遺伝子解析の進歩によって個々人の疾患リスクの測定が可能になり、百歳現役も夢でなくなりつつあります。
百歳現役のために必要な食事や腸内環境の改善についてご紹介いたします。
がんだけが増加傾向、もはや国民病に
日本人の死因の多くを占める「がん」。もはや国民病ともいわれていますが、心疾患や脳血管疾患が減少傾向にある中、「がん」だけが依然として増加傾向にあります。
2016年1月26日・27日に、東京ビッグサイトで「統合医療展 2016」が開催されました。同展示会セミナーで、若松河田クリニック院長の松岡留美子氏が「自分の健康は自分で守り、百歳現役をめざすために」と題して講演しました。
松岡氏は若松河田クリニックの現役院長で、クリニックでは約1万件の症例をデータベースにした独自の健康診断(スクリーニング)を行っています。松岡氏は約10年前にがんを患い、車椅子での生活を余儀なくされましたが、現在も現役で多くの患者さんの治療にあたっています。
がんの発症率については、0?40歳代では女性の方が高いものの、60歳代以降では男性の方が高くなるといわれています。おそらく、これは女性が50歳代で迎える閉経と関係しているのではないか、と松岡氏は指摘します。
アメリカではこの20年でがんの発症率が男女ともに大きく低下
閉経の前後に女性の体調は大きく揺らぎます。その際、ほとんどの女性が健康に不安を感じ、健康状態を直視するようになります。
そのことから、女性は自身の健康管理に真剣に取り組むことが多くなり、その結果、健やかな60歳代を迎える女性が少なくないようです。
ちなみに、アメリカではこの20年でがんの発症率が男女ともに大きく低下しています。
これは、あまりにがん患者が増加したことから、国民が和食やベジタリアン食などで「食」の見直しを図り、真剣に健康を取り戻す努力をした結果であるといわれています。
現在、コレステロール値はアメリカ人より日本人のほうが高いという調査結果が出ています。日本人は今一度健康寿命の延伸やがん予防のために、食生活を見直す必要がある、と松岡氏は述べています。
自分の免疫力をどれだけ高められるか
現在、日本人の2人に1人ががんで亡くなっています。しかしその一方で、がんと共存する人や、がんの再発の予兆が見られず寿命を全うする人もいます。
この違いは、「どれだけ自身の免疫力が高められるか」ということに関わっています。
例えば、生活環境が劣悪で、体内に重金属などの有害物質を溜め込んでいる人がいます。また、野菜がいい、運動が良い、といっても、まったくその効用が得られない人もいます。
これらのことは腸内環境との関りが深く、腸内に棲む有用菌や悪玉菌のバランスによる免疫力の差で、同じように「良い」といわれる食べ物を食べても効果に違いが出る結果になっているようです。
今、健康な人の便をそうでない人の腸に移植する「便移植法」が話題になっていますが、やはり自力で腸内環境を改善し、有用菌を増やすことのほうが大切ではないか、と松岡氏は言います。
がん歴のある人や免疫疾患のある人は善玉菌が少ない
また、一般的に食事療法というと、その人に必要な栄養素、食事回数、塩分摂取量、糖質摂取量、炭水化物摂取量、タンパク質摂取量などに留意しますが、これらの「摂取目安量」だけを守っているだけでは十分とはいえないようです。
例えば、完熟堆肥と非完熟堆肥で作られた野菜では、抗酸化力や栄養含有量で明らかに大きな差があります。
また、がん歴のある人、肥満の人、免疫疾患のある人は腸内に善玉菌が少ないということもあります。
このようなことから、個々人の食事療法については、まず「食」の品質にこだわり、かつオーダーメードで行う必要があると松岡氏はいいます。
病気の治療や予防に食事療法は不可欠です。百歳現役のためには、やはり腸内環境の改善や質の高い食事で免疫力や生命力を活性化することが大切といえそうです。
病気の発症に3つの要因
がんも含め、病気の発症要因には、遺伝要因、外部要因(ピロリ菌や肝炎ウイルスなど)、増悪因子(生活習慣などの環境要因)の3つがあります。
今は遺伝子解析で遺伝要因のリスク値を測定することもできますが、実際は外部要因や増悪因子の方ががんや病気を引き起こすリスクが高いと松岡氏は指摘します。
現在、外部要因も検査で比較的簡単に見つけられます。見つかれば、がんなども発症する前の未病の状態で予防することも可能です。
