わたしとあなたは同じ慢性疲労症候群(CFS)という診断名かもしれません。
しかしそれは、症状が似通っていることを示しているにすぎません。
慢性疲労症候群(CFS)の原因は人によってさまざまであり、効果のある治療法も人それぞれです。
情報を集めていると、慢性疲労症候群の原因を、特定のひとつのもの、たとえば重金属や髄液漏れや放射能…etcが原因で、それに即した治療をすれば必ず治ると主張している方もちらほらと見かけますが、症状が同じだからといって、すべてが同じ原因で生じているという考えかたは非常に短絡的です。
たとえば、ある式の答えが24だからといって、どのような数を足し算したのかはわかりません。
1+23かもしれませんし、13+11かもしれません。
さらには、3×8といった掛け算でも48÷2といった割り算でも、同じ答えになります。
同様に、わたしたちの世の中は、最終的な目に見える結果が同じでも、原因は異なる様々な事例が存在します。
認知神経科学者マイケル・S・ガザニガが右脳と左脳を見つけた男 - 認知神経科学の父、脳と人生を語る -で書いているとおり、物事は決して単純ではないのです。
私たちはみな、こうした情報のダイエットに弱い。携帯メールや携帯電話で得られる即席の満足感に屈してしまったように、誰もが情報の簡略化に依存するようになった。
それでも、うわべだけの知識人と真の教養人を区別するものは、あらゆるものは単純ではないとわかっているかどうかである。
その秘訣は、どのような話題であっても、その根本にある複雑さを十分に認識しながらも明瞭に語ることができるかどうかにあるようだ。
このブログでは、開設当初から現在に至るまで、慢性疲労症候群(CFS)のさまざまな原因をなるべく偏見なく調査してきました。
その結果、かなり多くの種類に分けられるように思えます。
細かく見ていくと、他にもあるかもしれませんし、わたし自身の無知ゆえの見逃しが当然多くあるとは思いますが、このエントリではひとまずのところ20種類+αにまとめたいと思います。
1.広い意味での慢性疲労症候群(CFS)
一般に、さまざまな精神的・身体的ストレスが重なりあって、神経・免疫・内分泌系のバランスが崩れることが慢性疲労症候群(CFS)の原因とされています。
過労からCFSになる人もいれば、化学物質などの暴露がきっかけになる人もいます。
広い定義なので、原因は定かではなく、以下のいろいろなタイプを含んでいる可能性があります。
まずはこの一冊を読むのが定番です。
日本の疲労研究が明らかにした「慢性疲労に陥るメカニズム」と対処法まとめ
2.ウイルスによる感染後CFS
慢性疲労症候群(CFS)の研究は、アメリカネバダ州インクラインでの集団発生から始まっているので、当初からウイルスとの関係が取り沙汰されてきました。
例えば、エプスタイン・バーウイルスやヒトヘルペスウイルス、マウス白血病ウイルスなどとの関連が調査されています。
ある人たちの症状には、抗ウイルス剤が効果的だったという話もありました。
しかし日本のCFS患者は、ウイルス感染が契機となったケースはそれほど多くないと言われています。
最近の患者の実態調査では、感染後CFSは18%に過ぎませんでした。
主治医は、実際にはもう少し少ないかもしれないとも話していました。
一方で、慢性疲労症候群の2014年の実態調査によれば、感染や発熱がきっかけでCFSになったと述べる人がかなり多かったようです
実態調査の結果、慢性疲労症候群の30%が寝たきり、75%が強い痛み
難病治療研究センターの慢性疲労症候群の実態調査の結果が発表されました。
ただし、慢性疲労のメカニズムそのものに、昔から潜伏感染しているヒトヘルペスウイルスなどが関わっている可能性はあると言われています。
他の原因によって免疫力が低下していたために、潜伏感染しているウイルスが再活性化し、それに対抗するため免疫物質(TGF-βやインターフェロン)が絶えず放出されていることが、疲労感として表れているということです。
