日本は世界有数の長寿国ですが、その要因として穀類や大豆中心の伝統食が挙げられています。
そしてもう一つ、有力視されているのが入浴による温浴習慣です。湯船に体ごと漬かる温浴により、ヒートショックプロテイン(タンパク質)が増え、抗老化につながることが明らかになりつつあります。
エイジングファクターとアンチエイジングファクター
人は生きていく上で、老化を避けられません。
誰もがいつまでも若々しく、健康な状態で歳を重ねたいと願っています。
老化を促進する要因は「エイジングファクター」と呼ばれます。代表的なものに、喫煙、飲酒、過度の運動、不眠、過労、紫外線などがありますが、これらのほとんどに活性酸素が関与しています。
同年齢でも老けて見える人と若く見える人の違いは、こうした要因との関わり方にあります。
これとは反対に、老化を防ぐ「アンチエイジングファクター」も明らかになっています。
これには、適切な栄養、抗酸化成分、カロリス(カロリー制限)、適度な運動、睡眠、リラクゼーション、性ホルモンなどがあります。
最近では、この「アンチエイジングファクター」にヒートショックプロテインというタンパク質が加わり、注目が集まっています。このタンパク質は、私たちの体を構成する約60兆個の細胞の全てに含まれ、細胞の老化抑制に重要な役割を果たしているといわれます。
ヒートショックプロテイン、タンパク質の変性を防御
2011年11月14日(月)、有楽町朝日ホールで、「アンチエイジングセミナー ~ライフスタイルをプラスに変える」が開催され、鳥越 俊彦氏(札幌医科大学大学院分子免疫制御学准教授)が、アンチエイジングの最新のキーワードであるヒートショックプロテインについて講演しました。
鳥越氏は、免疫システムにおけるヒートショックプロテインの役割とがんワクチンの開発をテーマに研究しており、アンチエイジングに関しては専門外でした。
しかし、ヒートショックプロテインの働きを知るにつれ、このタンパク質の老化抑制効果に驚いているといいます。
ヒートショックとはその名の通り「温熱刺激」のことです。人体に適度な「温熱刺激」を与えることで、細胞中に多くのタンパク質が作られます。これが、いわゆるヒートショックプロテインです。
私たちの体はさまざまなタンパク質から構成されています。しかし、タンパク質は紫外線など活性酸素による刺激に弱く、すぐに変性し、酸化するという性質があります。こうした変性タンパク質は時間とともに死滅していき、組織に蓄積すると、細胞の機能が低下し老化が進みます。
そのため、アンチエイジングには、細胞の変性、つまり酸化をできるだけ抑制する「抗酸化生活」を送ることが大切です。
とはいえ、忙しい現代人に完璧な「抗酸化生活」は中々望めません。日々、多くの「エイジングファクター」にさらされ、現代人の細胞は酸化変性しがちです。
そこで登場するのがヒートショックプロテインです。ヒートショックプロテインは細胞のタンパク質の変性を抑えるとともに、変性したタンパク質を分解して除去します。つまり人体を構成するタンパク質の管理をヒートショックプロテインが担っていると鳥越氏はいいます。
適度な運動で、ヒートショックプロテインを活性化
農薬や食品添加物、喫煙、飲酒、過度の運動などで活性酸素が過剰に発生し、細胞が酸化ダメージを受けることはよく知られています。また、活性酸素は呼吸や紫外線でも発生するため、活性酸素から完全に逃れることができません。
そのため、私たちの体は老化をたどることになりますが、ヒートショックプロテインを上手に利用することでアンチエイジングがもたらされることが動物実験などから明らかになっています。
例えば、紫外線を大量に浴びたラットは数日たつと体表面にシワが発生しますが、ヒートショックプロテインを活性化させたラットは、紫外線を照射してもシワの量が少ないことが報告されています。こうした実験からも、ヒートショックプロテインがアンチエイジングの大きなカギとなっていることが分かります。
では、ヒートショックプロテインを増やすにはどうしたら良いのでしょうか。まずは適度な運動です。激しい運動は活性酸素を増やす原因になりますが、体を温める程度の適度な運動は、ヒートショックプロテインを増加させます。
また、湯船に体ごと漬かる温浴も効果的です。41度位のお風呂に10~20分程入浴すると、ヒートショックプロテインが活性化し、その効果は1週間程持続します。温泉や入浴剤を利用するとより高い効果が期待できると鳥越氏はいいます。
NK細胞が活性化し、免疫力が高まる
ヒートショックプロテインは年齢とともに減少していくことが分かっています。とくに女性の場合は、閉経を迎えると急激に減少していきます。
最近女性たちの間で流行している美顔器にもヒートショックプロテインの活性を狙った商品が多いようです。
肌表面に「温熱刺激」を与えることで、ヒートショックプロテインが増え、細胞の新陳代謝が活性化し、肌の老化防止に役立ちます。
もちろん美容やアンチエイジングだけではありません。ヒートショックプロテインが増加することで、NK細胞が活性化し、免疫力が高まることも分かっています。代謝が活発になることで脂肪が燃焼されるため、ダイエット効果も期待できます。
発熱はヒートショックプロテインの活性化のためのメカニズム
私たちは風邪を引くと発熱しますが、これもヒートショックプロテインを活性化させるための人体のメカニズムです。
ウイルスなどによって傷ついたタンパク質を修復するために、体は熱を出し、ヒートショックプロテインを増加させ、体を防御しようとします。
高すぎる熱は病院に行くべきですが、一般的な発熱であれば解熱剤は使用せずに安静にし、体に元々備わっている治癒反応に任せるべきであると鳥越氏はいいます。
適度な運度や温浴などの「温熱刺激」でヒートショックプロテインを活性化させ、アンチエイジングやセフルメディケーションに役立てたいものです。
この療法は、がん細胞が正常な細胞に比べて熱に弱いという特質を利用したがんの治療法の一つです。
人間の細胞は、熱を加えた場合、42.5度を超えると急激に死滅します。こうした細胞の特質を利用してがん細胞を攻撃するのが、温熱療法の考えです。
腫瘍の部分を42~43度に温めることによって、その腫瘍を治したり縮小したりして、それ以上大きくならないように抑えることを目的としています。
腫瘍の部分は、血流が少なく、酸素が不足しています。そんな状態の腫瘍に温熱を加えると、その熱が外に逃げず、腫瘍の温度が上がってしまいます。
そのため、がん細胞を殺す温度といわれる42度を超えてしまい、がん細胞が死んでしまうのです。がん細胞は、正常な細胞に比べて、温まりやすく、熱に弱い性質があるわけです。
温熱は、放射線とは逆にがん細胞の壊れたDNAを修復する力を封じる働きがありますので、加熱するとがん細胞は修復することができず、死滅してしまいます。この働きは、抗がん剤療法との併用でも明らかになっています。
温熱療法の大きな特徴は、身体の負担が少ないことと、副作用がないことです。
しかも、がんの初期から終末までどんな症状でも、何回でも治療できるということです。
また、がんの種類を問わず効果が期待できることに加え、外科的な手当てや放射線照射が十分できない、深部臓器のがんの治療法として、近頃は温熱療法が期待されています。
従来、がんの治療といえば、手術、放射線、科学療法が3大療法とされてきて、いまでも主流となっていますが、これに次ぐ第四番目の治療法として、温熱療法です。
最近では、免疫力を高めたり、末期がん患者の心身状態をよく保つためにも、この療法が有用であることがわかってきて、この面でも活用されています。