味噌汁は「多彩な食材」と好相性
ごはんの主食と合わせて、ぜひ毎日とっていただきたいのが味噌汁です。
第一に、食事時に温かい汁物をとると、胃腸の働きが活発になり、消化吸収がよくなります。
さらに、ご存じのように味噌は大豆を原料にした発酵食品です。
発酵によって大豆の栄養が吸収しやすい形になっているほか、乳酸菌の働きによって腸の善玉菌を増やし、腸内環境を整えてくれます。
昔の人は、「朝の味噌汁は体の毒消し」といって朝に飲む一杯の味噌汁を大切にしていたものです。
確かに、味噌汁を飲んで腸の働きがよくなれば、栄養の吸収が良くなり、同時に体に不要なものや有害物の排泄も進むわけですから、毒消しとは、まさに言い得て妙です。
さらに、味噌汁は野菜や海藻、イモ類、キノコ類、豆腐など、栄養豊富な多彩な食材と相性が良く、こうした食材を味噌汁の具にすることで、その食材の栄養素も合わせて摂ることができます。
私自身も、味噌汁を必ず毎食いただいています。
市販の味噌なら「長期間熟成の天然もの」を選ぶ
味噌汁の効用ということでは、過去には、玄米と味噌汁の組み合わせが原爆の放射能の害を防いだという話も伝わっています。
2015年はちょうど戦後70年の節目の年になりましたが、長崎の原爆投下直後から、献身的に被災者の救護、治療に活躍された聖フランシスコ病院の秋月辰一郎先生の話です。
秋月先生が被爆したのは、爆心地から1.4㎞離れた浦上第一病院でした。
死の灰のなかに廃墟として残ったその病院で、半径2㎞以内で被爆した人たちが次々と倒れていくなかで、不思議なことに秋月先生とそこで働く看護師や仲間たちは原爆症にならず、焼け出された人々を治療しながら働き続けることができたのです。
その理由を秋月先生は「玄米とワカメの味噌汁」だったと述べているのです。
「原爆を受けた人には塩(精製されていないもの)がいい、玄米飯にうんと塩をつけて握るんだ。塩辛い良い味噌汁をつくって毎日食べさせろ。
そして甘いものを避けろ。
砂糖は絶対にいかん」と秋月先生は言い、職員や周囲の人たちにも指導しました。
幸いにも病院は長崎市の味噌、醤油の倉庫になっており、玄米と味噌は豊富でした。
さらにワカメもたくさん保存されていました。
以前に結核を患い、「玄米とワカメの味噌汁」で克服した秋月先生の指導により、病院の医師、看護師たちは大変な働きで多くの人びとの命を救出。
原爆症を発症させたスタッフは一人もいなかったそうです。
秋月先生はその後も89歳で亡くなられるまで、医療活動や平和運動に従事されたということです。
この話は厳密にいえば、科学的根拠が確認されているわけではありませんが、何より秋月先生はじめ、多くの医療者が経験した事実に重みがあります。
体に活力を与え、損傷した細胞を修復したり有害物を排泄したりする働きのある「玄米と味噌汁」の、底知れないパワーを感じさせる逸話です。
ところで、一口に味噌といっても、巷にはありとあらゆる味噌が売られていますね。
やはり家庭で味噌汁をつくるなら、ぜひ本物の味噌を使いたいものです。
手前味噌という言葉があるように、自分の家でつくったものが本当はいちばん良いのですが、今では味噌をつくれる環境にある人は限られています。
市販品からいい味噌を選ぶなら、長期間熟成の天然醸造のものをおすすめします。
黒っぽい色で硬くなっているものや、大豆の匂いの残っているものは避けましょう。
試食できるなら、「カドがなく丸い味」が良質といわれています。
パックものを買うときは、裏側の原材料表示を確認してください。
添加物が使われていないもので、原材料が「大豆、塩、麹」だけのものが良いのです。
もちろん大豆は「国産大豆」を選びましょう。
また味噌汁のだしは、昆布と削り節でとるのがいちばんです。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録が決まったことで「和食」への評価が高まる中、定番中の定番である「みそ汁」に改めて注目が集まっている。
和食の弱点は塩分が多めになりがちなこと。
中でもみそ汁はこれまで塩分過多の「主犯」という扱いを受けてきた。
しかし、最新の研究データによれば、みそ汁の塩分は和食の献立の中で取り立てて多いわけではなく、塩分過多については「冤罪」である可能性が高まってきた。
さらに、みそ汁にはビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれ、その効果で健康にプラスの影響があるとの研究結果も出ている。
どうやら、わたしたちにとって最も身近な和食であるみそ汁を見直す必要がありそうだ。
日本のみその起源については、古代中国の発酵食品である「醤(しょう=ひしお)」が朝鮮半島から伝わったというのが通説。
ただ、現代のみそのルーツは、縄文時代から食べられていた日本独自の発酵食品だとの意見もある。