後述しますが、脳内に潜伏感染しているヒトヘルペスウイルスの再活性化によって、発達障害や慢性疲労症候群(CFS)が生じるという説もあるようです。
そのような意味では、慢性疲労症候群(CFS)のみならず、うつ病などの精神疾患のメカニズムにも潜伏感染しているヘルペスウイルスが関係している可能性があるようです。
統合失調症や双極性障害とボルナ病ウイルスの関係も指摘されていました。
ウイルス感染を契機としたCFSのアメリカでの研究については、以下の邦訳書が参考になります。
3.菌の感染
細菌の感染が慢性疲労症候群(CFS)につながる場合もあります。
よく知られているのは、Q熱の原因であるコクシエラ菌です。
この場合はQ熱感染後疲労症候群(QFS)と呼ばれます。
わたしの知り合いにはライム菌感染から、CFSとFMになったらしい人もいます。
ライム菌によるライム病は外国ではCFSの類似疾患としてよく挙げられます。
また菌の感染によるものでなくても、腸内カンジダ菌の増殖など、腸内細菌叢の問題が症状を引き起こす場合もあります。
腸内にカンジダ菌が存在するのは正常ですが、何かの原因でコントロールが利かなくなって増殖すると、さまざまな不定愁訴を引き起こすそうです。
4.自己免疫性疲労症候群(AIFS)
慢性疲労を訴える子どもたちの半数に特殊な自己抗体が検出され、自己免疫疾患の診断には当てはまらないものの、不定愁訴を訴えることから、自己免疫性疲労症候群(AIFS)と呼ばれています。
また、自己免疫性の自律神経失調症もあるそうです。
自己免疫疾患は、どれもひどい疲労感を特色としています。
先進国に特に多いので、西洋病とも呼ばれるそうです。
遺伝的特質に加え、先進国にしかない生活スタイルが関係しているといえます。
例えば、化学物質への暴露や食品添加物、重金属などの影響があります。
本来、自然界にないものに休みなく触れ続けることで、敵か味方かを判断する免疫系が混乱し、自分を攻撃するようになるのです。
5.化学物質過敏症(CS)・シックハウス・シックスクール
化学物質への暴露を契機に発症したり、学校や家など特定の場所のみで悪化したりする場合は、化学物質過敏症による慢性疲労かもしれません。
化学物質が原因であれば、特定の化学物質を避けたり、自然食品に切り替えたり、転地療養をしたりすることによって症状が改善する可能性があります。
しかし他の原因がある慢性疲労症候群(CFS)でも、化学物質への過敏性が生じることがあります。
そのため、慢性疲労症候群(CFS)と化学物質過敏症(CS)は中枢性過敏症候群(CSS)という同じカテゴリにまとめられるのではないかと言われています。
6.線維筋痛症(FM)
線維筋痛症(FM)と慢性疲労症候群(CFS)を分ける意味はあまりないかもしれません。
診断基準でも、重複を認める疾患として名指しされています。
線維筋痛症の痛み、慢性疲労症候群の疲労 その違い
朝日新聞デジタルに「線維筋痛症友の会」代表の橋本裕子さんについての記事が掲載されました。
年若いころからつきあってきた激痛を通して「痛みの意味」を考えた簡単な経験談がつづられ、疲労が強ければ慢性疲労症候群、痛みが強ければ線維筋痛症となりますが、実態調査によると、「CFSと線維筋痛症の合併であると想定される群において[重症度が]有意に高い」ことが指摘されています。
痛みが強い場合は、線維筋痛症の専門医の治療も受けることで、症状の緩和を目指す必要があることがわかります。
線維筋痛症もやはり、化学物質過敏症と同じく、ヤーヌスの中枢性過敏症候群(CSS)の一つの分類されています。
線維筋痛症について詳しくは、CSSについても書かれている以下の本が参考になると思います。
「線維筋痛症」は改善できる―原因不明といわれてきた全身の激痛
7.顎関節症
