大量の放射線は人体に大きな害をもたらし、小量の放射線は人体に小さな害をもたらす。これが「閾値(しきいち)のない直線仮説」と言われ、放射線に関する現在の定説です。
一方、過度の刺激は人体に害をもたらすが、適度の刺激なら人体に良い作用をもたらす。これは「ホルミシス効果」と言われ、生物学上の常識です。
そこで、放射線の場合に、ホルミシス効果が否定されるのは何故なのか。閾値のない直線仮説は生物学上の常識に反しているのではないのか。
当然と言えば当然の疑問が起こりました。
1980年代、ミズーリ大学の生化学教授だったトーマス・ラッキー博士は膨大な資料を収集して分析した結果、「大量の放射線は人体に大きな害をもたらすが、少量の放射線は人体に小さな害をもたらさないで、むしろ人体に良い作用をもたらす」という仮設を唱えました。
いわゆる「放射線ホルミシス効果」です。
彼の主張は従来の放射線に対する概念を変えるものであったため、当時の学会に大きな衝撃を与えました。
以来、放射線ホルミシス効果の検証が始まり、様々な成果を積み重ねました。
現在の放射線ホルミシス効果に対する関心事は、効果の有無の検証から「閾値」の存在の検証に移っています。
即ち、人体を害しない放射線量の数値はいくつなのか。人体に良い作用をもたらす放射線量の数値はいくつなのか。
放射線ホルミシス効果の根拠の一つとされるものに「活性酸素仮説」があります。
簡単に言えば、
微量の放射線は微量の活性酸素を発生させ、発生した微量の活性酸素は適度な刺激となり、人体に生来備わる活性酸素消去能力を強化し、
SOD活性やP53蛋白を誘導し、がん抑制遺伝子の活性化をもたらすということでしょうか。
人体での臨床結果はほとんど得られていませんが、動物実験レベルでは、電力中央研究所や日本の著名な14の大学等が
①がん抑制効果
②老化防止効果
③糖尿病やリウマチの改善効果等の様々な効果を確認しています。
放射線ホルミシス効果の身近な例としては、末期ガン患者が訪れ、常に予約でいっぱいと言われる秋田県の玉川温泉や鳥取県の三朝温泉が有名です。
放射線ホルミシス効果は全国に広まりましたが、福島の原発事故が発生し、放射線の害や恐怖の面が過大に喧伝されたためでしょうか。
まもなく、下火になりました。
しかし、放射線に対する客観的な理解と評価が定着するに従って、再び普及する可能性を秘めています。
それにしても、一般に浸透するには、針小棒大に語られる万能効果を排し、人体に最適な放射線の数値、あるいは少なくとも人体に害のない数値を確定しなければならないと思っています。
なお、国は一般人に対しては、年間1ミリシーベルトを限度としながら、例えば、原発の仕事に従事する者には、年間平均20ミリシーベルト(1年間で50ミリシーベルトを限度とし、5年間で100ミリシーベルトを限度とする)を限度としています。
信じられない事ですが、国も放射線についての正確な知識がないということではないでしょうか。
そういえば、福島の原発事故の時の総理大臣が「僕は原子力についてすごく詳しい」と言いながら、実は無知だったことがわかり、国民の顰蹙を買ったことがありました。
電力中央研究所の服部禎男氏は、トーマスDラッキー博士の唱えた放射線ホルミシス論を知りました。
電力中央研究所は、14の大学や研究機関に研究費を提供し依頼して、当プロジェクトを立ちあげました。
このプロジェクトでは、
・老化抑制効果
・がん抑制効果
・生体防御機構の活性化
・遺伝子損傷修復機構の活性化
・原爆被災者の疾学調査
のカテゴリーで研究された。
そこで研究され、検討された仮設
①SOD(活性酸素を不均化する酵素群)の活性化によって余分な活性酸素が消去されるなら、それは「老化抑制」に寄与されるのではないか!
②リンパ球(T細胞)の活性化が生じるなら、それは生体の免疫力を高めて「がん抑制」に寄与されるのではないか!
「老化抑制効果」の検証研究の結果
約50センチグレイの低線量放射線を照射すると、老化の特性は有意に改善され、若い値に近づきました。
また、活性酸素病の一つである糖尿病に関して、低放射線量放射が糖尿症状を抑制する結果も得たのだそうです(^^)v
「がん抑制効果」の検証研究の結果
15センチグレイの低線量照射を一回行うことで、がん転移率が約40%下がること。
また、1回当たり4センチグレイの低線量照射を行うことで、腫瘍の増殖肥大が有意に抑制されることが確認されました。
同プロジェクトは、これまでの局所照射方法に加えて、10センチグレイの低線量放射線を週3回の割合で全身に照射し、これを5週間継続して行ったところ、高線量の局所照射を単独に行う場合に比べて治癒率が有意に向上する結果を得た。
同プロジェクトでは、
・分子レベル
・細胞レベル
・個体レベル
3つのレベルにおいての放射線ホルミシス効果が検証されました。
【個体レベルにおけるホルミシス効果】
①制がん・抗がん作用
②活性酸素病に対する効果
③放射線抵抗性の獲得
④中枢神経系への刺激作用
⑤ヒトの疫学的効果