低体温の人は日常生活の中でさまざまな症状を抱えます。疲れがなかなかとれなかったり、イライラしたり、肩こり・頭痛もちであったり、肌荒れ、風邪などを引き起こしやすくなります。
低体温の方は特に屋外での活動には注意が必要です。なぜなら、低体温の人は熱中症になりやすいからです。熱中症にかかりやすい年齢層は一般的に高齢者ですが、低体温の場合は年齢層に関わらず注意が必要です。
通常、汗をかくことで、汗の蒸発により周囲から熱を奪う気化熱を発生させ、その気化熱で体を冷やします。こうして汗によって体温調節することで、人間は体を正常に維持しています。しかし、高齢とともに汗をかきにくくなるため、暑い中でもなかなか体温を下げることができません。
そうなると、体内に熱がこもり、体温上昇によって障害が起きてしまいます。このとき特に影響を受けやすいのは脳です。こうして意識障害などが起こきてしまいます。
低体温の人も高齢者と同様に体温を下げる機能がうまく働きません。低体温の場合、自律神経がうまく働かず、あまり発汗できないため、体内に熱がこもってしまい、熱中症になりやすくなってしまいます。
低体温の原因はさまざまありますが、主には食事です。
タンパク質不足、ビタミン・ミネラル不足などの栄養失調や、糖質の過剰摂取などが原因です。
普段から食事などによりしっかりと平熱を上げ、暑い日中は無理をせず避暑しておくのが望ましいと言えるでしょう。また、定期的な水分補給と塩分補給も忘れずに。
暑い時期になると熱中症予防のため、水分を多く飲むように勧められます。
ところが、『水を飲み過ぎると「水中毒」により死亡する場合がある』とする記事が、毎年熱中症の時期に合わせて、必ず出てきます。
救急医からの提言-1 水中毒は怖くはありません!!
~水中毒とは~
学生時代の理科の授業で、食塩水の濃度の問題がありましたよね。
ある濃度の食塩水に、水を混ぜると食塩すなわちナトリウム(以下Na)の濃度が薄くなります。
これと同じことが、人間の血液の中でも起こります。Naが入っていない水をたくさん飲むと、血液中のNa濃度が薄くなります。
血液中のNa濃度
・正常値135~145mEq/L
・130mEq/L:軽度の疲労感
・120mEq/L:頭痛、嘔吐、精神症状
・110mEq/L:性格変化や痙攣、昏睡
・100mEq/L:神経の伝達が阻害され呼吸困難などで死亡
特にNa110前半からは危険です。昏睡や痙攣を起こした際、多量に飲んだ水を嘔吐して、肺に水が入り込んで溺水、いわゆる溺れ死ぬ状態になる場合もあるからです。
ですが、繰り返します。 「水中毒」は怖くはありません!!
そもそも我々が、血液中のNa濃度が極端に薄まるためには、相当量の水を飲まないとなりません。一般的には水は1日1.5~2Lほど摂る事を勧められますが、水中毒の患者は2Lどころではありません。理論上は、1日に20L飲んでも腎臓から正常な排泄機能がされれば、Naを含めた電解質は正常に保たれるそうです。
つまり、水中毒の患者さんは、1日中水を飲み続けているか、短時間に相当量の水を飲んでいると思われます。
一般の我々は、ある程度水分を摂ると、それ以上は飲みたくないと思う時がきます。
例えばパスタにしても、最初は美味しいと思っても、ずっと食べ続けていると、その内食べたくなくなりますよね。これは高度な認知症の人でも、同じ反応を示します。
我々の脳が、勝手に抑制してくれます。
ちなみにこの反応は一種の「別腹」、正式には「感覚特異性満腹(感)」と言います。
ところが、統合失調症や自閉症などの持病を持っている患者では、この抑制が利かない場合があります。つまり水中毒を発症する人は、特別な持病を持っている人なのです。
統合失調症の患者の約2割に水中毒を合併すると言われています。薬の副作用で水中毒になる事もありますが、非常にまれです。
ちなみに私は救急専属医になって20年以上経ちますが、水中毒の症例は3例、そして全員統合失調症でした。
さて熱中症の時期に、よく水分と共に塩分をいっしょに摂るように勧められますが、これはどうなのでしょうか。
救急医からの提言-2 熱中症対策について
熱中症予防に、水分といっしょに塩分も摂るように勧められます。結論として、塩分にはあまり固執する必要がありません!!
