子ども達が保育園や幼稚園に通い始めるとすぐに風邪もらってくるようになります。
もはや保育園に通っているのか、風邪をもらいにいっているのか分からないくらいの頻度で風邪をひくこともあります。
そして先生達によく言われることが「子どもは風邪をひくことで免疫力を高めている」という話。
この言葉を信じて何とかこの状況が早く終わることを親は願うのですが、これは果たして本当なのでしょうか。
子ども達が風邪をひくことは、避けられないのでしょうか?
避けられるのなら、避けるためにはどうしたらいいのでしょうか?
ヒトの免疫機構
ヒトの免疫機構には大まかに2つのステージによって成り立っています。
ひとつは自然免疫機構とよばれるもので、ヒトが生まれつき備え持っているものです。
もうひとつは獲得免疫機構で、各病原体に対して免疫機構を作っていく後天的なシステムです。
自然免疫
病原体が体内に入ってくること自体を防ぐシステム
最初の防御システムは、病原体自体を身体の中に取り込まないようにするシステムです。
例えば、口や鼻、目、耳には粘膜があり、そこには樹状細胞とよばれる免疫細胞が存在します。
それらが病原体を捕らえ体内への侵入を防いでくれています。
また樹状細胞は病原体を取り込み断片に分割し、後述するヘルパーT細胞が病原体を認識できるようにします(このような細胞を抗原提示細胞という)。
また、胃にまで到達した病原体は胃酸によって分解され、肺に到達した病原体は痰と一緒に吐き出されるシステムをヒトは持っています。
NK細胞や好中球・マクロファージによる貪食
粘膜が進入を防ぎきれなかった場合は、NK(ナチュラルキラー)細胞や好中球、マクロファージによる自然免疫機構が活躍します。
NK細胞は細胞障害性リンパ球の一種であり、脳からの攻撃指令がなくても、侵入者を発見次第すぐに攻撃態勢に移ります。
ヒトの免疫機構の最も要となる戦士です。
好中球とは白血球の一種であり、生体内に進入してきた病原体を飲み込み、酵素によって分解します。
普段は血液中に存在していますが、細胞からの要請を受けると、組織内に入り込み、そこで活動することもあります(このプロセスを化学走性という)。
マクロファージは白血球中の単球が様々な組織に入り分化したものであり、死んだ細胞や断片、体内に生じた変性物質や病原体を貪食します(このような細胞を食細胞という)。
また、好中球に指示を出したり、後述するヘルパーT細胞へ病原体の情報を伝達する役割も持っています。
獲得免疫
抗体による非自己物質への攻撃
病原体の増殖が早く、自然免疫機構のメンバーでは対処しきれなかった場合、抗体による免疫機構が作動し始めます(獲得免疫)。
抗体は一つの抗原(病原体)にしか作用できません。
抗原は無数(確認されている風邪ウィルスだけでも200以上)に存在するので、それに対応する抗体も無数に存在すると言えます。
しかし、獲得免疫システムは記憶することが出来ます。
したがって、一度かかると二度とかかりません。
これが風邪をひいて免疫力を高めると言われる理由でもあります。
獲得免疫機構で主に活躍するのは、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞。
マクロファージから獲得免疫機構に要請がくると、最初に動き始めるのは、ヘルパーT細胞です。
ヘルパーT細胞はマクロファージから送られてきた病原体の情報を元に、B細胞にどのような抗体を作ればよいのか指示を出します。
また、Tキラー細胞には病原体攻撃の指令を出します。
まさに獲得免疫機構の司令塔です。
指令を受けたB細胞は、病原体と結合できる受容体を持っており、病原体と結合したB細胞は形質細胞と呼ばれる細胞に変化します。
形質細胞は病原体によって刺激を受けると、病原体に有効な抗体を生産し始めます。
この抗体ができるまでには、5日程度要するといわれています。
風邪をひいてしばらく熱が下がらないのは、B細胞が抗体を作っている期間です。
抗体が生産され始めると、速やかに病原体が攻撃され始め病原体が生体内から除去されていきます。
またこの活動を促進させたり抑制させたりするのが、サイトカインとよばれるタンパク質で、マクロファージとヘルパーT細胞が協力して放出します。
Tキラー細胞とB細胞はこのサイトカインによって活性化したり、活動を抑制したりします。
子どもは風邪をひくことで免疫力を高めているのか
最初の話題に戻りますが、こうして免疫機構を一つ一つ見ていくと、獲得免疫機構は病原体に対して非常に強力ではあるものの、B細胞が抗体を作るまで時間を要します。
一方、自然免疫は戦力は弱いものの、脳の指令がなくても活動を続けてくれるNK細胞はとても頼もしい存在です。
「風邪をひくことで免疫力を高めている」というのは、B細胞が抗体を作り出し、再び同じ病原体が進入してきたときに速やかに対応できる能力を身に着けることを言っています。
したがって、これは本当であるといえます。
しかし、B細胞が生産する抗体は一つの病原体にしか対応できません。
新たな病原体が出現すれば、もう一度日数を要して新たな抗体を作り出す必要があります。
現在知られている風邪ウィルス(ライノウィルス、コロナウィルス、インフルエンザウィルス、アデノウィルス)だけでも100種類以上が存在しています。
また突然変異によって新たな姿になって、体内に侵入してくることもあります。
これらの抗体を全て作っていこうとすると、年に3回風邪をひいたとしても30年以上かかってしまうことになります。
その地域に特有のウィルスというものが存在するにせよ、抗体に頼る免疫機能向上を考えことは、決して効率のよい話ではありません。
