私たちが住む文明社会は、伝統社会に比べてあらゆる酸化ストレス(環境ホルモン、重金属、添加物、新型ウイルス、医薬品、精神ストレスなど)にさらされ、これらから防御するために、抗酸化ビタミンやミネラルの需要が必要以上に高まりつつあります。
最近では抗酸化酵素の構成因子や補因子となるミネラル群が特に注目されつつあり、中でもセレンの需要が高まっています。
セレンは、身体の酸化や炎症から守り、抗酸化ビタミンを安定させるグルタチオンペルオキシダーゼの活性に必須のミネラルです。
この抗酸化酵素を欠損させたマウスでは、他の酵素を欠損させたものよりも早く死んでしまうぐらい、生命の維持には重要な酵素です。
大量の活性酸素が発生すると血漿中のLDLコレステロールを酸化させてしまい、この酸化LDLが心疾患におけるアテローム性動脈硬化の原因とされています。
セレンはこの酸化LDLの発生を予防/減少させ、心疾患の発生率を低下させます(Am J Pathol. 2007;170:1108-20)。
また、最近では乳がんや前立腺がんなどに対する抗がん作用も注目されています(Eur J Cancer. 2006;42:2463-71; Kallistratos et al ,1989 ; Medina et al , 2001)。
生理的機能性として、セレンは正常な甲状腺ホルモンのレベルを維持するのに重要な触媒作用をします。
甲状腺ホルモンの代謝にかかわるヨードチロニン脱ヨウ素化酵素に利用されるからです。
さて、地球上でこのセレンを多く含む食材はブラジルナッツが圧倒的です。
ブラジルナッツはアマゾンの熱帯雨林の雨季の時期のみに収穫できる野生種で、希少なためブラジルではこれらの伐採が法律的に禁じられているほどです。
ニュージーランドの研究では、ブラジルナッツの摂取はセレンの生体利用率が非常に高いことをヒト研究で実証しています(Am J Clin Nutr. 2008 Feb;87(2):379-84)。
バルセロナ大学の栄養食品科学研究チームは、被験者22人に対してブラジルナッツを含めたナッツ類を毎日30グラムを12週間にわたり与えたところ、セロトニン代謝物のレベルが向上したことが報告されています。
スウェーデンの二重盲試験では、セレン摂取量が低いほど、不安・うつ・疲労の報告が多かったが、その後5週間のセレン投与治療後にこれらのうったえが減少したことを報告しています。
ブラジルのフルミネンセ連邦大学による報告では、甲状腺ホルモン機能低下の血液透析(HD)患者にブラジルナッツを1~2粒を3か月間与えたところ、血中セレン値とグルタチオンペルオキシダーゼ値の改善、甲状腺ホルモンレベルの改善に寄与した(Stockler-Pinto MB,2010;2012;2015)。
※ただし、T3値のみ有意に増加することはできなかった。
これは治療としての投与量が少し低いことや、他の因子を解決できていないことが考えられる。
またセレンは不妊男性の低テストステロン値を改善することが臨床にて報告されているため、ブラジルナッツの習慣化は精子の質の向上に期待ができるかもしれません(Feb 2009 Vol 181, Issue 2, 741-751)。
ブラジルナッツはセレン以外にももう一つ有益な成分が含まれています。
それはエラグ酸という抗炎症効果のある成分です。
エラグ酸は非常に高い抗炎症作用があり、神経保護作用もあります。
リオデジャネイロ連邦大学の研究では77人の被験者にブラジルナッツ粉末を3ヶ月間与えると、抗炎症・抗酸化作用が発揮され、コレステロールレベルの改善や高脂血症の改善がされたことが報告されています。
セレンはブラジルナッツ以外にも、かつお節、魚貝類、レバー、卵、穀類に多く含まれていますので、これらを意識して食事から摂取するのがいいと思われます。
サプリメントではどうしても吸収率が落ちるからです。
また、セレンはビタミンEとの摂取で相乗的な効果があります。
ブラジルナッツの摂取量は1日1~2粒で十分なセレン量が摂れます。
逆にそれ以上の量を毎日摂取していくと副作用が出てくるかもしれませんので、過剰摂取には十分な注意が必要です。
ブラジルナッツはセレンを手軽に摂取できる食品としておすすめです。