熱中症症状で来院される患者さんは、水の成分が多く減っていて、食塩水の濃度は濃くなっています。
つまり、血液検査をすると・・・ 熱中症の患者さんでは、Na濃度は正常値か高Naです。
水中毒のように低Naの患者さんはまずおりません。
熱中症の患者さんは、純粋に水分摂取量が少なすぎるのです。
塩分に関しては、確かに汗から薄~く塩分が出てきますが、日常の食事で摂っている塩分だけで十分です。
塩分があるに越したことはありませんが、塩分にはあまりこだわらず、のどが渇く前から水を中心にこまめに摂り続ける事が大切です。特に外にいる時は、15分ごとにこまめに摂る必要があります。水は一度にたくさん吸収できませんから。
ただし、岩塩などのようにマグネシウムを多く含む良質な塩は、熱中症とは無関係に重要です。
マラソンなどのように強度が高い運動や、長時間激しい運動をし続ける場合は、水といっしょに塩分も補給すべきです。
さて、もしも熱中症になった場合、どうすればいいのでしょうか。
基本は涼しい所に移動し、首や腋の下など動脈が皮膚に近い所を中心に冷やします。
そして水分類の補給です。
テレビなどでよく勧められるのがスポーツドリンクです。スポーツドリンクに関しては、熱中症症状を起こした時以外は飲んでほしくありません。
飲む側にとっては美味しくできているので、日頃から習慣的に飲む可能性があるからです。そして若い時についた習慣は、大人になると簡単に改める事ができなくなります。
また、スポーツドリンクには砂糖と異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)が多量に入っています。そのため飲み過ぎると、空腹感がなくなり、必要とすべき食事が減ってしまいます。
そして、習慣化すると次のような症状が起きる可能性があります。
・血糖値を大幅に変動させる事で、将来2型糖尿病になる可能性がある。
・異性化糖がAGEs(終末糖化産物)をブドウ糖の10倍も増やして、人間の60兆個の細胞を老化させ、様々な病気の原因を発症させる。
・ブドウ糖も果糖もビタミンB群を多量に浪費させるため、精神症状を発症し、低栄養なのに向精神薬が処方される可能性がある・・・など。
ペットボトルなら、お茶かただの水のように、砂糖が入っていないものを選択する事をお勧めします。甘いドリンク剤は習慣性が高くなると、将来生活習慣病の原因になります。
「過剰な果糖(清涼飲料水、フルーツジュース、リンゴジュースなど)を週5回以上とる20代の若者は、関節炎になる確率が3倍高い」と報告されています。
熱中症を発症した際の一番のお勧めのドリンク剤は、経口補水液「OS-1」です。「OS-1」を飲んだ事がある方はご存知だと思いますが、全然美味しくありません。
「OS-1」は大塚製薬から販売されています。大塚製薬と言えば、有名なのは「ポカリスウェット」です。商品を売るだけなら、「ポカリスウェット」だけでいいのですが、なぜ「OS-1」が売られているのでしょうか。
それは「OS-1」の成分は、WHOが推奨する体内への水分吸収が早い組成を元に作られているからです。熱中症を発症した場合は、「OS-1」が近くで売られていたら、2本飲んでみてください。それでも熱中症症状が改善しなければ、病院で点滴をしてもらう事をお勧めします。
また高齢者や慢性的な持病がある人は、暑さに対する感受性が弱くなっています。
特に高齢者は冷房が嫌いという人も少なくありませんし、持病により水分制限を指導されている場合もあります。周りの方が、気をつけてあげないとなりません。
とにかく塩分にこだわりすぎずに水分を、こまめに(できれば15分ごとに)摂る!摂る!摂る事が大切です。
また暑い時期は冷たい水を、他の季節に比べて多く飲みたくなります。これでは胃が疲れてしまいます。そもそも冷たい水は、体温が36度ほどの我々人間にとって、実は異物が入り込むようなものです。
暑い時期でも白湯、最低でも常温水で水分補給を心がけるようにしてください。
そして、アイスクリームやかき氷などは、胃が温まった食後に食べる事をお勧めします。