顎関節症による噛み合わせの問題が、全身の筋緊張につながり、ひいては線維筋痛症の慢性疼痛などをもたらす場合があるようです。
顎関節症の治療をすることで、慢性疼痛が改善した、という例があります。
線維筋痛症の9割に顎関節症―交感神経を緊張させる歯列接触癖(TCH)とは
いろいろな痛みや顎関節症の原因となるTCHについて書かれています。
一方で、そもそも顎関節症自体が、別の原因、たとえば極度のストレスによる筋緊張の一部かもしれません。
顎関節症の治療法として、マウスピースを作ったり、歯列接触癖の認知行動的な治療をしたり、リラックス技術を学んだりすることには問題ありませんが、なかには、完治をうたって侵襲的な治療を施している病院もあることに注意が必要です。
安易に歯を削ってかみ合わせを治療するのは、身体に負担が大きく、場合によっては症状が改善しないばかりか、さらにかみ合わせが乱れたりする危険が伴うことを留意して、冷静な判断をすることが大切です。
8.脳脊髄液減少症
おもに事故や外傷後に慢性疲労症候群(CFS)になった場合は脳脊髄液減少症を疑います。
横になると症状が和らぎ、立ち上がるとひどい頭痛がするという特徴がありますが、慢性化するとあまり特徴的ではなくなるそうです。
脳脊髄液が減少していることは、頭部MRI(※矢状断)によって、漏出していることは、RIシンチグラフィーによって判別できます。
事故や外傷によって、髄液が漏れだしていない場合、つまり、いわゆる「脳脊髄液漏出症」ではない場合でも、慢性疲労のメカニズムの一部として脳脊髄液の「減少」が関わっている可能性が指摘されていますが、今のところは各人が検査してみるほかないでしょう。
脳脊髄液減少症について詳しくは、第一人者による以下の書籍をおすすめします。このブログでの書評はこちら。
慢性疲労症候群(CFS)のタイプ分け―20種類以上の原因
慢性疲労症候群(CFS)は人によって原因や症状が異なる症候群です。
さまざまなタイプに分けられ、それぞれ治療法も異なります。
このエントリでは、20種類以上の慢性疲労症候群の原因に着目
また子どもの慢性疲労症候群と混同されやすい小児期発症の脳脊髄液減少症についてはこちら。
9.起立性頻脈症候群(POTS)
子どもの慢性疲労の場合には、思春期に伴う自律神経の乱れによる、起立性調節障害(OD)が関わっています。
朝起きられず学校に行けない子の「起立性調節障害(OD)」とは
よくある誤解と正しい対処法
朝、起きられない。
目覚めても顔色が悪くぼーっとしている。
起き上がろうとするとフラフラする。
日中はだるいが、夕方からは元気になる。
思春期の子供に発症しやすい疾患、起立性調節障害(ODODには近年発見されたものを含め、6つほどサプタイプがありますが、そのうち起立性頻脈症候群(POTS)は疲れやすさが目立つそうです。
起立性調節障害と子どもの慢性疲労症候群(CFS)の境目は不明瞭ですが、起立性調節障害のような自律神経症状は身体のアラームとして、比較的初期に現れる症状だと言われています。
不登校状態になり、慢性化すると自律神経症状が消えてしまうからです。
起立性調節障害の一部は大人になっても残りますし、成人の慢性疲労症候群(CFS)の疲れやすさにも起立性頻脈などの自律神経症状が関わっていると言われています。
起立性調節障害(OD)にしても慢性疲労症候群(CFS)にしても、生まれつき心臓が小さいスモールハートが関係していることが指摘されています。
慢性疲労症候群(CFS)の循環器異常については三羽先生が研究しておられます。
慢性疲労症候群(ME/CFS)の27%は体位性頻脈(POTS)を持っている
CFS患者と体位性頻脈(POTS)の患者には互いに重なり合っている部分があるようです。
また、常に血圧が低い低血圧の人や、安静時でも心拍数が高い人は体質的に疲れやすいと言われています。
10.放射線被曝
