腎臓にできるがんも、日本人に増加しているがんです。
腎臓は血液をろ過して尿をつくり、からだの老廃物を除去する働きや、血液や骨に作用するホルモンを分泌する機能を持つ臓器です。
背中側に位置していますが、背中の厚い筋肉の奥にあるので、直接触るのは簡単ではありません。
そして、腎臓に腫瘍ができても、多くの場合症状が出ないのです。
そのため、現在のようなCT(コンピューター断層撮影)や超音波エコー検査がない時代には、腎臓がんは進行した状態でしか発見されませんでした。
当時は、目で見える血尿▽おなかから腫瘍に触れること▽痛み--が、腎臓がんを疑う兆候でした。
現在では、腎臓がんの多くは、人間ドックの際にCTや超音波検査で「たまたま」発見されます。
日に当たらない生活は危険度アップ
さて、どのような人が腎臓がんになりやすいか、すなわち医学の言葉でいうとリスクがあるのでしょうか。
鍵は、「気候」と「ライフスタイル」にあります。
まず、腎臓がんは緯度が高いところにある国に患者が多いことが知られています。
北欧とアフリカの国々では人口に占める患者数(罹患<りかん>率)が8倍異なります。
日本の中でも、緯度が高い北海道の罹患率は、緯度が低い九州地方の2倍にもなります。
この原因の一つには、日照時間が考えられます。
日に当たることで、からだの中ではビタミンDが活性化されます。
このビタミンDは、骨をしっかり守る役割のほかにがんを予防する働きがあると考えられています。
雪国では冬の間の日照時間が少ないので、ビタミンDが不足しがちです。
ちなみにこのビタミンDは花粉症などのアレルギーや、最近では認知症にも関係すると言われている重要なホルモンです(ビタミンDは微量栄養素であるとともに、機能の多様さなどからホルモンに分類されることもあります)。
日に当たらず、また日焼け止めを頻用していると、このホルモンが足りなくなってしまうのです。
内臓脂肪、高血圧も誘因に
ライフスタイルで腎臓がんに関係するものは、ずばり肥満です。
内臓脂肪が多いと、腎臓がんになりやすいことがわかっています。
なぜでしょうか。
内臓脂肪は、実はからだを傷つけるさまざまな悪玉の物質(炎症性サイトカイン)を作っており、腎臓はこの脂肪に接しています。
従って、炎症性のサイトカインの影響を受けやすく、腎臓の細胞の遺伝子に傷がついて(遺伝子変異)がんができてしまうのです。
それだけでなく、内臓脂肪が多いと腎臓の機能そのものも悪化してしまいます。
高血圧も腎臓のがんのリスクを高めます。
血圧が高い状態では、交感神経の働きが活発になり、血液中に活性酸素という化学反応性の高い酸素が多くなります。
この活性酸素も、遺伝子に変異を起こす大きな要因です。
高血圧は食事中の塩分が過剰である可能性があります。
塩はからだに必須のミネラルではありますが、塩自体が腎臓で活性酸素を増やすことが分かってきました。
一般に気候が寒いところでは塩分が多い食事、暑いところでは辛い味付けが多くなります。
こうしたことも、緯度が高い地域で腎臓がんのリスクが高まる一因といえるでしょう。
例えば、ラーメンが大好きで週3回きっちりスープも全部飲んでいるという人、メタボに加えてオフィス業務で日に当たらずビタミンDが不足する人は、腎臓がんになるリスクが高いと言えましょう。
*堀江重郎 / 順天堂大学教授