腸内細菌叢に有益となる微生物(プロバイオティクス)や物質(プレバイオティクス)を食事やサプリメントから摂取して、腸の健康に役立てようとする考え方は、世間一般にも広く知られるようになりました。
最近では、同様の考え方が「スキンケア」の分野にも応用され始めています。
アメリカ化学会(ACS)発行の『Chemical & Engineering News』5月8日号では、カバーストーリー(表紙に関連する特集記事)において、ニキビから皮膚炎にいたるまでのさまざまな皮膚疾患の治療に役立てるべく、皮膚微生物叢を調整するような製品の開発や販売がスタートしていることを紹介しています。
実際に、日本でも有名な欧米の生活用品メーカーや化粧品メーカーが、「微生物入りコスメ」を開発中なのだそうです。
例えば、ニキビ(尋常性ざ瘡)といえば、“原因菌”(アクネ菌)を薬で殺菌しようとするのが、現代の慣習医療のやり方です。
しかし近年では、特定の菌が“悪玉”というわけではなく、皮膚常在菌叢のアンバランスがニキビ発症の原因ではないかとする研究報告もありますし、アクネ菌がつくり出す強力な抗酸化物質が、むしろ私たちの皮膚を防護していることも分かっています。
また、市販のニキビ治療薬が重篤な副作用(アレルギー反応)を引き起こす恐れがあることも警告されています。
つまり、皮膚常在菌を徹底的に殺傷するのではなく、健康的な常在菌叢のバランス是正に注目すべきである・・・という概念や考え方の大転換期、いわゆる「パラダイムシフト」が訪れようとしているわけです。
これは、水虫(足白癬)やカンジダ症のほか、アトピー性皮膚炎や乾癬、金属アレルギーなど、あらゆる皮膚疾患へのとらえ方が大きく変わるきっかけになる可能性もあります。
体の部位によって皮膚微生物叢は微妙に異なりますし、個人差もあるでしょうし、理想的な微生物叢の定義についても、まだまだ未知の世界です。しかしこれを機に、身の回りの微生物を悪者扱いするのではなく、「常在菌たちと仲良く暮らす」という考え方が、よりいっそう世間に広まっていくことを期待せずにはいられません。