現代人にとって、腸内環境を整えたり、免疫力を維持するには、発酵食品は欠かせないとみています。この理由として、文明生活において、あまりにも菌を浴びる機会を失ってしまったからです。
免疫には生まれる前から備わっている自然免疫と、生まれた後から経験によって獲得していく獲得免疫に分かれます。病原体が侵入してくると、まずは自然免疫が働きます。自然免疫だけでは抑えられない場合、獲得免疫が働きます。自然免疫は早く働きますが、特異性があまりありません。一方、獲得免疫の細胞は抗体をつくるのに感染してから6日前後のため遅いですが、病原体を特定できる特異性があります。
獲得免疫の仕組みの解明により、感染病を救ったワクチン・抗生物質などの開発が進んだため、免疫学では獲得免疫の方をより高度な免疫として重要視されてきました。
しかしながら、近年では自然免疫・獲得免疫の両方の仕組みが対比されることで、自然免疫の重要さに注目されるようになりました。なぜなら、細胞レベル・分子レベルで見た場合、自然免疫を強化した方があきらかに病気の予防や改善につながるからです。実際に免疫の起源は自然免疫にあり、獲得免疫は動物がより高度に進化するにつれ備わったサポート役なのです。そこには多細胞生物が大型化するうえで、自己の細胞なのか、自己でない外来のものなのかを判断する必要があったためです。
自然免疫を強化すると、獲得免疫も釣られて増強されます。近年問題となっている、自己免疫疾患、アレルギー・アトピーなども自然免疫を活性化することで解決できるという研究がたくさん発表されるようになりました。
自然免疫は、不規則に異物を食する原始的な作用と考えられていましたが、最近の研究では、食作用のあるマクロファージなどには病原菌などの異物を感知するTLRと呼ばれる特別なセンサーがあることがわかりました。
このTLRが異物を感知すると、サイトカインなどの炎症物質が分泌され、マクロファージを誘導し働きを活性化させるのです。さらに自然免疫が活性化すれば、獲得免疫の情報伝達も円滑に行われ、アレルギーを予防できるようになります。
そして、TLRが反応するのは菌体成分や菌が分泌する生産物質です。実は、私たちが摂取する菌は生きた菌にこだわる必要はなく、菌の数や菌体成分こそが自然免疫のセンサーに寄与しています。
ちなみにTLRは10種類以上あることがわかっています。これらのセンサーは発酵食品に含まれる菌体成分(生菌&死菌)、生産物質を習慣的に摂取すると作動することがわかっています。
なお、発酵食品は味噌、醤油、漬物、ヨーグルトなどいろいろありますが、日本人は日本の発酵食品が体に合うことが多いかもしれません。また、大量生産のものでも悪くはありませんが、菌に多様性がありませんので、どうせ選ぶならやはり伝統製法で作り上げたものがよいでしょう。
中でも味噌は実にメリットの多い食品です。こうした菌体や生産物質のほか、放射性物質の除去を行うジピコリン酸、腸内環境をよりよくするメラノイジンなども含まれています。
植物食品を発酵させることで、私たちの体に素晴らしい効果をもたらします。私たちがこの現代を健全に生き残る術(すべ)に発酵食品がとても大きなカギを握っているように思えてならないのです。
土壌をふさいでコンクリートで埋めてしまった文明社会で生活するわたしたち現代人は腸内細菌叢の多様性がありません。多様性とは細菌の種類が少なかったり、その数さえも少ないことです。これは微生物の宝庫である土をふさいだコンクリート社会では、仕方のないことです。一方、生活習慣病のあまりない健康的な民族を見ると、非常に多様な腸内細菌叢を保持していることが多いため、私たちはこれを参考にする必要があるかもしれません。
土着的な生活を続けるアフリカの狩猟採集民の腸内細菌は多様性が高いものの、実に悪玉菌が多いです。それでも彼らにガンなどは多く見つかりません。この調査は、現地に滞留している国際機関や宣教師による医療団体の報告でも数多くあります。