放射線被曝による慢性疲労について、ネット上に存在する極端な意見すべてを信じることはできません。
しかしチェルノブイリ事故の後に慢性疲労症候群(CFS)がみられたことは事実ですし、何より、わたしの知り合いに、慢性疲労症候群に極めて似た症状に長年苦しんだ原爆による被爆者の方がいました。
慢性疲労症候群(CFS)はさまざまな身体的・心的・生物的・化学的ストレスにさらされることで発症しますが、極度の放射線被曝もそのようなストレスのひとつとなりうるのだと思います。
このブログでの簡単な解説記事はこちら。
放射線被曝に伴う一部の症状と慢性疲労症候群(CFS)はしばしば非常に似通っているとされます。
最近のネット上の資料を元に、その関係を考察しています。
11.副腎疲労
副腎疲労は1990年にジェームズ・L・ウイルソンによって提唱された概念です。
さまざまなストレスや偏った食生活によって、副腎の機能が低下した状態。
副腎の機能が著しく低下している場合は、アディソン病といいますが、そこまで至らなくとも、機能が低下している状態をいいます。
副腎疲労は副腎から放出される抗ストレスホルモンである、コルチゾールやDHEAの測定で判断することができます。
一般の病院で行われている検査では、基準値内と出るかもしれませんが、普通の人より低値です。
より詳しくは、唾液中コルチゾールの日内変動などを調べるそうです。
治療法としては、生活習慣を正すこと、塩分を摂ることのほか、高濃度ビタミンC点滴療法や、DHEAの服用などがあります。
いつも疲れきっていて疲れが取れない。朝起きられない。
その原因はアドレナル・ファティーグ(副腎疲労)にあるかもしれません。
医者も知らないアドレナル・ファティーグ―疲労ストレスは撃退で
12.重金属の蓄積
例えば歯科治療に用いられていた詰め物(アマルガム)や、魚に蓄積された水銀が原因で、慢性水銀中毒になり、アレルギー疾患や慢性疲労症候群、線維筋痛症と似た状態になることがあるようです。
線維筋痛症の戸田先生のブログによると水銀を除去したり、食生活を変えたりすることで、慢性疲労症候群が改善した例があるそうです。
体内の水銀を減らせば慢性疲労症候群が改善する :
腰痛、肩こりから慢性広範痛症、線維筋痛症へー中枢性過敏症候群ー 戸田克広
ただし、ワクチンに含まれる水銀と自閉症との関係は一般には否定する研究が多くあります。
さまざまな思惑がからむ分野なので、真偽はよくわかりません。
重金属が自己免疫に及ぼす影響については、先述の免疫の反逆にも載せられています。
13.低血糖症や腸管粘膜の問題
慢性疲労症候群(CFS)には、血糖値の調節異常や栄養素の欠乏といった食生活が関係しているかもしれません。
その場合には、分子整合栄養医学(Orthomolecular-nutrition-and-medicine)の観点からの治療が功を奏します。
特に常にだるさを特色とする血糖値の調節異常は無反応性低血糖症と呼ばれています。
これは五時間糖負荷検査という特殊な検査で確かめることが可能です。
また各種栄養素の欠乏や、適切に栄養素を吸収できないリーキーガット症候群という腸管壁の問題が関係している可能性もあります。
食物による血糖値の調節異常や栄養素の不足ではなく、特定の食物の隠れアレルギー、つまり、すぐに反応が現れるIgE抗体のアレルギーとは異なる、IgG抗体の遅延性アレルギーが関係していることもあると言われますが、科学的根拠が十分でないとする意見もあります。
IgGの検査結果は必ずしも症状の原因とは限らないと言われていますが、検査を受けた結果、さまざまな食物へのアレルギーを意識しすぎるようになって、極端な食生活に走り、より体調が悪化してしまう人もいるようです。
また、アレルギーとは異なり、さまざまな種類の食物不耐症が関係している場合もあり、グルテンフリー、カゼインフリーなどの食事療法でよくなる場合もあります。
慢性疲労症候群やその周辺の病気の治療を考える際