「風邪をひくことで免疫力を高める」というのは、本当だけども頼りすぎても免疫が強くなるわけではない、と言えそうです。
免疫力を高める食事と生活習慣
獲得免疫に頼らず免疫力を高めるには、自然免疫に頼るしかありません。
自然免疫にはNK細胞という非常に優秀な戦士が居ますので、彼らが増えやすい環境を作ること、彼らが体内で存分に働いてくれるようにしてあげることが、免疫力を高めることにつながるといえます。
もちろん獲得免疫も重要ですので、獲得免疫機構で働く細胞にとって必要な栄養素も見ていきます。
免疫力を高める栄養素と食事
タンパク質
NK細胞の細胞質の顆粒には、パーフォリンやグランザイムとよばれるタンパク質が含まれており、これが細胞傷害活性の中心的な役割を担います。
また、B細胞が外部からの侵入者に付着させる抗体、T細胞が分泌するサイトカインはタンパク質からできています。
また、損傷を受けた細胞や細菌、ウィルスなどを捕食する食細胞は、タンパク質が豊富な免疫細胞です。
このように免疫機能の中心となる細胞や物質は、主にタンパク質から構成されています。
タンパク質があってこそ免疫系は働くことができます。
ビタミンD
ビタミンDは骨の形成を促進するホルモンのような機能を持つことが知られていますが、それ以外にも様々な機能を持つことが近年明らかになってきています。
その一つが免疫力との関連です。
ビタミンDは日光によって体内で形成されるため、血清ビタミンDレベルは夏が最も高く、冬に最も低くなります。
実は、冬に風邪を引きやすくなるのはビタミンDが不足するためではないかとも示唆されています。
またビタミンD投与により、インフルエンザの感染率が有意に低下することも分かっています。
最近の調査では、日本人の子供の血清ビタミンD濃度が年間を通じて20ng/dl以下であることも分かってきています。
40ng/dl以上あることが望ましいとされています。
亜鉛
亜鉛は免疫系の様々な機能に影響を及ぼすミネラルです。
自然免疫系、好中球及びNK細胞を媒介する細胞の正常な発達や機能を助けます。
また食細胞であるマクロファージの食作用やサイトカイン産生も全て亜鉛が不足している場合は機能が弱まります。
さらに、T細胞やB細胞が増殖するときにも亜鉛が必要です。
風邪をひいたときに味覚がおかしくなったりするのは、免疫系に亜鉛が多量に使われてしまい亜鉛不足になってしまうことに起因します。
生きるために食べる
食に興味を示さない子どもの背景に亜鉛不足
亜鉛欠乏があると味覚障害を起こすことはよく知られていますが、これには下の5つのパターンがあると言われています。
味覚減退・味覚消失味の感じ方が鈍くなったり、味が全く分からなくなったりすること異味症本当は甘いのに苦く感じるなど、実際とは異なった味を感じ...
マグネシウム
最近の研究ではMgと免疫系には強い関係があることが知られ始めています。
特に喘息との関係や運動選手における免疫系が注目されています。
ビタミンA・βカロテン
βカロテン(ビタミンA前駆体)を多く含む野菜を食べると、NK細胞が活性化することが分かっています。
同様に、ビタミンA(レチノイン酸)はT細胞増殖を促します。
一方で、B細胞増殖を阻害したり、アポトーシスを阻害する場合もあります。
ビタミンC
ビタミンCが風邪に効くといわれ始めたのは、オーソモレキュラー療法の創立者でもあるライナス・ポーリング博士がその関係について言及したことが始まりです。
免疫に働くビタミンCは蓄積することも可能であり、食細胞とT細胞が働くためにはビタミンCが必要であると言われています。
発酵食品
私達の身体の中でNK細胞は50億個程度存在しているといわれています。
そしてその多くが腸に存在しており、腸内細菌叢の状態がNK細胞の活性を左右します。
腸内細菌の善玉菌として知られている乳酸菌は、NK細胞を活性化させます。
ヨーグルトなどの乳酸菌を多く含む食品が風邪予防として売り出されているのは、このような背景があるからです。
しかし、実際は乳酸菌である必要はありません。
さらに言えば、「生きたまま乳酸菌を届ける」というふれこみのヨーグルトも存在しますが、菌が生きている必要もありません。
なぜなら、NK細胞は生きた乳酸菌に反応するのではなく、菌体成分や菌の分泌物に反応して活性化するといわれているからです。
したがって、乳酸菌(特に生きた乳酸菌)に拘る必要は全くなく、菌の数を増やすことが重要であるといわれています。
以上のことから、味噌や納豆、ヨーグルト、キムチなど良質な発酵食品を毎日食べることが、NK細胞を活性化させる食事であると言えます。
睡眠
睡眠不足が続くとT細胞が減少することが多くの研究で分かっています。
就学前の子ども達に必要な睡眠時間は11時間以上だといわれています。
生きるために食べる
就学前の子どもの睡眠不足が就学後の神経行動機能に影響を与える
就学前の子ども達の睡眠時間が短くなると、就学後に精神的、感情的なコントロール機能が低下する可能性があることを示した調査がJournal of Academic Pediatricsに報告されています。
就学前の子ども達には11時間以上の睡眠時間が必要だとまとめています。
ユーモアと笑い
面白い動画を見せて人を笑わせると、NK細胞が増加するという実験があります。
ユーモアとNK細胞の数
ユーモアレスポンススケールが高くなるほど、NK細胞の活性化も高まっていることが分かります。
逆に、悲しい動画を見せるとNK細胞の数が少なくなるそうです。
大事なことは、本人が笑ったかどうかが重要だという点です。
どんなに面白いことでも、子どもが笑ってなければ意味がありません。
しかし、笑いは最も簡単に免疫力を高める方法だと言えます。