では、現代人も彼らのように悪玉菌が多くても健康を維持できるかという話になりますが、一部平気な人もいるかもしれませんが、おそらく現代人の体質では悪玉菌優勢は危険だといえます。やはり増やすなら善玉菌を増やした方が現実的だと思われます。(一概には言えません)
腸内細菌は最近注目され始めていますが、これは健康に関係する間違いのないもので、私たちが体の中にいれた食品の消化や吸収の大きな役割も担っています。このフローラが少ない人(特に最近の子どもたち)は大腸の粘膜を守ることができず、さらに消化や吸収にも影響がおよび、便秘になったり、栄養吸収に障害が起きたり、たんぱく質を上手に分解できないためアレルギーやアトピーになったり、低体温になったり、さまざまな異常をきたします。
本来の腸内細菌叢はその土地その土地で全く異なります。先述のように例えばアフリカの民族ではいわゆる悪玉菌が優勢している中で健康を維持しています。しかし、コンクリート社会になるとそうはいかず、よく言われているように、善玉菌・日和見菌優勢でないと支障をきたすことでしょう。微生物を浴びる機会の少ないこのコンクリート社会では、(土地にもよりますが)乳酸桿菌やビフィズス菌などが優勢である必要があります。しかし、一転して野生生活を営むとこれらの善玉菌優勢では不健康になるという研究もあります。健康的な先住民族の食生活を参考にはしても、鵜呑みにしない方がいい理由はここにあります。
さて、発酵食品をすすめる理由は腸内環境を整えるというとても重要な意味があります。発酵食品は微生物の菌体成分とその生産物質の宝庫であり、死菌でも生菌でもどちらでも自然免疫活性のTLRセンサーのスイッチをONにします。
さらに味噌のように発酵食品に食物繊維があれば、これが善玉菌のエサとなり優勢になっていきます。食物繊維は必須栄養素ではありませんので食べなくても生きていけますが、野生生活をしていない私たちの腸内細菌叢では多様性がありませんので、エサである食物繊維を与えることで善玉菌を培養することが鍵になります。もし食物繊維を食べて便秘になる人はかなり腸内細菌叢の多様性がなかったり、炎症を起こしている可能性があるので、すこしずつ段階的に試していく必要があります。
そのままの大豆製品ではフィチンなどの生物毒がありますが、発酵させれば乳酸桿菌などにより分解されます。微生物は栄養素を吸収しやすい物質に分解し、さらにビタミンも産生しますので、味噌などは総合サプリとしての役割も果たします。
体という土台がしっかりしていなければ、どんなに栄養療法で補給しても燃費が悪いだけです。栄養療法的な食事で土台を形成していくことも大事ですが、それだけではなく微生物曝露、日光浴、山仕事や野生生活のときに使う筋肉部位の負荷、裸足生活、ランニングなどすべての要素を兼ね備えて土台を作ることが肝心なのです。その中にぜひ味噌をはじめとした発酵食品を取り入れて習慣化してもらいたいものです。
健康への興味・関心が高まるにつれて、体に良い食べ物を積極的に摂る人が増えています。そんな流れのなかで、密かに注目を集めているのが「発酵食品」。健康や食生活に関する研究が進むに連れ、古くから伝わる発酵食品の持つパワーとその魅力が見直されています。
「発酵食品」とは、私たち人間が口にする野菜や果物、肉や魚といったあらゆる食材に対して、微生物や酵素の働きを利用して作り出した加工食品のこと。そう言ってしまうと何だか特別な食品のように感じられますが、発酵食品は私たちの毎日の食卓に、必ずといって良いほど登場している非常に身近な食品なのです。味噌、納豆、しょうゆ、漬け物、チーズ、ヨーグルト、ワインなど、数え上げればキリがありません。少し意外かもしれませんが、紅茶、かつお節、ナタデココなども実は発酵食品なのです。
発酵食品の例として挙げた食品を見てみると、私たちが普段から好んで口にしているものや、体に良いとされるものばかり。そんな発酵食品のルーツは、もっとも古いもので「遊牧民が発見した山羊の乳からできたヨーグルト(のようなもの)」といった説や、「カスピ海沿岸で作られたワイン」といった説があります。いずれも、それらが作り出されたのは、紀元前5千年~8千年にまで遡ると言われ、私たち人間とは非常に長い付き合いなのです。