文献に登場するのは飛鳥時代末で、701年に制定された大宝律令で「主醤(ひしおのつかさ)」という役職が扱う調味料の一つに定められた「未醤」が、みその前身だと考えられている。
鎌倉時代の武士が食事の基本とした「一汁一菜」の一汁は、みそ汁であったとされる。
簡素な献立の中に栄養バランスに優れたみそ汁を入れることで、鎌倉武士の質実剛健な生活が実現できたのだろう。
江戸時代になると、庶民の食生活でもみそ汁は一般的な献立になった。
江戸前期の元禄年間に著された「本朝食鑑」では、みそは健康に役立つ万能食品であると評価されし、庶民にも「みそ汁を飲めば医者要らず」という認識が定着していたとされる。
みそ汁の復権に熱心なのは、当然のことながらみそのメーカーだ。
ただ、日本のみその多くは、小規模なみそ蔵で作られて地元で消費されている。
全国に流通する商品を作っているメーカーは数えるほどしかなく、個別の商品を通じてみそのイメージを変えられる機会はほとんどなかった。
そこで、全国958のみそメーカーで構成する全国味噌工業協同組合連合会は、1992年に「みそ健康づくり委員会」を結成、みそ汁の復権に向けたキャンペーンを進めている。
同委員会が2013年秋、20~69歳の男女1040人を対象に実施したアンケート調査によると、「みそ汁が好き」との回答は全体の93.7%を占めた。
ところが、実際にみそ汁を飲んでいる量は、1日当たり男性で0.8杯、女性は0.7杯と、1日1杯にも満たなかった。
しかも、和食離れが進んでいると思われる若い世代よりも、50代、60代の消費量が少ないという驚きの結果が出ている。
中高年の消費量が少ないのは、生活習慣病につながる塩分の取り過ぎを気にしているからのようだ。
同じアンケートで、みそ汁のイメージを聞いたところ、「塩分が高いと思う」が75.1%に達し、「そう思わない」を大きく上回った。
ただし、「塩分が高い」とした回答率に、年代別の差はほとんどなかった。
若い世代がさほど気にしない塩分が、生活習慣病を意識する中高年には高いハードルとなり、それがみそ汁離れを引き起こしている可能性が高い。
しかし、現実の塩分量は、みそ汁おわん1杯(約150グラム)に1.2グラム程度しかない。
1食当たりで比較しても、カレーライスの2.7グラム、ピザトーストの3.1グラム、カップラーメンの4.8グラムより格段に少ない。
もちろん、みそ汁だけで和食の献立は成立しないので、他のメニューとのバランスの問題にもなるが、少なくともみそ汁を塩分過多の原因と決め付けるのは間違った考え方と言っていいだろう。
日本人が塩分を取り過ぎているという考えは、1950年代に日本人の食生活を研究した米国のルイス・ダールによって提起されたのが最初だとされている。
塩分過多が高血圧をはじめとした生活習慣病の原因になることは間違いないにしても、それがどうして「みそ汁犯人説」につながったかは明らかでない。
みそ汁は日本のどこにでも存在した和食メニューだったため、その普遍性が塩分過多の「犯人」というイメージを呼び起こしたのかもしれない。
一方、最近はみそ汁の冤罪を晴らす研究の成果も出ている。
共立女子大学家政学部の上原誉志夫教授は、食塩感受性体質(食塩を多く摂取すると血圧が上昇する)のラットを4グループに分け、それぞれ食塩を含まない水道水、0.9%の食塩水、1.3%の食塩水、10%の濃度のみそ汁(塩分量は1.3%の食塩水と同じ)を与える実験を行った。
その結果、1.3%の食塩水を摂取していたグループに比べ、10%のみそ汁を与えたグループの方が血圧の上昇が少ないことが分かった。
血圧の上昇度合いから算定すると、みそ汁に含まれた塩分を摂取しても、同量の食塩を取った場合に比べ、血圧への影響は30%低いことも判明した。
つまり、みそ汁によって、30%の減塩効果が得られたとも言える。
また、上原教授は人間ドックの受診者のみそ汁摂取量を調査して、血圧との関連性を調べてみた。
すると、みそ汁を1日1杯飲む程度であれば、身体の代謝には何ら影響がなく、動脈硬化の程度を示すCAVI値は、むしろ低下する傾向が見られたという。
今のところ、みそ汁に含まれるどんな成分に動脈硬化を遅らせる効果があるのかは不明だが、みそが生活習慣病の原因になっているのではなく、むしろ健康効果があることが示唆されたのだ。
広島大学の渡邊敦光名誉教授は、食塩摂取との関係が強い胃がんの発生率を、みそとの関係から調査した。
胃がんを誘発させたラットを五つのグループに分け、10%と5%のみそを含む餌と、みそと同じ濃度の2.2%と1.1%の食塩を含む餌、さらにみそ、食塩どちらも含まない餌を与えた。
すると、2.2%の食塩が含まれる餌を食べたグループの胃がん発生率が68%だったのに対し、塩分量が同じ10%のみそを摂取したグループの発生率は45%に抑えられた。
