ビタミンDの抗腫瘍作用は有名ですが、その機序の一つにがん増殖阻害にあります。
がんは有酸素下でも解糖系に頼った代謝によってエネルギーを産生したり、増殖を重ねていきます(ワールブルク効果)。
当然、解糖系のためエネルギー産生効率は非常に悪いのですが、代謝システムが単純なため、ATPを産生する速度は非常に速いのです。
そもそもがん細胞内のミトコンドリアは数が圧倒的に少なく、機能的な障害がおきています。
この理由にがん細胞ではHIF-1という低栄養や低酸素下でも生き延びれる転写因子が活性化されているからです。
HIF-1が亢進していると、解糖系で得たピルビン酸をアセチルCoAに変換する酵素を阻害します。
こうして、ミトコンドリアでのTCA回路や酸化的リン酸化(その中で起きている電子伝達系も)が抑えられ、ピルビン酸は乳酸へと代謝されてしまうことになります。
このがん細胞で解糖系が亢進すると、中にはATP産生する途中でペントースリン酸経路を経由する代謝が見られます。
ペントースリン酸経路を経由していても、迂回しただけで結果的にはATPは産生されますが、この経路を通過すると、実に面倒なことが起きています。
それはがん細胞の増殖に必要な核酸や脂肪酸の合成、そしてがん細胞がさまざまな酸化ストレスに耐えるためのNADPHを新たに生み出す経路だからです。(Trends Biochem Sci. 2014 Aug; 39(8): 347?354.)
ちなみにペントースとは5炭糖を意味し、ブドウ糖の炭素骨格(6炭糖=ヘキソース)をもとに得ているのです。
さて、このペントースリン酸経路を阻害するのに、多くの栄養素が報告されています。
その一つがビタミンDです。(Tomasz Wilmanski et al.,FASEB J ,2014)
がん遺伝子を操作した乳房上皮細胞にビタミンDを加えると、解糖系からペントースリン酸経路への分岐を阻害し、増殖を抑えたことが報告されています。
また、高用量ビタミンCもペントースリン酸経路を阻害する機序が報告されています。(Scientific Reports 5, Article number: 13896 ,2015)
がんは、機能障害となったミトコンドリアを活性化させ酸化ストレスを与えることで、アポトーシス(自殺死)させることが鍵ではありますが、同時にその増殖を阻止していくことも重要となってくるはずです。