発酵とは、何らかの食材に発生した微生物が繁殖を繰り返し、もともとの食材の成分を変化させることを言います。
実はこの発酵のメカニズム、食材が腐ること=「腐敗」と同じで、私たち人間の体にとって、有益と見なされる場合に限って「発酵」と呼ばれます。食材を発酵または腐敗させる微生物とは、いわゆる「菌」のことで、「善玉菌」と「悪玉菌」に大別できます。善玉菌の代表例が、皆さんもよくご存知のビフィズス菌です。ビフィズス菌は、ヨーグルトなどに入っている菌で、お腹の調子を整えるために重要な役割を果たしてくれます。そのほか、納豆を作る納豆菌、味噌やパンを作る酵母菌など、人間にとって有益な働きをしてくれる菌が善玉菌の仲間になります。一方の悪玉菌とは、大腸菌やブドウ球菌のような人間の体に害になる菌のことです。食べ物を腐らせたり、下痢や食中毒を引き起こしたりするのは、これら悪玉菌の仕業です。要するに、発酵とは善玉菌の繁殖によって、食材の成分が変化することと言えます。
では次に、知っておきたい発酵食品の効果を見ていきましょう。
発酵食品の最大の特徴とも言えるのが、味や匂いです。納豆、くさやといった独特の強い匂いや、味噌や日本酒、パン生地などの甘い匂いなどは、それらを発酵させる微生物が持つ、独特の働きによって生み出されたものです。
また、食材は発酵することによって、匂いと同時に“うまみ”も強くなります。発酵食品のうまみは、食材を発酵させる微生物が食材の成分を分解し、それをさらに際立たせることで生まれます。例えば、かつお節の旨味は、たんぱく質分解酵素の働きによって分解されたたんぱく質が、アミノ酸に変化し、イノシン酸という成分と結び付くことによって生み出されているのです。
さらに、発酵は味や匂いを変化させるだけでなく、食材が持っている「体に良い成分」をより多くすることにも役立っています。体に良いとされる納豆やヨーグルトを作り出す、納豆菌や乳酸菌といった微生物は、発酵を進めていくなかでアミノ酸やクエン酸、ビタミン類などの成分を増やす働きを担っているのです。昔から漬け物や味噌などの発酵食品が「体に良い」と言われているのはそのためです。
食材が発酵することによって得られるメリットは、味や匂い、成分の変化だけではありません。多くの発酵食品は、長期間保存できるという特徴を持っていて、もともと「保存食」として生み出されたものも多くあります。発酵食品に含まれる善玉菌は、食材を腐敗させる原因となる悪玉菌の働きを封じ込める役割や、発酵によって生まれた成分そのものが殺菌作用を持つ場合もあるため、保存性が高いのです。
パンや味噌、ビールといった発酵食品を作り出すために欠かせない微生物の一種が、「酵母」です。一般的には「パン酵母」や「ビール酵母」といった酵母の存在がよく知られています。チーズや味噌、かつお節のような発酵食品を作るときに、大きな役割を果たす微生物の一つがカビ菌ですが、酵母もカビ菌の仲間です。
酵母は発酵食品のもととなる食材が含む糖分を、アルコールと炭酸ガスに分解しながら分裂・成長していきます。この働きこそが食材の発酵なのですが、アルコールを分解しながら進む発酵は、アルコール発酵と呼ばれています。私たち人間は、味噌を作るときには「味噌酵母」を、パンを作るときには「パン酵母」を、といった具合に、作りたい食べ物や期待する効果によって酵母を使い分けています。ちなみに、パンの生地が発酵中に膨らむのは、アルコール発酵によって分解された炭酸ガスの影響によるものです。
酵母は味噌やパン、日本酒、ビールなどの発酵食品を作る際に、原料となる食物の発酵を進めるために使われてきたものです。しかし、酵母に関する研究が進むに連れて、酵母そのものが私たち人間の体に役立つものだと分かってきました。たとえば、代表的な酵母の一つであるパン酵母には、以下の効果も期待できます。
(1)糖の分解作用による生活習慣病の予防・改善
(2)善玉菌の活動を支えて腸内環境を整える
(3)βグルカンの作用によって免疫力を高める
(4)アミノ酸、ビタミン・ミネラル成分の補給