無菌生活で失われていったもの
ここ100年で私たち人類の寿命は大幅に伸びました。そこには飽食時代による栄養改善、衛生環境のインフラ確立、感染症の減少などが大きな要因です。
こうして、病原菌や寄生虫に感染する機会は大幅に減りました。さらに公共性や大衆性が増えるほど、私たちの環境は無菌状態に近い極端な生活が余儀なく強いられるようになりました。
無菌生活により、食中毒や感染症などの機会は確かに減りますが、一方で大きく失われたものもあります。それは私たちの体にとって有用な菌まで同時に多く失われてしまったことです。
しかし、正確にいうと菌に良いも悪いもありません。
善玉菌、悪玉菌、日和見菌という分類は説明の便宜上のものであり、断定できるものではありません。ただし、中には本当に病原性の高い菌が存在し、長らくそういう悪い菌と戦ってきたことは事実でしょう。
無菌抗菌生活により菌に接する機会が減ると、私たちの体の中にいる免疫細胞が刺激されなくなり、菌と戦う訓練の場が設けられず、さらに感染経験が浅いため、体は弱くなってしまいます。
さらに、腸内環境も土壌環境も、この菌の多様性があってこそ成り立っています。文明生活が広がるほど便利にはなるものの、菌・植物・動物の食物連鎖や自然界の多様性は失われ、最終的には自分たちの体にしわ寄せがきます。
花粉症やアトピーなどのアレルギーも昔は珍しかった症状でしたが、今では誰かしら発症してしまう標準体質の一つとなりつつあります。これは私たちが無菌生活の中で極端に菌を遠ざけてきてしまった結果の一つだと言えるかもしれません。
自然と触れ合いながら菌といかに共生していくか、畑の土と向き合ったり自分の腸と向き合うことで、今一度、菌との共生を再確認する必要がある、そんな時代になったといえます。
これは決してきれいごとではなく、私たちや私たちの子孫がより健康に生きていくための、大きな足がかりの一つではないかと思います。