また、がんの大きさも2.2%の食塩を取ったグループより10%のみそを摂取したグループは半分以下で、みそが胃がんの発生率を抑えるだけでなく、進行も遅らせるとのエビデンスが得られた。
胃がんのリスクが食塩の摂取量と相関関係にあることは疫学的にも明らかにされている。
塩分は人体に不可欠の成分であることを考えると、日々みそを摂取することで相対的に胃がんのリスクを低下させることになる。
また、発がん性の調査とともに血圧の変化も調べたが、同じ塩分量でもみそから摂取した方が血圧への影響は少ないことも判明した。
体内でのみその働きについては未解明な部分も多いが、渡邊名誉教授はみそが熟成する過程で塩分が他の物質と結合し、普通の食塩とは異なる物質に変わっているのではないかと指摘している。
このほかにも、夏にみそ汁を毎日飲んでいると、熱中症にかかりにくいという疫学的データがある。
熱中症予防には水分のほか、ナトリウムなどのミネラルを十分に取ることが必要だが、行き過ぎた減塩が熱中症を誘発している可能性も否定できない。
みそ汁という身近な献立で熱中症を予防できることは、特にお年寄りとっては朗報だ。
みそ汁には、みそだけでなく具も必須だが、この具を多くすればするほど、汁が少なくなる分だけ塩分も減る。
また、カリウム分の多い緑黄色野菜やいも類、海藻類などを具に利用すると塩分の排出効果が高まり、みそ以外で摂取した塩分への対策にもなる。
和食中心の生活でみそ汁が果たす役割は多岐にわたり、健康な食生活のためには欠かせないアイテムだ。
味噌汁の主役である味噌の効能効果)
1.コレストロールの抑制
大豆に含まれるリノール酸は、コレステロールを体外に排出するのを促進します。
植物性ステロールは小腸でのコレステロールの吸収を阻害します。
ビタミンEは、血液中のコレステロールを運搬するHDLにたくさん含まれます。
この3つの成分は相乗的に働き大きなコレステロール抑制効果を示します。
大豆に含まれる成分で、この他、大豆レシチン、大豆タンパク、食物繊維、サポニンがコレステロール抑制効果を示します。
2.胃がん予防
みそ汁を飲む頻度の高い人ほど、胃がんによる死亡率は低い・・・・
これは1981年に、国立がんセンター研究所の平山 雄博士によって発表された「みそ汁を飲む頻度のと胃ガンの死亡率との関係」の調査結果です。
みそ汁を飲む人と飲まない人を比べると、とくに男性では、まったく飲まない人の死亡率は、毎日飲む人に比べて50%も高いというものです。
これは胃がんだけでなく、心筋梗塞、肝硬変などの場合にも同じような傾向が見られます。
3.肝臓がん予防
味噌の成分中には、肝臓ガンの発生を抑える作用のあることが、実験で確かめられています。肝臓ガンが自然発生する系統の雄のマウスに、「標準のえさ」と「味噌入りのえさ」されぞれ16ヶ月間与え続けたところ、みそ肥料を与えたマウスは、腫瘍の数が減って小さくなり、また発生率も大幅に減りました。
4.乳がんの予防
味噌には、フィト・エストロゲンという植物性の女性ホルモン作用物質が含まれていて、乳がんの発生を抑えると考えられています。
5胃潰瘍の防止
みそ汁を毎日、または時々飲んでいる人はまったく飲まない人に比べて胃炎や胃潰瘍、十二指潰瘍などの胃の病気が少ないという研究結果があります。さらに、年齢別調査では20~50歳代間では大きな差はないものの、60歳を超えると、飲んでいる人は、とくに胃の病気になりにくいという高い数値がでました。
6.老化防止
・みそに含まれるビタミンEやダイゼイン、サポニン、褐色色素などには、体内の酸化を防止する作用があります。
老化というのは全身の組織や機能の衰えと、細胞レベルのものがありますが、血管や体細胞、脳細胞に過酸化物質が増えると老化が促進されます。
つまり、細胞を若々しく保つためには、この物質をためないことが大切なのです。
実際にラットによる実験ではサポニンや褐色色素の投与により、肝臓内の過酸化物質の増加が顕著に抑制されることも確認されています。
7.消化促進
みそのタンパク質は発酵過程で20~40%ほどが分解されてアミノ酸化しています。
本来消化吸収に時間のかかるタンパク質の中では消化吸収の良い形になっているのです。
さらにみその中には活性度の高い消化酵素もたくさん含まれているため、他の食品の消化吸収を助ける働きをします。
8.整腸作用
みその中に含まれる植物繊維は、腸の掃除をしてくれます。
また、みそに含まれる微生物は腸内の腐敗菌や有害物を体外に送り出してくれるのです。
毎日みそ汁を飲むことにより、腸が掃除され、体調を整えることができるのです。
9.美肌効果
メラニンの合成を抑えシミ・ソバカスを防ぐ。
メラニンとは皮膚や毛髪の色を決める物質で紫外線の刺激に反応してシミ・ソバカスが出来ます。
味噌に含まれる遊離リノ-ル産にはメラニンの合成を抑える働きによって美肌効果があります。