食後にインスリンが分泌され、各組織の細胞膜にあるインスリン受容体に結合すると、PI3K/Akt経路が促進され、ブドウ糖を取り込む輸送体であるGLUTが細胞膜に移動します。
この経路以外にmTOR(エムトア、またはエムトール)というシグナル伝達物質も活性化されます。
mTORは細胞内の栄養状態を察知して、タンパク質合成や細胞増殖を促進させます。
細胞分裂や増殖が盛んな胎生期や成長期には必須なものですが、成人した後では飽食によるインスリン分泌亢進で、このmTORが持続的になり、老化の促進や、がん細胞の増殖、そして動脈硬化まで引き起こす原因となってしまいます。
このmTORは実はインスリン以外にも成長ホルモンなどによっても活性化されます。
成長ホルモンは肝臓においてIGF-1(インスリン様成長因子)を合成させます。
そして、インスリン受容体もIGF-1受容体も、受容体気質にIRSという中継場所を共有しているため、インスリンとIGF-1はよく兄弟に例えられます。
というよりは、動物が進化の過程でブドウ糖を多く摂取するようになってから、インスリンはIGF-1から独立して、すい臓で合成されるようになったホルモンだと言われています。
IGF-1はインスリン様成長因子という名前ですが、正確に言うと、インスリンこそがIGF-1様因子なのです。
インスリンというホルモンは後から生まれたものだからです。
IGF-1も成長ホルモンもインスリン同様、過剰分泌下では、mTORを活性化するため、成人では老化を促進してしまうのです。
さて、インスリン分泌が過多になっているかどうかは、通常、医療検査において確認できます。
しかし、病院に行く時間がない人は、手っ取り早くセルフチェックする方法があります。
それは、「食後、極端に眠くなるかどうか」です。
食後の眠気についてはよく炭水化物が取り沙汰されますが、それは精製糖質摂取による高血糖が関係しています。
しかし、高炭水化物でなくても、高タンパク質や、糖質とタンパクのセットでも強い眠気を感じる場合は、インスリンが大量に分泌されている可能性があります。
インスリンが分泌されると、中性アミノ酸のうち主に分枝鎖アミノ酸の取り込みが進み、残った中性アミノ酸の「トリプトファン」はあまり取り込まれません。
そのため、トリプトファンの血中濃度が上昇します。
インスリン分泌が過剰な人はこのトリプトファンの割合が多くなり、これが脳内まで送られると、トリプトファンを原料にしているセロトニン(=睡眠機能)が一挙に増加します。
このセロトニンが増加すると眠気があらわれやすくなります。
よって、どんな食事に対しても、食後に強い眠気を感じる人はインスリン過剰分泌の可能性があり、要注意です。
(※もちろん、これはひとつの指標ですので、実際のインスリンの検査値とは異なることもあります。
あくまで、その可能性が高いと言っているにすぎません。気になる人はきちんと検査するのがよいでしょう。)
※また、精製糖質の過剰摂取で血糖値が上昇した時に、脳の神経伝達ホルモンであるオレキシン(食欲・睡眠の制御)の分泌が減少し、これにより食欲が抑えられ睡眠欲が増加し、眠気をさそう機序もあります。
mTORの持続的な活性化はインスリン抵抗性を招きます。
さらに、ストレスに対する抵抗力も低下させてしまいますので、食べ過ぎや飲み過ぎには注意が必要なのです。