口腔細菌                            池澤 孝夫


腸内と同じ密度で細菌がすむ場所  

自分の体の中にすんでいる細菌というと何を連想しますか。 

多くの方々は腸内細菌を思い浮かべるのではないでしょうか。

確かに腸管内には多くの細菌が生息していますが、われわれの体にはもう1カ所、腸管に引けを取らないほど大量の細菌が生息している場所があるのです。

それは、口の中(口腔<こうくう>内)です。

口腔内からは、約500~700種類の細菌(口腔細菌)が検出されており、歯磨きなどで口腔ケアが十分できている人は約2000億、十分でない人は約4000億~6000億もの細菌がすんでいます。

 

一方、腸管内には約700~1000種類の細菌が、総数500兆~1000兆生息しているといわれています。

腸管は総表面積が約32平方mで約20畳分あるといわれていますが、口腔の総表面積は約200平方cm程度です。

つまり、腸管内と口腔内にはほぼ同程度の密度で細菌が生息していることになるのです。

 

多様な性質を持つ口腔細菌

体の決まった所に生息する細菌を常在菌と言い、多くの場合、常在菌は生息する部位で固有の細菌叢(そう)を作り上げています。

口腔内に生息する細菌は、腸管内に生息する細菌よりも多様な性質を持っています。

その理由の一つは口腔特有の構造的(解剖学的)なもので、もう一つは機能的(生理学的)なものだといえます。

 

まず、構造的(解剖学的)な面からみてみましょう。

口腔はわれわれの体内でただ1カ所、歯肉という軟組織から歯という硬組織が生えている部分です。

口腔内では硬組織の歯に付着する細菌と、軟組織の歯肉表面の粘膜に付着する細菌という、全く異なった性質を持った細菌がすみ着くことになります。

歯や歯肉は頻繁に空気に触れるので、これらにすむ細菌は酸素のある状態で生育する「好気性菌」です。

 

一方、デンタルプラーク(歯垢<しこう>)の中は酸素があってもなくても生育する「通性嫌気性菌」が主役で、歯と歯肉の間にある「歯肉溝」の深部は酸素濃度が低いため、歯周病の原因菌のような酸素を嫌う「嫌気性菌」の絶好のすみかになります。

このように、口腔内は幅広い細菌種に適した環境が出来上がっており、その結果、嫌気性菌中心の腸管内とは全く異なる細菌叢が作られているのです。

 

凝集して過酷な環境に適応

次に機能的(生理的)な面をみてみます。

口腔内は1日当たり約1.0~1.5Lもの唾液が分泌され洗浄されています。

また、上下左右3本ずつの奥歯「大臼歯」をかみ合わせた時の圧力「咬合(こうごう)圧」は約80kgにもなるといわれます。

 

したがって、口腔細菌が口腔内にとどまるには、これらの環境の中で歯や粘膜にしっかりと付着する能力が求められます。

口腔内では細菌同士が互いに凝集した「バイオフィルム」を作ります。

この細菌の塊がデンタルプラークです。

 

余談ですが、腸内細菌には口腔細菌と同じような凝集力はありません。

もし、そんな凝集力があったら、大きな糞(ふん)塊が形成され、しつこい宿便で悩むことになるかもしれません。

 

*落合邦康 / 日本大学特任教授

 

口腔細菌叢を形成する細菌種は一生の間で大きく変化します。 

まず、歯があるか、ないかによって大きく変わります。

ですから、歯のない乳幼児と歯のないお年寄りの口腔細菌叢は極めて似ています。

歯のないお年寄りが入れ歯を付けると、歯がある人と似た細菌叢に変わります。

また、菌数は少ないですが、乳幼児は歯が生えるとほぼ同時に、虫歯菌や歯周病菌が検出されるようになります。

 

口腔細菌の大部分は、家族内感染したものです。

母体内では胎児はほぼ無菌状態ですが、出産直後には母親の産道の菌が口腔から検出されます。

その後、家族内感染し、成長と共に複雑な細菌叢が形成されます。

結婚と同時にパートナー同士で菌をうつしあい、夫婦間で新たな細菌叢が形成されます。

したがって、口腔から検出される細菌叢は、家族内では類似性が高くなります。

 

う蝕(うしょく=虫歯)の多い家族は、甘いものを食べる食習慣ばかりでなく、虫歯菌を多く持つことも分かっています。

歯周病でも同じようなことがいえます。

悪い習慣も、悪い菌も代々受け継がれることになります。

 

寿命とは常在菌と共存できる期間

健康な人の口腔細菌叢は善玉菌が9割を占めています。

しかし、口腔は細菌の増殖にとても適していますので、口腔ケアが悪いと無秩序に細菌が増殖してしまいます。

そのため、プラーク量が増加してう蝕や歯周病の原因となります。

 

そればかりでなく、口腔内の細菌が増殖すれば、さまざまなルートから歯周病菌などの悪玉菌が血管や呼吸器内に侵入する危険性が高まり、心臓病や肺炎など生命に関わる疾患を起こしやすくなります。

実際に、高齢者の重要な死亡原因である誤嚥(ごえん)性肺炎は、口腔の常在菌であるデンタルプラーク中の細菌や歯周病菌が原因菌の一つであることも分かっています。

したがって、「寿命とは常在菌と共存できる期間」と考えることができ、口腔内の細菌を上手にコントロールすること、つまり「口腔ケアは健康長寿の鍵」といえます。

 

口腔細菌が「体内の炎症」となり「様々な病気」の原因になっているという考え方もあります。

「糖質過多」は「インスリンレベル」を上昇して「虫歯や歯肉炎」の原因になります。

 

「正しい口腔ケア」と「過剰な糖質摂取を避ける」、この二本立てで「口から起こる病気」も予防していきたいですね。

 








          たきがみ博士の想い

 

誰でも、自分の中に伝統がある。自分が経験したすべての過去の累積、それが”いま”のわたし。

過去とは思いだすこと、現在(いま)は過去の必然、そして、未来は想い、選択すること。

いまは、変えられない。

しかし、人には明日があり、未来がある。明日は、こうありたいと想いを持つことができる。

 

すてきな明日に向かって、”これからへの想い”を具体化するJourney、しっかり楽しみたいと思います。

そして、”いま、ここ”を丁寧に活きる。

みずからの人生の軌跡を、すてきな笑顔でみつめるために。

 

旬(ときめき)亭 亭主 たきがみ博士
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