増悪因子については、例えば喫煙があります。
喫煙はがんや病気のリスクを高めますが、実はこれは個人差が大きく、なかには生涯喫煙していても健康に影響が出ない場合もあります。
長期間のヘビースモーカーであるにも関わらず、回りに副流煙をまき散らしているだけで、本人は有害物質をほとんど吸い込んではいない(そういう体質)というケースもあります。
その一方で、喫煙者ではないのに生活環境が劣悪で体内に有害重金属を溜めている人もいます。
また野菜がいい、◯◯油がいい、運動が良い、といっても本人の体質に合っていなければ、まったく効果が得られないか、あるいは逆効果になることもあります。
このようなことは腸内環境、さらに免疫と深く関わっており、自分自身を知るためにもやはり健診は大切であると松岡氏は述べています。
がん歴のある人は善玉菌が少ない
松岡氏のスクリーニング検査では腸内フローラの解析も行いますが、太りやすい体質の人、痩せやすい体質の人、うつ傾向にある人、などは特有の腸内環境であるといいます。
腸内フローラの研究は始まったばかりで、最善の状態や平均値というものは存在しません。
しかし、がん歴のある人、肥満の人、免疫疾患のある人は善玉菌が少ないという共通点があるそうです。
がんになっても元気な人や再発しない人は、腸内環境が整っているか、体温が高い傾向にあるということです。
腸内環境は免疫とも密接に関連しますが、免疫力を高めるために必要なのは、腸内環境を整える食事、温熱療法(体を冷やさない)や住環境の見直し(アレルギー対策、シックハウスなど)です。
ハイレベルの健診で「自分自身」を知り、自分に合った免疫力アップを行う必要があると松岡氏は指摘します。
人は有史以来さまざまなものを摂食し、生命を存続させてきました。中でも、発酵食品は健康管理に大きな役割を果たしてきたといえます。
発酵食品、世界中で伝統的に利用
日本で発酵食品というと味噌や納豆がよく知られていますが、世界中至るところに発酵食品は存在します。
どの国や地域においても発酵食品は伝統的に用いられ、健康の維持に良い影響を与えてきました。
2013年5月27日(月)、東京国際フォーラムで、第13回21世紀の食と健康フォーラム「腸と長生き~プロバイオティクスで免疫力アップ」が開催されました。
この中で、東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏が「長寿と発酵食品」と題して講演しました。
日本では、江戸時代、庶民は医者にかかれるほど恵まれた状況になく、体調が悪くなれば「食」で養生するしか方法がありませんでした。
その代表的な「食」に甘酒があります。
江戸時代には甘酒売りが至るところにいました。甘酒が庶民の健康維持に欠かせない食品であったことは多くの文献で紹介されています。
今では、冬にいただく印象が強い甘酒ですが、江戸時代は夏に飲むことが多く、とくに厳しい暑さによる疲れを癒すとされていました。
そのなごりなのでしょう、俳句の世界で甘酒は夏の季語の代表となっています。
発酵食品の4つの特徴
甘酒は米と麹を発酵させたものですが、栄養学的に分析するとその甘さは100%ブドウ糖の甘味です。
また、甘酒の中にはほとんどすべてのビタミンとアミノ酸が含まれています。
つまり甘酒は「完全なる栄養ドリンク」、「現代の点滴」といわれるほど栄養価の高い食品なのです。
こうした甘酒で夏場の不調を乗り切ろうとしていた江戸時代の人々の知恵を我々も活かすことができるのではないかと小泉氏はいいます。
ところで、甘酒に限らず、すべての発酵食品には4つの特徴があると小泉氏はいいます。
一つ目が保存性の高さ。二つ目は滋養成分が豊富に含まれること、三つ目は独特の風味、そして四つ目が生きている食べ物ということです。
発酵食品の保健機能、次々と明らかに
とくに二つ目の滋養成分が豊富という点については、近年さまざまな研究が進められています。
これまで、発酵食品はなんとなく「体に好ましい食べ物のようだ」と、漠然と語られるに過ぎませんでしたが、これに科学的な研究が加わり、素晴らしい保健機能をもつことが次々と明らかになっています。
例えば、ヨーグルトには整腸、ガンの抑制、高血圧予防、免疫機能の向上、アレルギー抑制などの作用が報告されています。
また、食酢には糖尿病や肥満防止、抗潰瘍、血中コレステロール低下などの作用、納豆には血管内コレステロールの排除、血栓溶解、脳卒中や心筋梗塞の予防などの作用が報告されています。
