がんの代替療法の代表格が、各種の食事療法だと思います。
がんになれば、ほとんどの人が、何かの食事療法を始めることでしょう。
私も、そうでした。
私は、人参りんごジュースだけを行なった「ゲルソン療法もどき」ですけど。
同居人がアレルギー体質です。
好き嫌いも激しいので食べられる野菜類が限られ、魚嫌いで、エビやカニはアレルギーでを食べられず、鶏肉アレルギーの上に小麦粉と乳製品アレルギーです。
砂糖の甘さがダメで、合成調味料の味を受けないから、煮物類は食べられません。
だから同居人も食べられるように極端な食事制限はしませんでした。
それ以上に、私は咽頭がんだったので、手術後も、放射線治療後も、食べること自体が困難になりました。
その時の状態で食べられるものならば、なんでも食べないと栄養失調になりそうで、食事制限なんて考えられません。
抗がん剤も、一週間入院して、24時間ずっと点滴で入れ続けるとても強くもので、副作用も厳しくて、食事制限どころではありませんでした。ゼリーやプリンしか食べられない期間が、かなり長く続きましたから。
私が実践した人参りんごジュースだけの「ゲルソン療法もどき」は、偶然の選択です。
がんになった直後、がんの妹さんが実践して良かったからと知人から教えてもらい、試しにやってみたら美味しくて飲みやすかったので、私も続けることにしました。
がんに対する効果はよくわかりませんでしたが、毎日、大量の排便があり、それだけでもデトックス効果があると確信できました。
治療中にはたくさんの薬物が体内に入るので、デトックスの重要性を痛感していたから。
人参りんごジュースだけではない、本格的なゲルソン療法のことは、ずっと後に知りました。
本格的なゲルソン療法は、私には無理だなと感じ、パスしましたけど
今、一般的に、がんの食事療法というと、玄米菜食や糖質制限だと思います。
「玄米菜食をしているから安心です」というがんサバイバーさんがたくさんいらっしゃいます。
私の友人は「玄米が大好きで、野菜料理が大好きだから、絶対にがんにならないよ」と、いつも笑っていました。
その友人は、大腸がんになりました。
原因は、玄米でした。
玄米が大好きだから、白米と同じように、パクバクと食べてしまっていたんです。
白米よりもずっと消化が悪い玄米は、しっかり噛まなくてはいけません。
一口食べたら、箸を置いて、30回、50回、100回とよくよく噛むことで、体に良い成分を吸収できるようになる食事です。
友人は、玄米をパクパクと食べていたので、玄米成分の吸収どころか、その消化に体が疲れきり、長年の蓄積疲労で、大腸がんになってしまったようです。
友人と同じような食べ方をしているがんサバイバーさんを、たくさん見かけます。
「発酵玄米だから、普通の白米と同じで大丈夫」という方に、作り方や食べ方を聞くと、炊いた翌日ぐらいから食べ始め、発酵期間がゼロに近いことも珍しくありません。
「発酵させる期間」の認識がなく、「発酵させる炊き方」をしただけで安心してしまうようです。
3日目から食べ始め、上手くいけば20日間くらいは食べられるはずと説明したら、びっくりされたことがありました。
10日目を過ぎたあたりが一番美味しいと、私は思います。
ところで、玄米菜食を徹底して、肉や魚の動物性タンパク質をとらなかった場合、体がどうなるのか、ご存知でしょうか。
大豆製品で植物性のタンパク質を補っていても、肉や魚とは栄養素が違います。
不足する栄養素を承知して補えば良いのでしょうが、大豆製品を食べていることで安心してしまっている方が、少なくありません。
生命活動に必要なタンパク質の補給がなくなると、体内の脂肪が消費され、そこから生きるために必須のタンパク質が再生成されるそうです。
最初からダイエット目的で玄米菜食をする場合はそれで良いのでしょうが、がん治療で疲れ切って衰弱している身体には、最適とは言い難いと思います。
あっという間に、飢餓状態の体になってしまう方もいらっしゃいました。
病院でのがん治療を拒否して、自力治療として玄米菜食をされる方も、できることならば、栄養学の専門家の指導のもとで行うことが望ましいと思います。
もう一つの、食事療法の流行りが「糖質制限」です。
「糖質」というと言葉から、ダイエット感覚で、甘いものを我慢することだと思われる方も、まだいらっしゃるようです。
もちろん、違います。
体内で糖質に変わるもの=炭水化物を制限することが「糖質制限」です。
炭水化物以外は、肉も魚も野菜も、なんでも食べられます。
逆にいうと、ご飯やパン、パスタやうどんなど、主食になるものが食べられなくなります。
「糖質ががんのエサ」という研究発表によって、がんに栄養を与えなければがんが餓死する=糖質を食べなければがんは死ぬ、少なくとも増殖しない…という図式になっているようです。
糖質は、ヒトが生きていく上で不可欠な栄養素です。
