「重度の鉄欠乏者は、回復するまで乳製品の摂取を控える」ことです。
さきに誤解のないようにいいますが、私は乳製品そのものを否定していません(質を問うことはあります)。
伝統的なモンゴル遊牧民や、ヨーロッパの高原地域に住む伝統民族などは、この高栄養の乳製品に頼って生きてきた歴史は事実です。
もし、本当に悪いものなら、伝統社会では食文化として残っていなかったことでしょう。
ただし、先進国やアジア圏では、この乳製品が合わない人が多くいることも事実です。
とにかく合わない人や、乳製品アレルギーのある人、乳製品フリーにしたら体調が良くなる人は、しばらく避けた方が賢明です。
さて、乳製品は鉄の吸収を非常に阻害しやすい食材の一つです。
そのため、重度な鉄欠乏に陥っている人は、回復するまでは、まずこの乳製品を避けることが推奨されます。
乳カルシウム、そしてカゼインが鉄吸収を阻害します(正確に言うと、カゼインというよりはカゼイン由来のペプチドです)。
一般の食材に含まれる鉄は、ヘム鉄と非ヘム鉄に分かれますが、このどちらの吸収も阻害することがわかっています。
イギリスによる報告(Thane et al, 2000)では、小児における鉄欠乏と乳製品消費に反比例したそうです。
ヨーロッパ圏における大規模な横断分析においても、カルシウム摂取量(主に乳製品から得られたもの)と貯蔵鉄量との間に有意に逆相関を示しています。
鉄欠乏者は、単に鉄の摂取量が少ないだけでなく、過多月経による出血量の増大、低胃酸、カンジダ感染、腸の炎症なども考えられます。
特に、リーキーガットや腸の炎症状態による鉄欠乏の場合、このときに乳製品のカゼインによって炎症を後押しする可能性も十分に考えられます。
そうすると、当然、鉄をはじめ、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB12などの栄養素も十分に吸収することができなくなってしまいます。
鉄欠乏時における乳製品摂取は思わぬ落とし穴になっていることが多く、こういう方は一度、乳製品フリーで試してみると比較的早く改善することもあります。
※ちなみに、ヤギ乳由来の乳製品では、鉄吸収阻害は特に影響なかったという報告もあります。
ヤギミルクが人によく合う理由
乳製品というとほとんどが牛由来のミルクを想像してしまいますが、ヤギミルクはやはり別格でヒトに最も合った乳製品といえます。
一般に、重度な鉄欠乏者に乳製品の摂取は勧められませんが、ヤギミルクはむしろ鉄欠乏の改善・回復を促進します(Diaz-Castro J et al., 2015)。
今日はその理由をまとめてみたいと思います。 (ただし、これも合う合わないもあるので、ここは慎重に。。)
ヤギミルクの摂取は生体の貯蔵鉄を回復するということで近年注目されています。
鉄欠乏者に牛乳を勧めない理由の一つに、乳カルシウム(Ca)による鉄(Fe)吸収の阻害が挙げられます。
吸収機構においてCaとFeは拮抗作用があります。
これは栄養学ではよく知られている事実です。
乳中に含まれる鉄は、非ヘム鉄(Fe3+)ですが、この非ヘム鉄は小腸の上皮細胞にある刷子縁(さっしえん)という微絨毛が密にある部分において、還元酵素Dcytbによって、いったんFe2+に還元され、DMT1という専用の吸収窓口から取り込まれます。
実は、このDMT1という吸収の輸送体は、鉄だけでなく、カルシウム(Ca2+)も吸収できるのです。
(Biochem Biophys Res Commun. 2010 Mar 12;393(3):471-5.)
