放射線はどんなに微量でも有害であり、少なければ少ないほどよい。現在ほとんどの人がこのように信じているのではないでしょうか。
世界の放射線の安全をつかさどる国際放射線防護委員会(ICRP)は、「どんな微量でも放射線は危険である」という勧告を発し、1人当たりの自然放射線の年間被曝量の上限を2.4ミリシーベルトに定めています。日本の場合は1ミリシーベルトです。また、屋内ラドン濃度の対策基準として200ベクレル~600ベクレル(Bq/?)を勧告。さらにアメリカ環境保全局(EPA)は、アメリカの肺がん死亡者数の11%(年2万人)はラドンによるものとして、ラドン濃度の室内基準を150ベクレルに規制しています。
確かに、2シーベルト以上の放射線を瞬間的に人間が浴びると、致死率は5%、4シーベルト以上では致死率は50%に達し、7シーベルト以上では全員が死亡します。しかし、この微量でも有害とされる放射線をわれわれは日夜浴びながら生活しています。自然界はさまざまな放射線であふれていて、大地や海、土に育つ植物、そして空から降り注ぐ放射線を浴びながら暮らしています。さらに、地球を取り巻く大気を吸い、大地や海の恵みである食物を食べることで日々の生活の中であらゆる種類の放射線を浴び続けているのです。
地球上では、人間は1人あたり平均年2.4ミリシーベルトの放射線を受けており、一方、高度1万メートル以上の高空では、その強さは地上の150倍に達します。成層圏を飛ぶ国際線のパイロットやフライトアテンダントは、東京・ニューヨークの往復で0.2ミリシーベルトの放射線を浴びるといわれています。週に1回、日米を往復するだけで実に年間約10ミリシーベルトを浴びていることになります。これだけで基準を完全にオーバーしてしまいます。また、1回のCTスキャンで患者は6.9ミリシーベルトもの放射線を浴びます。もし患者が毎月1回スキャンを受けたと仮定すれば、年間80ミリシーベルト以上もの放射線を浴びる勘定になります。彼らはがんにならないのでしょうか?
世界には自然放射線のきわめて強い地域が存在します。例えば中国の広東省陽江県の自然放射線は年間6.4ミリシーベルト、ブラジルのガラパリの海岸では最高6ミリシーベルト、アフリカのある地方の場合は10.2ミリシーベルトにも達しています。
このうち中国陽江県における調査では、年間死亡率で一般の10万人あたり6.7人に対して同地方は6.1人。がん死亡率では10万人あたり66人に対し58人と、いずれも放射線の強い地域のそれが弱い地域のそれを下回っているという結果が出ています。
さらに、米国のアルゴンヌ国立研究所によるラジウムの蛍光塗料に携わっていた作業者たちに対する骨がん追跡調査でも、積算被曝線量が10シーベルト以下では、人体に影響がないことが明らかになりました。
放射線の世界的権威であるフランス医学アカデミーのモーリス・チュビアーナ氏も、自然放射線の許容範囲に関する研究の結果、自然放射線の100万倍の放射線下においても細胞はDNAを修復することができ、自然放射線の10万倍以下であれば、細胞修復やアポトーシスのメカニズムを使うことで、なんら問題も起こらないと結論づけています。
これらの結果は何を意味するのでしょう?
低線量の放射線は、生体に悪影響を与えないばかりか、むしろ有益なものだということではないでしょうか。事実、これまで報告されている限りでは、250ミリシーベルト以下の被曝で治療が必要と認められた症例はひとつも存在しないのです。
ホルミシス臨床研究会代表理事 川嶋朗(東京有明医療大学教授)
ラッキー教授は、長年の研究から「最も理想的な環境は自然放射線の100倍である」と言っています。ホルミシスの分野では便宜的に自然放射線を1ミリシーベルト/年としますから、理想の環境はその100倍、すなわち100ミリシーベルト/年ということになります。
この数字を時間あたりの線量率に換算すると、274マイクロシーベルト/日、1時間あたりでは11.4マイクロシーベルト/時となり、この線量で四六時中刺激を受けるのが理想ということになります。つまり一日中寝たきりでホルミシス治療を受け続けるとして、理想の線量率は11.4マイクロシーベルト/時となるのです。ただこの計算は、末期がんの患者がホルミシスマット上で寝たきりの状態で治療を受けるといった特殊なケースに限られます。現実には四六時中ホルミシス治療を受け続けることは少ないと思われるので、通常のケースでは短時間にもっと高い線量率を照射することが必要だと思います。
例えばホルミシスルームで毎日(1日おき)1時間治療するということになれば、274(548)マイクロシーベルト/時の線量率になります。ホルミシスマットに8(12)時間寝たきりの治療のケースでは34.3(22.8)マイクロシーベルト/時の線量率が理想となるわけです。
ある動物実験では、5~50センチグレイの照射が有効線量域とされています。この数字から計算すると、X線やγ線を照射した場合は、そのまま、5~50センチシーベルト=50~500ミリシーベルトが有効なしきい値ということになります。
以上の事実からみて、「ホルミシス=刺激する」という意味で放射線を治療として用いるなら、10マイクロシーベルト/時あたりを下限とすべきだと考えます。この下限の線量を基準に毎日1時間ずつホルミシスルームに入ったとしても、年間の被曝線量は3.65ミリシーベルト/年にすぎず、CTスキャン1回の被曝にも満たないので、きわめて低容量の被曝であるということができると思います。
一方、治療の上限のしきい値としては、これまで確認された安全値の上限が100シーベルト/年ということから換算すれば、1時間あたり11000マイクロシーベルト/時を超えなければ健康被害は生じません。しかし、われわれはさらに万全を期して100マイクロシーベルト/時を上限とすべきだと考えます。
【ラドン濃度】
一方、この線量域の基準(10~100マイクロシーベルト/時)からラドン線量換算変数を使って計算すると、ラドン濃度は屋内:2500~25000ベクレル/?、屋外:1250~12500ベクレル/?あたりが基準となります。
国際放射線防護委員会(ICRP)は、ラドンに関する放射線防護の基本的な考え方や対策基準を示していますが、それによると、屋内ラドン濃度の対策基準(何らかの措置を施す必要のあるラドン濃度)として、200ベクレル/?~600ベクレル/?(年実効線量として3~10ミリシーベルトに相当)の範囲を勧告しています。
しかし、三朝温泉のラドン濃度は約2000ベクレル/?であり、「ホルミシス=刺激する」という意味で、治療として用いるにはせめて三朝温泉の半分程度の濃度は必要と考え、屋内ラドン濃度は1000ベクレル/?を下限としたいと考えています。
ホルミシス臨床研究会代表理事 川嶋朗(東京有明医療大学教授)