妊娠初期に「つわり」になって食事の摂取量が減ってしまうのは「グルコジェニックモード」に母体側が妊娠前からかたよっていた場合、胎児が必要とする「ケトン体」が不足するので「ケトジェニックモード」のスイッチを入れるためではないか理解することが出来ます。
つまり「糖質」の摂取も減らしてインスリンレベルを下げる仕組みがあるということです。
一方妊娠のごく初期には将来胎盤になる「絨毛」が発達してくるまでは、万が一の栄養不足に備えて「卵黄嚢」という器官が栄養の貯蔵庫として働いてくれます。
ところで「卵黄嚢」が大きいと「流産の前兆」であることを皆さんご存知でしょうか。
経腟エコーで妊娠初期の子宮内を観察して、まだ胎児心拍が確認できない時期に「卵黄嚢」の大きさに注目していると、胎嚢に比べ卵黄嚢が大きい場合には流産に至る可能性が高いのです。
もしかしたら母体からの栄養が途絶えがちなので卵黄嚢が大きくなっているのかもしれません。
一方「つわり」の症状は流産に至る過程ではむしろ軽快しやすくなります。
胎児や絨毛などの成長が止まってしまえばケトン体も必要がなくなるためかもしれません。
逆に順調に胎児が育っている場合は、ケトン体を胎盤が十分に産生してくれる12~16週目までは、インスリンレベルを上げすぎないような食事法を心がけることが「つわり」を悪化させないために必要であることが理解できます。
さて、絨毛や胎盤にケトン体が多く存在し、胎児血中にもケトン体が高濃度で認められることは「宗田先生」の研究からも明らかなことなのですが、かといってケトン体がメインのエネルギー源と言えないことはIUGRでお話したことからも分かっていただけると思います。
ケトン体が優位の環境で胎児が成長していくことは「奇形などの発生」を予防になるという面では重要なことです。
糖尿病の妊婦では流産や奇形が多いのもブドウ糖優位の環境が胎児毒になる可能性を物語っています。
しかし、だからと言ってブドウ糖は胎児の発育にとって重要な栄養素に変わりはありません。
ケトン体はメインではないのです。
酸素濃度の少ない羊水では「果糖」が胎児にとってのメインのエネルギー源になっています。
果糖の方がブドウ糖よりエネルギー効率が高いことがその理由であり、果糖は胎盤でブドウ糖から産生されます。
ケトン体も欠かせませんが、ブドウ糖は胎児にとって重要な栄養素であることは否定できません。
胎児は「中間人」と言われるゆえんにはこのような背景があるのです。
生まれてからの新生児や乳児の間も「中間人」です。
「ケトン体濃度」が少し高いからと言って「脂質人」と勘違いしないようにしましょう。
ところが「離乳食」を開始し始める頃から、その食事内容いかんで「ブドウ糖の代謝障害」が徐々に起こり始めます。
そのあとのことは、想像がつくと思いますので省略させていただきますが、私たち人間個人の起源をたどれば「ブドウ糖」が大切な栄養素であったことが理解できると思います。
「ケトン体」とのバランスは「中間人」を維持することで成立します。
★以下 高見台クリニックHPより★
【卵黄嚢の神秘】
卵黄嚢は鳥の卵の黄身に相当する器官で、胎児の初期の発育に必要な栄養を蓄えています。
卵黄嚢は胎盤が完成するまでの間、胎児に栄養を供給する役割と造血の役割があります。
この卵黄嚢は、胎盤から臍帯を通して栄養が供給されるまでの間の「臨時のお弁当」のようなものです。
宇宙なら、宇宙食に相当しますが、このお弁当の中身は不明です。
こんなに小さなお弁当でも12週頃までの正味一ヶ月間くらいは、このお弁当を頼りに胎児は成長します。
しかも生存のための単なる栄養ではありません。
なぜなら胎児を成長させてくれるのですから宇宙食よりも遙かに優れたお弁当と言えると思います。
私達の赤血球には核がありませんが、卵黄嚢で作られる胎児の赤血球には鳥の赤血球と同じように細胞核があります。
胎児の成長と共に卵黄嚢にあった様々な幹細胞が、胎児に移行して造血機能が胎児側に備わるとされています。
すなわち、下の写真で見られる胎児の身体は、入れ物(器)に過ぎず、生命としての源は、卵黄嚢から供給されているように思われます。
しかし胎盤ができる頃になると卵黄嚢は退縮し、卵黄管の一部はへその緒となって、胎児と胎盤をつなぎます。
胎児の成長に伴い、臨時のお弁当だけでは栄養が足りなくなり、胎盤を通して栄養を吸収するようになります。
いつまでも科学的な解明が困難な「新しい命の誕生」を感じさせてくれると言う意味で「神秘性」を感じられないでしょうか。