています。
平成25年中の日本の交通事故死者数は、4373人ですから、約15倍〜22倍以上という数の方が、薬の副作用で亡くなっている計算になるのです。
最大の理由は欧米では〝1剤処方〟が基本。多くても2剤であるのに対し、日本では5剤以上の処方が当たり前になっているからです。
とくに、窓口の自己負担率が1割になる75歳以上の高齢者には10剤以上を処方することもよくあります。
体力が低下し、本来選択的に薬を処方しないといけない年代の方たちが目を覆いたくなるような〝薬漬け〟にされているのです。
その結果、多くのおじいちゃん、おばあちゃんが命を落としていることは、容易に察しがつきます。
アメリカの賢人医師が若いドクター向けに書いた名著『ドクターズルール 医師の心得集』(クリフトン・K・ミーダー編、福井次矢訳・南江堂刊)には、医師が持つべき「薬に関する心得」として次のような提言が出てきます。
①4剤以上飲まされている患者さんは、医学の知識が及ばない危険な状態にある。
②薬の数が増えれば増えるほど、副作用のリスクは加速度的に増す。
③処方を中止しても、患者さんの状態が悪くなるような薬はほとんどない。
④可能ならば、薬の処方を全部やめる。それができないなら、できるだけ薬を出さないよう 026 にする。
⑤効いているのか疑問に思った薬はたぶん、効かない薬だ。
この中でとくに興味深いのは①、最初に「4剤以上飲まされている患者さんは医学の知識が及ばない危険な状態にある」と断定していることです。
もしそうだとしたら、いったいどれだけの日本人が「医学の知識が及ばない状態」にあるのでしょう?
4剤以上服用している日本人は、おそらく5〜6人に1人はいると思われるので2000万〜2500万人が医学の知識の及ばない状態、言い換えれば、いつ副作用死してもおかしくない状態にあるのです。
②の「薬の数が増えれば増えるほど、副作用のリスクは加速度的に増す」ということも、肝に銘じておくべきことです。現在の日本では、10剤以上の併用も珍しいことではなくなっているからです。
いまだかつて地球上で10種類以上の薬を20年以上も飲み続けると、どうなるのかという実験が行われたことはありません。
そのため、どんなことになるかわからないまま、壮大なスケールで国民の薬漬けが進行しているのが今の日本の現状なのです。
薬の危険を訴える本も増え、読者のみなさんにも、少しずつですが、「薬には症状を抑える効果しかない」という認識が広まってきたように思います。
しかしその一方、薬は私たちの生活に深く入り込んで、強い意識を持たない限り、断ち切れないものにもなりつつあります。
その現れの一つが「薬のカジュアル飲み」。
「飲むと、1時間ですぐ効くからオススメだよ」と、誇らしげに頭痛薬を見せる人。
「効いたよね、早めの○○」と、風邪薬でごまかして、徹夜仕事を続ける人。
花粉症シーズンにキレイなケースに入れて持ち歩き、ファッションのように毎日、薬を飲み続ける人……。
添加物や食べ物の抗生物質には気を遣う人でさえも、薬となると何の疑問も感じずに、安易に口にしてしまっていることが多いようです。 なぜなのでしょうか。
それは、薬の作用が「見えなく」なっているからにほかなりません。
CMでは、軽快なメロディとともに「早めに飲めばすぐに治る」ような映像が、くり返し放映されます。それを見続けた視聴者は、副作用や常飲のリスクをまったく考えないまま、「薬は気軽に飲めるもの」と思い込んでしまうでしょう。
がんや、脳卒中などの生活習慣病が悪い習慣から生まれるのと同じで、薬の常用習慣ほど、身体の免疫力をむしばむものはありません。しかし、そのリスクが「見えなく」されているのが、現代の社会なのです。
私は、これまで「薬を使わない薬剤師」として、全国で薬の危険を啓蒙してきました。その中で、たった「1錠」の服用を、あまりに安易に考えてしまったために、副作用や過度な依存に苦しみ、原因不明の不調に悩まされる人を、大勢見てきました。
私自身、多量の薬を飲み薬に依存し、そしてそれを克服できた1人です。その体験があるからこそ、私は、必ずぶつかる、薬への疑問が手にとるようにわかります。
ただやみくもに薬を恐れるのではなく、100%否定するわけでもありません。私たちの健康を保つ方法として、薬と上手に離れる知恵を身につけてほしいと思います。