「キャベツ畑ではモンシロチョウが卵を産みつけ、卵から孵った幼虫の青虫がキャベツをあっという間に食べ尽くしてしまいます。
キャベツを収穫する人間にとってはたまったものではありません。とんでもない害虫です。
よく観察すると同じキャベツでも健康状態がよくて色艶がよいと、青虫の幼虫は芯の部分までは食べようとしません。
しかも、この時期の青虫のフンはキャベツのよい肥料にもなります。
したがって、キャベツは食べられてもなんとか生きていくことができるのです。
キャベツが少しずつ大きくなるにつれて、キャベツを食べる青虫も増えつづけます。
キャベツはかわいそうなほどボロボロになるのですが、ある日を境に様子は一変します。
キャベツ自身が、実の形成のために、芯の部分から葉を巻き始めます。
そして、キャベツ本来の形を整え始めると、外側の葉の緑が自ら出すワックス成分で飴色にコーティングされていきます。
その時期以降は青虫にとっての毒物が作られているようです。
外側のコーティングが完了するころには葉を食べた青虫は死に絶え、一匹も姿を見ることができなくなってしまうのです。
不思議なことに農薬を使ったキャベツではこうした現象はまったく見られません。
つまり、キャベツは一定期間、自身の生長を害されても青虫を育て、モンシロチョウとして旅立たせる努力をするのです。
ところがキャベツ自身が種を残す時期になると、毅然とした態度で青虫の食害をやめさせ、自身の強い種を形成しようとします。
そのような状況で育ったキャベツは実に甘く美味しく、その毅然とした強い意志を持った育ち方を選んだことを私たちに知らしめるのです。
一方、無農薬キャベツで育ったモンシロチョウは旅立ち、また自然界に戻ります。
そうやって、キャベツから得られた遺伝子情報と自身の子孫を守ります。
そして、地球の植物体系の中で、遺伝子を残してはいけない植物を食べに向かうのではないかと私は考えていたのです。」
「農業の常識は、自然界の非常識?雑草で畑を生命育む森にする:高橋丈夫著」