死に至るような増殖の速いがんでは、スクリーニングで見つかる段階(1グラム程度)から数ヶ月で末期がん(数100グラム程度)に進行します。
理論的には、毎月検診を受けて1〜2ヶ月で倍に成長するようながんを見つけて早期治療を行えば、早期発見・早期治療の効果はでるかもしれません。
しかし、検診の回数を増やすことは放射線被爆や費用対効果の観点からデメリットが増えます。
がん検診に過剰の期待を持つこと自体が間違いだと理解する方が正しいと思います。
偶然に進行の速いがんが検診で見つかって助かる場合もありますが、それほど多くはありません。
放射線被爆や費用やその他の有害性を理解しておく必要があります。
検診には対策型検診と任意型検診の2種類があります。
対策型検診は、ある集団全体の死亡率を下げるために行われるもので、市区町村が老人保健事業で行っている集団検診(例えば住民検診や職域検診)が対策型検診にあたります。公的な補助金が出るので、無料か自己負担が少額ですみます。
任意型検診は、個人が自分の死亡リスクを下げるために受けるものです。人間ドックがその代表例です。
健康保険組合から補助金が出ることがありますが、基本的に全額自己負担のため、集団検診に比べて自己負担の金額は多くなります。
基本的な検診内容の種類や料金、オプションで選べる検査の種類は、医療機関によって異なります。
わが国の「がん対策基本法」によれば、「国民の責務」として「必要に応じ、がん検診を受けるよう努める」ことになっています(第六条)。
また、国及び地方公共団体は「がん検診の受診率の向上に資するよう、がん検診に関する普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする」となっています(第十四条)。
がん検診を受けることが「国民の責務」であり、国および地方自治体は「がん検診を普及させる責任がある」というこの法律は、医学的および科学的に明らかに間違いです。
最近の医学的エビデンスに基づけば、不要ながん検診は受けない方が良く、一部の高リスク群にエビデンスに基づいた検診を行うように検診の対象者を限定するべきです。
国立がん研究センターのサイトをみると、「がん検診の有効性」については詳しく解説されていますが、がん検診の有害性についてはほとんど言及されていません。
国立がん研究センターのがん情報サービスの「肺がん検診の不利益」については、「不利益としては、胸部X線検査による被曝が問題となり得ますが、人体への影響は極めて小さいと考えられています。
ほかには、偽陰性(検査での肺がんの見逃し、中間期がん)によるがん発見の遅れと、偽陽性(本当は病変がないのに精密検査が必要と判定されること)による精神的苦痛、および精密検査に伴う肉体的苦痛・偶発症が挙げられます。」と簡単に述べられていますが、それがどの程度なのかを解説しなければ意味がありません。
最近のランダム化比較試験の結果から、がん検診の有害性はかなり大きく、早期発見の有益性を相殺している可能性が指摘されています。
私は1年に一回、胸部エックス線検査を受けています。結核予防法による職場検診で、結核が無いことを保健所に通知する義務があるためです。
日本の職場検診での胸部エックス線検査による結核の発見率は10万人当たり7人程度と言われています。0.007%になります。ドイツや英国で健康診断を正当化できないと判断する発見率(0.02〜0.04%)を大きく下回っています。
そして問題は、54人の結核患者を見つけるために、放射線被爆によって1人が肺がんになると計算されています。
何ら症状がなくて、胸部エックス線検査を受けることに非常に抵抗を感じていますが、検診を行わないと保健所から催促の通知(手紙)が来るので、仕方なく検診を受けています。
3年前の胸部エックス線検査で「右下肺野に異常の疑い(結節影)があります」という結果が出て、CT検査を受けるように通知を受けました。
「がんの疑いがある」という通知です。
しかし、その通知は無視し、翌年は別の病院で胸部エックス線検査を受けました。
病院を代えたのは、CT検査を受けるようにと言う指示を無視したことを咎められるのを避けるためです。
その後2回(2年間)の胸部エックス線検査では異常は指摘されていません。
「異常の疑い」くらいでCT検査を受けてもCT検査の有害性の方が高いと「医学的」に判断したからです。
CT検査は胸部エックス線検査の100倍以上の放射線被爆があるからです。