腸内細菌、腸内フローラなどが人間の健康に色々な影響を与えていることが、テレビや雑誌などでよく聞かれるようになってきました。
善玉菌や悪玉菌などといった言葉もよく聞かれるように、腸内には非常に多様な菌が多く生息しています。
どれくらいの菌が胃腸に生息しているかというと、
胃:0-100菌数(ml当たり)
十二指腸(小腸の最初の部分):100菌数(ml当たり)
空腸(小腸の中間の部分):100-1000菌数(ml当たり)
回腸(小腸の最後の部分):1千万‐1億菌数(ml当たり)
大腸:1千億‐1兆菌数(ml当たり)
と消化が進むにつれてどんどん細菌の生息数も爆発的に増えていきます。
これらの腸内細菌が本来生息数の少ない小腸に多く繁殖しすぎてしまった状態を腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)と呼びます。
(増えすぎた細菌は悪玉菌である必要はなく、普通の腸内の常駐菌です。)
そしてこの腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)は過去10年ぐらいの間に急増している病気で、従来の医療アプローチでは治療の難しい病気です。
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の症状は
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の一番の症状は鼓腸や膨満感です。
増えすぎた腸内細菌は炭水化物や食物繊維を発酵してガスを大量に発生させます。
また消化を邪魔したり、代謝を妨げることで様々な症状を引き起こします。
主に胃腸の症状としては
鼓腸や膨満感
ゲップ
腹痛
差込み
便秘または下痢
吐き気
胸焼け
脂肪便
栄養不足(ビタミンB12、鉄)
体重の減少
胃腸以外の症状
疲労
頭痛
関節や筋肉の痛み
湿疹
気分の変調
集中力の欠如
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)と関連のある疾患
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)は他の病気とも非常に関連が深いことが知られています。
過敏性腸症候群(IBS)の60%以上の方に腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)がみられ、またその原因の一つであると考えられています。
細菌の作り出す過剰な代謝物質により腸の粘膜にダメージを引き起こすことでリーキーガットを誘発すると考えられています。
また皮膚病は特に腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)との関連が多い疾患です。
酒さ(赤ら顔)の45-65%、乾癬の21%の患者にSIBOが見られ、SIBOの治療によりこれら皮膚の疾患の改善が見られました。
治療が非常に困難な線維筋痛症の原因の一つにも腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)が考えられます。
細菌の作り出す毒素により炎症を引き起こしたり、ミトコンドリアの働きを低下させ筋力を低下させる、痛みを過敏にさせてしまいます。
そして過剰に繁殖した細菌は乳酸や硫化水素を作り出すことで疲労、筋肉痛を悪化させます。
またトリプトファナーゼという酵素を排出してトリプトファン、セロトニン、メラトニンの低下を引き起こし、鬱、不眠、過食などの原因になると考えられています。
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の原因
なぜ、細菌が増えてしまうのか?通常人間の体には小腸内に細菌が増えないように防御システムが備わっています。
胃酸は食品や唾液、のどの粘液などに付着した細菌を殺菌する最初の防御メカニズムです。
ところが、加齢、胃酸低下症、薬などの影響で胃酸が十分分泌されないと、殺菌が十分行えずに細菌が増えてしまう原因の一つになります。
次に、小腸ではIgAと呼ばれる抗体が分泌され細菌の繁殖を防いでいますが腸にダメージがあったり、ストレスが多いなどの理由でIgAの分泌が低下することでも細菌の増殖に繋がってしまいます。
細菌の増殖を防ぐ最も重要な要素は胃腸の蠕動運動自体です。
食べものは胃から小腸を経て大腸を通り便として排出されます。
この動きは一方通行で一定の時間内に行われることで、小腸内の消化中の食事や細菌が大腸へと押し出されます。
ところがこの蠕動運動がしっかりと行われないと細菌は小腸内で繁殖する機会を得てしまいます。
そしてもう一つ重要な防御メカニズムは回盲弁と呼ばれる弁です。
この回盲弁は小腸と大腸に間にあり、大腸から小腸への逆流を予防していてくれます。
大腸には大量の細菌が生息していますから、逆流が起きると大量の細菌も小腸へと侵入してしまいます。
また回盲弁が、開き難い状態ですと、消化中の食事や細菌が長時間小腸に停滞してしまう状況を生んでしまいます。
また、欧米型の食生活やジャンクフードなどに代表される高脂肪食を続けることは特に悪性菌の発生を増加させていまいます。
最近になって腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)が急増していることから、食生活の乱れが原因の根底にあることには疑いの余地はありません。
この他にも腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の原因には炭水化物の消化不良(乳糖不耐性、グルテン不耐性、消化酵素不足)、食中毒により細菌バランスと蠕動運動が乱れる、外科手術後の癒着などによっても引き起こされます。
私の今までの経験では蠕動運動と回盲弁の働きがしっかりと働いていない症例が腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)に多くみられます。
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の診断
腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)の診断にはラクツロース排息テストと呼ばれる検査が使用されます。
ラクツロースは通常の糖のように吸収されないのが特徴で、腸内の細菌により発酵されます。
そしてラクツロースが細菌によって発酵されるとメタンガスと水素ガスが発生して体に吸収されます。
そのメタンガスと水素ガスは肺から排息されます。
このガスを測定することで、どのくらい細菌が小腸のどの辺りに増殖しているのかが分かります。