人が長時間の絶食状態や、長時間の運動にも適応することができるのは、脂肪もエネルギー源として利用できることにあります。
グリコーゲンとして貯蔵される糖に比べ、脂肪の貯蔵量は比べ物にならないほど大きく、余った糖も脂肪として蓄えられます。
細胞レベルでは糖も脂肪も両方エネルギー源にできますが、同時にはできません。
糖を利用しているときには脂肪は使えず、逆も同様でこれをランドルサイクルと呼びます。
このランドルサイクルがあるので、絶食状態で血糖値が低下してくると脳以外の大きな器官は脂肪を主に使うようになり、結果、糖を脳に優先してまわすことができ、さらに肝臓がケトン体を作り出して脳に供給することで、より糖を節約することが可能となるわけです。
まさに人が生き残ってこれた仕組みです。
この脂質を主要なエネルギー源としている状態で体が糖の利用をブロックする能力のことを、言い換えると生理的インスリン抵抗性の状態といいます。
急に炭水化物をとっても体はすぐには対処できず、高血糖をきたすのでインスリン抵抗性が見かけ上、生理的に起きている状態というわけです。
このランドルサイクルから、今度は糖質を主要なエネルギー源としているときは脂質の利用は制限されることが理解できます。
食事でとった脂質が、本来たまるべきではない肝臓や筋肉などに蓄積されやすくなり、これがインスリン抵抗性の原因となります。
インスリン抵抗性の治療とは、これらの蓄積された脂肪をフラッシュアウトすることが必要です。
糖質制限とは、糖質を制限することで脂質代謝モードを強化し(ケト適応)蓄積された脂肪を一気にフラッシュアウトしてしまおうという方法論でした。
これは短期的な効果にかなりの確実性がありましたが、長期になると人により様々な問題を生じてきます。
生理的インスリン抵抗性や糖新生の亢進からかえって血糖の乱高下を生みやすくなったりすることや、LowT3症候群などです。
LowT3症候群とは生理的なエネルギー節約状態です。
生理的であるから病気ではないということはできません。
なぜなら体に負荷がかかっていることには変わりはないからです。
ダイエットというものはどんなものであれ、体に負荷をかけるものです。
いわばメリットとデメリットのトレードオフです。
長期間行うようなものではありません。
人本来の代謝の中心は糖であるという立場で見れば、糖質制限を長期に継続することは不自然であるため、いろいろ不都合なことが出てくるのは当然でした。
しかしながら、脂質つまりケトン体を利用することが本来の人の代謝であると考える立場に立てば、話は全く逆になります。
そもそも糖はとる必要がなかったということであれば、いろいろな不都合な点についても問題ないということができてしまいます。
違った立場でそれぞれ主張しあうのは、いろいろなことがわかってきていいことだと思いますが、議論は避けた方が賢明でしょう。
立場を変えようとしない限りわかるわけがない。
問題は細胞の中に蓄積した脂肪を、ではどうやってフラッシュアウトするかです。
Dr Fungの糖質制限と間ファスを併用した方法ではなく、糖質をとりつつの(糖質選択)間欠的ファステングは、一つの答えになるかと考えました。
方法論としては間違っていないと思います。
しかしやはり糖質制限と同様なかなか実行することは簡単ではない人が多いということもわかってきました。
糖と脂質は同時には利用できない。
糖質を制限することは長期的に問題となるのであれば、逆に脂質を制限するというのはどうでしょうか
つまり、糖質を主要なエネルギー源とするとき苦手となる脂質の方を制限するわけです。
これなら生理的インスリン抵抗性とは逆の現象、つまりインスリン感受性が上がることはわかっています。
インスリンの利きが良くなることで結果的にインスリン分泌の量を減らすことができれば、食事の間隔があいたり空腹時には脂肪の分解は逆に進むことになる。
糖質代謝を抑えるのではなく、亢進させるというまさに真逆の方法論ですが、実際にリサーチが行われ、効果が確認されていたのを知りました。
今後この方面での情報を紹介していきたいと思っています。
そもそも日本人の糖尿病が増えてきた理由として、欧米型の肥満による過剰なインスリン抵抗性よりも、糖の代謝異常の関与の方が大きいと思われ、その原因は脂の摂取が増えたためではないかという指摘はすでにあります。
遺伝的により脂の代謝が苦手な人が糖尿病になりやすいとするならば,脂を制限する食事法はより本質的な解決策になりうるのではないかと思いました。
ただし、血糖の上昇をさける糖質の取り方にはいろいろ工夫が必要になります。
糖質制限も脂制限(動物性のものはほぼ避けることになります)もどちらも両極端です。
人によりメリットもデメリットも大きく違うことでしょう。
個人の最適解は個人で見つけなければなりません。
どこかの地点に自分のちょうどいいところを見つけられるような補助となる理論を整理できたらと考えています。
いずれにしても誰もがすべき正しい食事法なんて存在しないというのが大前提です。
極端な病理的状態の人にはある程度極端な食事法が有効ですが、それも状態によって変えていく必要があるでしょう。
危険なのは食事法に対する固定した考え方にあると思います。