糖質がなければ、頭脳が働きません。
外部から糖質が補給されないと、筋肉から糖質を再生成するそうです。
脂肪ではなくて、動くために必要な筋肉が、どんどんやせ細ってしまいます。
長期間の糖質制限は、自分が生きていく上で必要なエネルギーを、自分で断ち切ってしまうことになるんです。
がんが餓死する前に、自分の命が危なくなります。
肥満だけが問題で健康な方が、ある期間の糖質制限で痩せるのは、理にかなっているのかもしれません。
食べることが大好きで、何をやっても痩せられない100キロに近かった知人も、指導者のもとで糖質制限ダイエットを行い、1年間ぐらいかけて70キロ台になり、痩身とともに体調が良くなったと喜んでいました。
もちろん、糖質制限だけではなく、運動療法や呼吸法なども行ったようです。
指導者のもとで安全に行われるのであれば、問題は少ないと思います。
ただ、がん治療で体が衰弱している時に、専門的な指導者もなく「炭水化物を断てばがんが死ぬ」という思い込みだけで、極端な糖質制限を自己流に継続することは、とても危険かもしれません。
日本人の食生活の基本はお米です。
米食文化のDNAをもつ日本人の体には、炭水化物断ちは、欧米人よりも厳しい制約になるようです。
それ以外にも、注目されている食事療法がマクロビオテックです。
アメリカで注目された食事療法で「自然の法則にそった食事」で、旬を大切にして、命を丸ごと食べることを良しとします。
内容的には、まさに「肉料理が御法度だった江戸時代の庶民の食卓料理」だと思います。
食べ物制限はありませんが、江戸時代には食べなかったであろう肉や乳製品は敬遠され、化学調味料のような現代的なものも排除されます。
当時の庶民の主食である玄米が推奨され、有機無農薬栽培へのこだわりも強いのですが、玄米菜食よりはゆったりとしていると思います。
旬の魚や、時には肉料理も、適切に取り入れて食べて良いとされる食事療法ですから。
長期間の食事療法としては、継続しやすいものだと思います。
栄養の偏りも少なく、旬の精気を体内に取り入れる感覚ですから、健康維持に役立つのと思いますが、マクロビオテックが最優先になり、現代の常識的な食事を全て拒否するような感覚になると、かえってストレス源になるのではと危惧します。
実際に、素材への不安や化学調味料使用が怖いからと、外食を全くできなくなった方もいますし、ゆったりと旬の食事を楽しめる部分を切り捨てて、極端な玄米菜食主義者になってしまう方もいるようです。
それでは、本末転倒です。
最近の流行りは「ビーガン」かもしれませんね。
完全菜食主義・完全ベジタリアンとも言われます。
ビーガンは、食生活というよりも、生き方の問題になります。
動物愛護の思想が原点にあり、動物の命を奪う食事は拒否する=完全ベジタリアンになる…という図式です。
肉はもちろん、肉加工品、魚介類、卵、乳製品、はちみつも食べられないものです。
代わりに、豆乳や大豆タンパクを多用します。
徹底してくると、動物製品に一切触れない(革靴や毛糸製品などもダメ)タイプや、植物も命を奪わないで果実のようなものだけを食べる(根を食べる大根や芋などは不可)タイプもいるようですが、食事以外はこだわりが少なく、毛糸製品や羽毛布団を使うタイプが一般的なようです。
生き方の問題ですから、思想的な行動であり、流行としてちょっとかじるというものではないと感じますし、ましてや、がん治療のための食事療法として適しているとは思えません。
糖質が不安な方は「ビーガン的糖質抜きのデザート」が最適だと思われるかもしれませんが、そういうつまみ食い的な食べ方ならば、たまには良いのかもしれませんね。
ただ、植物性ならば良いと、植物性油で揚げたポテトチップスやスナック菓子を大量に食べる方がいて「ジャンクフードベジタリアン」と言うそうですが、これでは健康をそこねる食事になってしまいます。
本物のビーガン食は、栄養バランスを考えてバラエティ豊かに作られますが、サラダ三昧食などで雰囲気だけ真似をすると、栄養失調へと繋がりかねない食事法です。
断食などの食事療法もありますが、どんな食事療法であっても、それを行う人の体質や体調との相性や、実施期間の適正や、その内容の栄養的合理性が問題になります。
素人判断で、雰囲気だけで行う食事療法は、デメリットの方が大きくなることが少なくありません。
がんの自己治癒のために極端な玄米菜食を何年も続けて、それが原因で極度の栄養失調に陥って、本人が気付いた時には手遅れで太れず、がんが爆発的に増殖してしまった方もいます。
食事療法は、がん治療で体が衰弱している時は、偏りがない食事を心がけて自己治癒力を高め、体調が良くなってからの再発防止期には、自分にあった適切な正しい食事療法を取り入れることが大切なのではと感じています。
安易な食事療法で、自らの生命力をそぎ落とすようなことがないように、一人一人が注意をしたい問題ですね。