味噌は胃ガンや動脈硬化、動脈硬化性心疾患、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの予防に役立つとされています。
発酵食品は「生きている食べ物」
そして四つ目の、発酵食品は「生きている食べ物」であるということに私たちは最も注目しなければならないと小泉氏はいいます。
例えば、ヨーグルトをスプーンで一口食べるとします。
その中にはおよそ1億個もの菌、つまり生きた命が含まれています。私たちが口にするすべての食べ物で、「生きたまま」食べられる物はそれほど多くはありません。
プロバイオティクス、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物
アメリカ・バーモント州は米国全土で最も病気に罹る率が低いといわれています。
人々は日ごろからシードル(リンゴジュースを発酵させたもの)を飲む習慣があるそうです。さらにここではリンゴ酒を発酵させたアップルビネガーも好んで飲んでいると東京農業大学名誉教授の小泉氏はいいます。
日本では味噌や納豆といった発酵食品を伝統的に摂っています。
これにより日本人の長寿体質の基礎が作られたともいわれています。
大豆といえば、ジャワ島にも大豆を発酵させた「テンペ」という食品がありますが、やはりこれを摂っている人々はクモ膜下出血や脳溢血が少ないということです。
こうした発酵食品の摂食が長寿や健康維持に貢献しているという事例は世界各地で報告されています。
バルカン半島の人々は長寿ですが、その要因がヨーグルトの摂食にあると提唱し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した、ロシアのメチニコフ博士の学説はよく知られるところです。
なぜ、こうした発酵という工程を加えた食品が体に良いのでしょうか。それは、発酵食品が「生きている食べ物」だからです。
腸の中にあって、生体に有益な影響をもたらす生菌はプロバイオティクスと呼ばれています。
プロバイオティクスとは、「宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」を意味します。
発酵食品はそうしたプロバイオティクスを豊富に含んでいるため、腸内環境を改善し、免疫機能を高めることに寄与します。
腸に免疫系の50%以上が集まっている
腸の長さはおよそ7メートルといわれます。
そこに免疫系の50%以上が集まっているといわれていますが、プロバイオティクスの摂取により、腸内での悪玉細菌による有害物質の産生が抑制され、感染防止や免疫調節がなされます。
例えば、肉は消化の過程でアミノ酸になります。
アミノ酸は腸内で悪玉菌と結びつくと、酸化アミノ酸となり、酸化アミノ酸はニトロ化合物という発ガン性物質を発生させます。
これが大腸ガンになりやすい最大の要因であるといわれますが、ここに乳酸菌のような善玉菌が加わると、悪玉菌を抑制し、アミノ酸の酸化を防ぐことが分かっています。
世界中で人々の健康維持に貢献している発酵食品。
その食品を棲家とし、そこで生き続けるさまざまな菌は、人の腸内でさらに発酵を促進させ、菌を増やし生き続けます。
これこそがプロバイオティクスの本領であり、発酵食品の最大の魅力であると小泉氏はいいます。
こうしたプロバイオティクスに対し、プレバイオティクスという言葉もありますが、これは腸内細菌を増やす餌となるもので、食物繊維やオリゴ糖などがあります。
こうしたプレバイオティクスもやはり腸内細菌叢の改善に欠かせない食品といえます。
腸を強くすることが病気予防の一番の近道
腸内の細菌のほとんどは大腸に棲息しています。
その種類と数はおよそ1,000種類以上、100兆個。重量にして1.0~1.5kgにのぼるといわれます。
これらの腸内の共生菌の多くが、私たちの免疫系を維持し、病原細菌の侵入を防ぐなど重要な役割をはたします。
しかし、その種類や数のバランスが崩れると免疫に悪影響を及ぼします。
病気の予防や治療のためにも、腸内共生菌のバランスを保つ発酵食品を摂取することは免疫力の維持のためにも非常に重要なことです。
生活習慣病や医療費高騰の問題が叫ばれていますが、まず日本人の腸を強くすることが病気予防や医療費削減対策の一番の近道ではないかと小泉氏はいいます。