よって、乳中CaはFeの吸収を競合的に阻害し、Feの生体利用率を低下させます(Shawki and Mackenzie,2010)。
ところが、興味深いことに、ヤギミルクは牛乳と違い、このCa-Feの拮抗作用を最小限に抑え、Feの吸収を改善することがわかっています。
さらに、牛乳と比べると、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルがより多く含まれ、その生体利用率も高いです。
一般に、貧血になると副甲状腺ホルモン濃度が上昇してしまいます。
副甲状腺ホルモンが高くなると、骨からカルシウムの脱灰が亢進されますね。
実際に、動物実験で、貧血により脱灰が亢進したラットに、ヤギミルクを与えたグループと、牛乳を与えたグループに分けた結果、ヤギミルクのラットは10日以内に骨の修復と改善が見られました(このとき、余剰の鉄補給は行っていません)。
一方、牛乳のほうのラットは改善が見られなかったことが報告されています。
また、骨髄での造血でも、ヤギミルクの方が、牛乳を与えたグループよりも早く改善されています。
貧血ではコルチゾールという抗ストレスホルモンのレベルも高くなります。
貧血では、エネルギー産生に使われる酸素を運ぶ赤血球が少なくなるため、コルチゾールを使って血糖を高め、赤血球を増やそうとするからです。
しかし、コルチゾール分泌が亢進すると、副腎が疲弊し、うつ症状を伴うため、貧血の治療では、このコルチゾールをいかに低く戻すかが重要なポイントとなります。
そして、ヤギミルクを与えたグループでは、このコルチゾールが正常に減少させたことが報告されています(Campos et al., 1998, 2007)。
最後に、ヤギミルクに含まれる脂肪とたんぱく質についても書いておきます。
ヤギミルクは海外では「カプリンミルク」と呼ばれています。
これは、ヤギ乳にカプリン酸という「中鎖脂肪酸」が多いからです。
ヤギミルクの乳脂肪はこうした中鎖トリグリセリドが豊富に含まれており、体内に入ると急速に吸収され、代謝されていきます。
そのため、エネルギー産生が早く、輸送タンパクの合成を増加させ、これによってFeの吸収と各臓器への鉄沈着が高まると言われています。
脂肪球も大きさも牛乳と比べて小さいので消化しやすいことも特筆すべきことでしょう。
また、ヤギミルクは、ビタミンAとビタミンCの含有量が高く、これらの栄養素はFe吸収を高める性質があります。
牛乳に含まれるカゼイン(正確に言うとカゼイン由来のペプチド)は鉄の吸収を阻害します。
牛乳のカゼインたんぱくは、α-s1-カゼイン、βカゼインです。
フランスの報告(2005)では、α-s1-カゼインがβカゼインよりも鉄の取り込みと吸収を大きく阻害します。
また、これはアレルギー物質となりやすいカゼインでもあります。
ところが、ヤギミルクにはこのα-s1-カゼインがほとんど含まれていません。ちなみに、母乳にもこのカゼインは含まれていません。
以上のように、乳製品は鉄の吸収阻害作用があるといわれていますが、それは牛乳由来のもので、ヤギミルク(およびその加工品)はむしろ鉄の吸収を高め、脂質もタンパク質も人によく合う良質なものだといえます。
牛乳の蛋白カゼインは粒子が小さいので、腸の機能が弱っている時には、腸壁を素通りして、血液の中に入っていきます。
このため異質の蛋白質を摂り入れたためアレルギー反応が起こるのですが、リーキーガット症候群の大元の原因は別なため、牛乳だけ避けても根本解決にはなりません。
牛乳にはリンがたくさん含まれるため、骨のカルシウムは溶け出し、それまで体内にあった同量のカルシウムと結びついて、リン酸カルシウムとなって体外に排泄されます。
またマグネシウムも少ないためカルシウム均衡を壊します。
これが牛乳が骨を強くするのが嘘といわれるゆえんですが、ちょっとくらいの乳製品を摂るだけならそれほど心配しなくてよいです。
ちなみに牛の体温が高いから人の血の中で固まるとか、動脈硬化を作るというのは部分的に嘘であり、この理論だと肉でもなんでもそういうことになりますが、先住民には動脈硬化疾患など存在しません。
もちろん現在の乳製品は動脈硬化疾患の原因になりますが、それは乳製品そのものの問題よりも、乳製品の製造過程、搾乳の過程、ホルモン剤やワクチンの使用、GMOの使用、グレインフェッドなどの問題です。
牛乳をヨーグルトにするとカルシウムの吸収が良くなるので、乳製品をたまに嗜好品として食べるくらいならそれほど害はないと思います。
バターは火に強いし美味しいので、料理にちょっと使うくらいなら構わないと思います。
やはり問題は給食の牛乳であり、毎日飲むうえに素材が悪いですから、子どもが病気になったり知能が下がるのも当たり前というものです。
こんなに害のある牛乳が「身体に良い完全食品」と無批判に受け入れられてきた理由は、乳業メーカーの陰謀のようなものです。
母子手帳の話もこれと同じであり、子どもをコントロールしようという考えが入り込んでいます。
仮にあなたが乳製品を使うなら、毎日飲むのではなく、嗜好品として摂ると同時に、発酵した乳製品かバターなどをうまく使えばよいでしょう。