インスリン抵抗性とは、常に分泌されるインスリンの刺激に慣れてしまって、より高いレベルのインスリンでないと働かなくなってしまった状態でした。
いわばインスリンの利きが悪いので、余計にインスリンが必要な状態になってしまったことをいいます。
次にインスリン感受性ですが、これはインスリン抵抗性の逆です。
インスリン感受性が高いとはより少ないインスリンで、インスリンが働く状態、つまり脂肪がつきやすい状態だと大まかに考えてください。
肥満する人はインスリン感受性が高いのでしょうか、それともインスリン抵抗性が高いのでしょうか。
この問いには単純に答えることはできません。
多くの人が混乱しやすい大事なポイントなのですが、その理由はインスリン抵抗性や感受性は場所によって異なるということと、経過によって同時に変化するわけでもなく、また個人差があるということからおこります。
インスリンが作用する体の部位は、脳、肝臓、筋肉、脂肪組織とおおまかに4つに分かれます。
インスリンが常に分泌されることで、肝臓や筋肉におけるインスリンの利きが悪くなる(インスリン抵抗性の出現)ことがおこると、インスリンの分泌がより必要になります。
この時点ではまだ皮下脂肪組織はインスリン感受性が高いので、インスリンの働きでどんどん大きくなっていきます。
そして脂肪細胞も大きくなるにつれ、徐々にインスリン抵抗性が出現しそれが高まると、もともと皮下脂肪よりもインスリン感受性が低かった内臓脂肪組織のインスリン感受性が相対的に高くなり、本来たまるべきではない部位に脂肪が貯まる(異所性脂肪)ようになります。
これが危険な内臓脂肪です。
どこまで皮下脂肪が大きくなれるのか、そしてどの時点から内臓脂肪のインスリン感受性の方が相対的に高くなり、内臓脂肪が貯まり始めるのか、さらにどれだけインスリンを分泌する力があるのかなどの点は、非常に個人差があるところです。
皮下脂肪に蓄える能力のある人は、皮下脂肪のインスリン感受性が高かったから肥れたわけですが、すでにその肥った状態が限界に来ていて、インスリン抵抗性が高い状態にまでなっているか、それともまだまだ肥れる状態(インスリン感受性が高い)のかは、肥っているだけではわからないということになります。
日本人を含むアジア人はこの皮下脂肪の量が少なく、またインスリンを分泌する能力も弱いなど、たいして肥っていないようでもすでにインスリン抵抗性が高くなっていて、危険な内臓脂肪が蓄積することが欧米人に比べて多く見られ、人種の違いがあることは確かのようです。
また内臓脂肪が糖尿病を含む様々な成人病の原因になること(メタボリック症候群)はわかっています。
肝臓と筋肉のインスリン抵抗性は直接影響せず、食事によって肝臓のインスリン抵抗性が改善したとしても、筋肉のインスリン抵抗性とは関係しません。
運動の欠乏は筋肉のインスリン抵抗性の原因になりえます。
その場合はまた逆に運動で筋肉のインスリン抵抗性が改善しても肝臓にはほとんど影響しません。
肝臓と筋肉どちらのインスリン抵抗性が問題なのか、または両方なのか、個人により違っているだろうと思われます。
そして一番大事な点は、肝臓または筋肉のインスリン抵抗性の高まりに反応して、全体のインスリンレベルが高くなっても、脳の視床下部はインスリン抵抗性を持たないので、視床下部の食欲中枢が高いインスリンレベルに反応して体重のセットポイントを上げてしまうということになるのです。
NHKスペシャル 2016年10月8日 血糖値スパイクが危ない!糖尿病・心筋梗塞の新対策という番組を見ました。
みられた方も多かったと思います。
その時実験で、おにぎりとジュースの糖負荷テストでかなりの食後高血糖をおこしていた、痩せ型の若い女性たちがいました。
機能性低血糖をおこしやすいタイプの人たちだと思いましたが、スタジオでそのことは全く指摘されませんでした。
このような女性たちは、妊娠すると今の基準では妊娠糖尿病と誤診されてしまいがちです。
ゲストのドランクドラゴンの塚地さん(肥ってます)が同様の実験を放送中に生でしたのですが、さぞや血糖が高いだろうと見守る中、まったく血糖が上がらないという意外な結果となりました。
そこでは隠れた血糖スパイクの危険性ばかり強調していましたので、問題なくてよかったですねというようなコメントしかなかったですが、実は一番糖尿病や心筋梗塞のリスクが高いのは彼であったと思います。
血糖のみにとらわれて、追加インスリンのリスクを知らないと正反対の結論が出てしまうといういいい例だったと思います。